プロローグ その1
時は未来、所は宇宙。…違った。
時は古代、所は宇宙。
とある惑星に一人の男がおりました。
若いわりにはでっぷりと貫禄ある体型で、ちょっぴり小柄。首の後ろには、ふくよかさの象徴、くびれが2本も入っておりました。顔には、アバウトさと大らかさと人懐こい性格が、まんま出ている福々(ふくぶく)しさをたたえ、いつも笑顔の男でありました。
さて、男の父親は超星雲連合評議会の最高位にあり、宇宙の知的生命体を取り仕切る立場にありました。つまり、とりあえず『宇宙の支配者』でございました。彼は、住まいとする星々(ほしぼし)では王であり、男はその第一王子。そのようなご関係上、男は父親から、ご自分の領地(というか領星、というか領星雲)が与えられておりました。(くどいっ!)
ある日、王子がいつものように、ご自分のご領地を視察に回っていましたところ、銀河系の中にひとつ、サファイアに輝く、非常に目に麗しい星を発見されました。
「なんと美しい…」
一目ぼれには躊躇ナシの王子は、早速その地に降り立つと、素晴らしい大自然を堪能されました。海、山、植物、動物…どれも美しい。王子様の瞳はウルウルの絶頂でした。
・・・しかし、王子さまは、ふと、寂しさを感じられたのです。
「会話したい…」
大変残念なことに、王子様は語学のスキルが×でした。動物とのコミュニケーションも×でした。一応、この方も『☆の王子さま』ですが、薔薇などという植物と会話してみようとも考えませんでした。
「なんかイマイチだ…。ふぅ」
深いため息が、惑星全体に響きわたりました。(マジで?)
☆☆☆☆☆
王子様は何気なく、近くに咲いていた薔薇に目を向けました。
「美しい…。なんという美しさだ」
薔薇もちょっぴり自慢気に風にそよいで見せました。
けれど、王子様はクルリと振り返ると、コメカミに手を当てながら去り始めました。他の考え事で、薔薇が更に力いっぱい揺れているのにも気付きません。
「そうだ!」
薔薇はたまらずジャンプしようとしてしまいました。無理なのに・・・。代わりに花びらを数枚落としてしまいました。辺りには良い香りが漂いました。王子様が鼻炎じゃなかったら気付いてもらえたかも…なのに(凹)。
ところで、王子様の名案は、ナント!
「人間をここで育ててみようかな♪」
ということでした。同族からは「亜種」として好かれてはいませんでしたが、王子様にはハムスターにもカクレクマノミにも負けない可愛い生き物でした。さっそく、どこからか調達すると地球に放しました。
そしてこの手の飼い主? の特徴は、つがいを好むということでした。繁殖させる事も育てる楽しみの一つなのでしょう。彼らは少しずつ数を増やして行きました。
さて、王子様はそれぞれに「アダム」「イブ」とか「ナミ」「ナギ」など、ひとしきり楽しみながら名前をつけていきました。彼らとのコミュニケーションの時間は夢のようでした。
特に皆、王子様を中心とし、尊敬と愛を込めて話しかけてくるのがたまりません。完全に王子様中心の世界でした。
恥ずかしながら、故郷では体験のないことでした。「王子」と言えども、平等化が進んだ世界では、「王子」という肩書きや「お金持ち」だけではちやほやされることは無いのです。まして、そんな扱いを求めているなんてことは、恥ずかしいことでした。
ある日王子様は、例の薔薇の近くを通りかかりました。なんと、花びらがだいぶ落ちていました。それに、気持ちの悪い虫もとりついていました。
「ひどいなぁ」
虫が? 薔薇が?
王子様は、速攻で強力殺虫剤を振りまきました。ガーデニングの知識も関心もあまり無かったので…。