仮名リナちゃんのままでいいのか。
「どういうコトなんだ。それ」
「僕の耳ですか?うーん、ちょっと脳をいじってみました」
「ちょっと、って…」
「別に切開しなくてもいいからカンタンですよ。先輩にもやってあげましょうか?」
「丁重にお断りだ」
「奥ゆかしいんですね。意外と」
「ああ、奥ゆかしいんだよ俺は。で、お前の名前は?」
「うーん」
リナちゃん人形は、とぼけた顔で腕を組んでいる。今、考えているのか? まさか決まってないのか?
「とりあえず、ジントニックください」
「また飲むのか。いい加減ひっくり返るぞ」
「ご心配なく。僕のアセトアルデヒド脱水素酵素は100倍活性なので」
恐るべし、仮名リナ。肝臓までいじってるのか?
☆☆☆☆☆
それにしても・・・。
こいつと二人で何が出来るんだ。『地球を守るため』とか『人類を救うため』とか、大層なことを命じられて平成に来たっていうのに…。俺は悲しいぞリナ。相棒から名前も教えられないんだから。
初日から自信喪失だな…。
「いやいや、そんなことは無いよ」
ふいに新たな男が現れた。ちょっとまて、俺のモノローグになんで返事が返ってくるんだっ!
「あっ、すまんすまん。耳の調整が・・・」
「あんたもかっ!」
にこやかな顔で、店の入り口から真っ直ぐに、俺とリナの前に歩いてきた男は、福々(ふくぶく)しい顔に貫禄のある体型。お茶の湯博士か阿笠野博士とか呼びたい感じの温和な空気を醸し出している。
「いやいやすまんね。うちの息子が迷惑かけてるようで」
「えっ、あっ。息子さんですか。っていうか、そのお父さんですか」
…全然似てないよ。
「いやいやいや、そうなんだよ。ハハハ」
…『いや』?『そう』? どっち?
「いやいやいやいや、まず、これをどうぞ」
と言うと男は、パツンパツンのジャケットから何やら取り出し俺の前に。
これはっ…!
大人のたしなみ『名刺』じゃないかっ! さすが大人&この時代を分かっている。で、お名前は・・・。
「警視総監 …name ケイシー」
安易だ。つーか、
「警視総監!?」