じゃんけん
――この世界は間違ってる。
「最初はグー、ジャンケン、ぽん!」
「よし、俺の勝ちだ。だからお前、ランドセル持てよ。」
「ちえっ、ジャンケンで負けたからしょうがない。」
ありふれた小学生の日常風景。
「なんで、じゃんけんで負けたら勝った奴の言うこと聞かなきゃいけないんだ?」
僕がそう口にすると、隣にいたアイは笑う。
「ケンはやっぱり変わってる。そんなのじゃんけんだからでしょ」
――僕がおかしい……のか?
いつも通りの通学路を進み、いつもの中学校に着く。そしていつも通り校門の前には、ゴリラのような体育教師が構えてる。
「じゃんけんに負けた奴はグラウンド三週だ。」
アイはあっさりと教室に向かう。僕はカバンを投げ捨て全力ダッシュだ。
――ちくしょう。
「ケ~ン、今日も朝から御苦労様でーす」
息を切らしながら教室に向かうと、さっそくアイの嘲笑をいただいた。
「目が覚めて、授業に集中できるよ」
「アハハ、嘘ばっか~。そ・れ・に~、ケンは昨日の宿題終ったの? じゃんけんに負けたから倍でしょ?」
僕を見下してケラケラ笑うアイ。
「ふん、別に勉強嫌いじゃない。それに頭が良くなるし」
「この世界、頭が良くても意味ないよ。じゃんけんが強くなきゃ」
じゃんけんは公平で明瞭だ。グーはチョキに勝ってパーに負ける。チョキはパーに勝ってグーに負ける。パーはグーに勝ってチョキに負ける。
各国で、呼び方は違えど、子どもからお年寄りまで誰でもルールは知っている。
――でも、本当に公平なのか?
プロのじゃんけん選手なら、一瞬の構えで素人が何を出すか分かるし、アイのような一般人でも強運の持ち主はいる。
いくらテストで満点を取ろうとも、いくら容姿に気を配っても、じゃんけんが弱かったら負け犬だ。
「いつか俺が総理大臣になって、じゃんけん制度を無くしてやる。」
「無理だよ。総理になるために何回じゃんけんに勝たなきゃいけないと思ってるの?」
「知識と賄賂でなんとかする。」
「バッカじゃない。まー、ケンは人一倍努力してるからね……あ、させられてる?」
アイがバカにするように、僕はじゃんけんがめっぽう弱い。だから何事においても苦労している。
――目の前に好きな人がいても、告白なんて出来ない。
「じゃんけんしよう。可哀想なケンだから、あたしに勝ったら言うこと聞いてあげる~。」
「乗った。ちゃんと言うこと聞けよ?」
「あ〜、ケンってばエッチなこと命令するき?」
――勝ったら告白しよう。まぁ今までアイに勝ったことないけど。
「いくよ~、じゃん・けん・ぽん」
僕はグーを出した。アイは…………、チョキだ!
息を深く吸い込み、『好き』とい言葉を伝えようとしたら――、
「三回勝負ね~、じゃん・けん・ぽん」
「…………。」
結局、二連続で負けて告白は出来なかった。
「やっぱり、ケンってばよわーい。」
「うるさいな~。こんな世界、絶対に間違ってる」
「アハハ、まだ言うの~? ケンが弱い分、あたしが守ってあげるから元気だして。」
「どうせまたバカにするだけだろ。」
――あーあ、じゃんけんのない世界に行きたいな……。