プロローグ 番外編・コクーンにて
いまや骨董品と言っていいほどの宇宙船が、悲鳴的な軋みを響かせ、塵芥の中を漂っていました。着陸点を探している様でもありましたが、見つけたとしても安定した着地は無理っぽい。でも、とにかく何処かに降りて安全を確保せねば。
しかしついに、船の悲鳴は断末魔の叫びに…。音の無い爆発の中、何とか脱出したポッドが数十飛び出し塵芥と共に漂っています。
「うわっ、何だ。この熱風!」
「これが本当にテストかよ。死人が出るぜ」
ポッドの中は既にオーブン状態。当てにできる推進力は、スーツの横にある歩行補助用ジェットのみ。ナンカ絶望的。しかし、何が出来るかはともかく3人一組で行動する彼らは、仲間を呼び合い無事を確認している様子。中でも超デカく太い声の主がすごい。
「おーい、三十二番、三十三番! 聞こえてるか? 生きてるか? 返事しろ! 返事ナシなら死んだと見なすぞ! 新しくもっといいパーティ組んで安心したいんだ。俺は!(なんだそりゃ?)」
「ザンネーン!! 三十二は生きてるからね。アンタにどこまでも憑いてってやるよ」
威勢よく女性の声が返って来た。
「三十三!!! 返事しろ、三十三!」
「返事無いね。どうしたんだろう?」
「三十三!!! 返事しろ、三十三!」
「・・・」
「クッソー!」
「あの子、王様の孫だろ? もしもの事があったらやばいんじゃない」
「うるせーっ。あいつはそう簡単にやられるやつじゃない。返事しろ、三十三!」
「・・・」
「イケメンは早く死ぬのかもねぇ(涙声)。三十一番、あんたデカくてガニ股で、ハゲで、もっさー髭野郎だからよかったね」(どういう意味?)
「てめえ、どさくさに紛れて何言っとんじゃ! くそっ、三十三! 何やってるんだ!」
「・・・」
「三十さ・・・」
「!?」
「・・・お前、いい度胸してんじゃねぇか」
「どうしたの? 三十一」(三十二には全く事態が見えない。)
「このバカ、俺の目の前でプカプカ浮いてるんだよ。Vサインまで出しやがって」
「三十三が? くっくっ…。あの子らしい」
「え? 何? 音声イカれた? なるほど、手話うまいじゃん。で、とりあえず、リーダーの横に移動してきたって?」
「すごい。どうやって移動したの?」
「簡単ですよ。頭でイメージすればいいんです。集中して。で、テレポートできるんです」
三十三と呼ばれた少年は、高温のポッドの中でも涼しい顔で事情を説明。汗ひとつ無く、金色の長い髪も全く乱れず、深いブルーの瞳はちょっと悪戯小僧のそれ。
「お前すごいじゃねぇか。っていうか、使えてるじゃないか!音声!」
「あははははは。僕、そういう先輩好きだなぁ」
「お前に先輩などと言われたくない!」
「また、やられちゃったねぇ。三十一」
「うるせえ」
宇宙の中でも辺境と言われるスターダストの中に秘密の訓練所がありました。名は「コクーン」。隊員の選考基準は不明でしたが、居並ぶメンバーを見ると単純な選び方じゃ無いのは明白。
彼らは、凶悪に成長してしまった“地球にいる人類”を宇宙の視点から取り締まる「警察官」として相応しい訓練を重ねていたのです。
で、今の訓練は何だったの?
☆☆☆☆☆
ガラス張りの棺のような箱が百、二百…。ほの暗いフロアに整然と並んでいます。中には一人ずつ人が眠っている様子。
不意にフロアのライトが明るくなると同時に全ての箱が蓋をゆっくり開きました。
「終了です」
無機質な音声が流れると、箱の中の人々は次々と起き上がりました。前出の三十一、三十二、三十三番の箱は隣り合っています。
「先輩って、ホント飲まれやすいんだから」
ブルーの瞳の少年はケラケラ笑っています。
「あ、でも、私もすっかり入りきってたよ。思考だけのトレーニングだなんてぜんぜん覚えてなかった。どうして忘れ無かったの? 三十三は?」
「さぁ、どうしてでしょう」
本当に分からないのか、はぐらかしてるのか。少年は笑顔のまま。
「でも、地球ではこんな緊急事態はないですよ。きっと」
得意のウインクを三十二番に送ると、何故かそれでこの話題は解決。ただ、
「仮想空間でも、コイツに遊ばれるとは納得いかん!!」
約1名がすっきりしないまま、この訓練は終了となりました。