トキノハザマ
「ただいま」
「お帰りなさい、お坊ちゃま。 ・・・って何ですか、それはっ!!!」
執事らしき男は、少年の背にあるものに目を丸くしている様子。
「僕のお持ち帰りです」
「困りましたね。ウチは持ち込み禁止ですよ」
「でしたね。じゃ、玄関の外に置いておこう」
少年は何の躊躇いもなく、クルリと方向転換。
「玄関は、先程掃除したばかり、汚さないでください」
一瞬、少年の背のミノムシモドキに“ピキッと”マークが浮かびました。
「じゃ、ダンボールに入れて公園にでも・・・」
「公徳心までお捨てになるんですかっ!」
“ピキッと”は、限界点を超えたようです。
「おまいりゃぁ〜!何言っつぇりゅんどぅあー!!(おまえら何言ってるんだぁー!!)」
ヘンな布でグルグルに巻かれたモノから、お下品な叫び声が…、続いて中から完全に布を引き裂いた女が現れました。なぜかヒーローポーズ。さなぎマンからイナズマンってカンジ。
「な、何ですか。コレ」
執事らしき男はのけぞりつつ、つい相手をマジマジと見てしまいました。
『人』だと思うけど、緑の髪はまるで意思があるようにユラユラと揺れ、その一本一本からは、怒りと共に小さな(でも鋭そうな)トゲがじわじわっと出てきているではないですか。顔は確かに女性ですが、なんていうかコレ知ってるっていうか、『般若』っぽい表情! めっちゃ怖っ。
もしかして顔を直視すると石になっちゃうアレですか?アレ。ニューバージョンの植物系かなんかの。
『メデューサ!』
何故か、少年と執事らしき男は同時に声を上げてしまいました。しかも、なんと執事は石になっているではありませんか。
「おい!ハザマ!しっかりしろ!何マジで石になってるんだ」
執事らしき男は『ハザマ』という名らしい。
「・・・」
「こら、知らん顔してるとまたバラバラにするぞ」(またバラバラ?)
「ま、まって下さい。流れでついやってしまいました」
ハザマという男、自由に変化できるのだろうか。
「ちょっとあなた達、さっきからどういう事よ。なんでこの人変身できちゃうわけ」
好奇心が怒りに勝ったのか、モトバラの髪は相変わらず緑でしたが、トゲは消えていました。
「わ、メデューサ!」バタリ。
ハザマくん、せっかく戻ったのに。ご丁寧に二度目。
「ふぅ」
少年は特に呆れもせず、またかという顔。それから、にっこりモトバラを見ると、
「ハザマは、僕が時空の狭間に作った隠れ家の管理人なんだ。ここのね」
「ここ、あなたが作ったの? それもジクウノハザマ? ずいぶん難しそうなことなさってるのね。それになんだかその方、ちょっと変わってらっしゃるし」
「ああ、珍しい奴なんだよ。でも、なかなか便利なんだ。身体がバラバラになっても生きてるし」
そう言って、右腕をスポッと抜いて見せた。
「きゃぁぁ、わ、わたし、ホラー関係は苦手です。戻してください。早く」
「そう? 恐がりなメデューサなんだね、君」
「メデューサってなんですか? それがわたしの新しい名ですか?」
モトバラはけっこう本気。
「いや、ちが・・・っていうか、戻らなくなっちゃった。ハザマの腕」
「ええっ!」