中編
彼女視点で始まります。
私の両親が死んだ。私の目の前で。
3人で一緒に買い物へ行く途中
18歳の無免許運転による暴走車に引き殺されたんだ。
父と母は私を守るため私を突飛ばし、両親は電柱と車に挟まれ死んでいった。
この世界は残酷で死人にくちなしと
加害者の家族は18歳の息子を守るため、私の父と母を悪者にしようとした。道路に飛び出して来たんだと・・・
そんなことありえないのに、当事者の私が何度も主張しても聞き入れてもらえなかった。
18歳の若さで起こしてしまった事件に、
検事や裁判官も18歳の少年の罪が軽くなるように働きかけた。
後からわかった事だが18歳の少年の父親は警察幹部だったそうだ。
憎い・・・憎い・・・くやしい・・・
諦めにも似た感情が心を押し潰していく。
両親は駆け落ち同然の結婚で親族はいなかった。
誰も引き取り手もなかった私は、15歳の春ひとりぼっちとなった。
世界が憎い
なぜ自分の両親がこんなめに
なぜ、なぜ、なぜ、
何度問いかけても答えはでなかった。
空虚を見つめ、砂浜を踏みしめながら
私は父と母が残した海の家へと帰って来た。
父と母は保険に入っていたらしく私は莫大な保険金を手に入れ、
生活するのに問題はなかった。
海の家の扉を開けると、懐かしい香りがした。
今日から私は海の家で生活をする。
家族3人で住んでいた部屋は一人ではとても広く、静まり返った部屋で私は一人泣いた。
寂しい 寂しい 寂しい・・・
今まで母がやっていた料理や洗濯、掃除を覚えながら、
今まで父が稼いでくれていた収入がなくなり、
高校へも進学せずアルバイトをし生活を送っていた。
なるべく保険金には手をつけないように暮らそうと決めていた。
慌ただしく日常が過ぎていきようやく一人の生活慣れてきた頃のことだった。
「今日は満月か・・・」
空を見上げ、夏の潮の匂いを感じながら私は海辺をただただ歩いていた。
ふと波打ち際に黒い影を見つけた。
なんだろう・・・
少し近づくと海辺に人影を見つけた。
目を凝らしてその人影を確認すると、
漫画に出てくる王子さまのようなかっこうをし、
あきらかに日本人ではない彫りの深いルビーのような深紅の瞳をこちらに向け、彼の美しいプラチナの髪が月明かりに照らされていた。
イケメンだ。彼はこちらに気がつき視線が絡み合う。
私が彼に見とれていると、突然彼が倒れた。
ドサッ
「ちょっ 大丈夫?どうしたの?」
慌てて彼の元へ駆け寄った。
彼から返事はない。パチパチと頬を叩いてみるが反応がない。
どうしたものか、ここに放置していく訳にもいかず、
私は砂浜の上を引きずりながら彼を自分の家へと運んでいった。
汗だくになりながら、ようやく海の家へとたどり着いた。
彼をベットへ引きずり布団を掛けた。
疲れた・・・
私は砂まみれになった自分をシャワーで洗い流しソファーで眠った。
チュンチュン
朝日が差し込み私は目を覚ました。
ソファーで寝たから体が痛い・・・大きく背伸びをし視線をベットへ移すと、昨晩もってかえってきた彼が、じっと窓の外を眺めていた。朝日が照らされる彼の姿はまるで美しい一枚絵画のようだった。
イケメンはなにやっても絵になるなぁ
私が起きた事にきがついた彼は慌てたように私の前にきて
「助けて頂きありがとうございます。」
と丁寧な礼を見せた。
日本語うまいなぁ、そんな事を考えていた。
「体調は大丈夫?私はマリエ、宜しくね。」
彼は大丈夫と笑顔で答える。
眩しい笑顔に見惚れる。
イケメンの破壊力は凄まじい・・・
「ところで、ここはどこでしょうか?」
話を聞いていくと
彼は自分の名前も、どこからきたのかも、なぜここにいるのかも、何もわからないと話した。
呆然と彼の言葉を聞き、ようやく理解した。
彼はまさかの記憶喪失だった。
私は悩んだ末、
記憶喪失の彼を放り出す事もできず、私と彼との共同生活が始まった。
最初は大変だった。
土足で家に入ろうとしたり、家事の一切ができなかった。
部屋の電気やテレビをまじまじと眺め、彼は考え込んだ。
町へでれば道路を走る車に驚き、
トラックを見たときには驚きのあまりひっくかえったのいい思い出だ。
彼は自動ドアやエレベーター、エスカレーターにも興味津々だ。
スーパーに入れば商品の多さに、人の多さに、目を輝かせた。
そんな彼と一緒にいると氷っていた私の心が暖まっていった。
彼と過ごす私の生活はまた慌ただしいものとなっていった。
彼は名前もわからなければ、戸籍もわからない。
顔立ちから考えるにきっと外国の人だろう。
彼に家事を教え、家の事をまかせた私は、せっせとアルバイトでお金をかせいでいた。
数ヶ月たった頃から
彼は少しずつだが、何かの拍子に記憶を取り戻す、彼の故郷の話を私に聞かせてくれた。
彼はお城で暮らしていたらしい、電気ではなく魔術を使い皆生活をおくっていたらしい、この世界にない魔術について詳しく絵を描いて説明してくれた。
ふと西へ沈む夕陽をみたとき、彼は呟いた。
「僕の住んでいた場所では太陽が移動して海に沈む風景は見れなかったんだ」
なんでも彼のいた世界は太陽が動かず、時間がたつと太陽の色が変わって夜になるらしい。
様々なファンタジーにでてきそうな非現実的な話を聞かされ、最初はまったく信じていなかった。
しかし思い出す彼の話があまりにも鮮明で、彼が何かを想うように話す表情を見ていると、私は彼が本当に別の世界からきたんじゃないかと考えるようになっていった。
彼がこの世界の生活が慣れてきたある日
「バイトにいってくるね」
私はいつものようにアルバイトへ出掛けた。
彼はにっこり笑っていってらっしゃいと見送ってくれた。
この頃になると彼は完璧に家事をこなし、家を守るすばらしい奥さん(男だけど)になっていた。
彼はどこに嫁に出してもやっていけるだろな。
いつものようにアルバイト終え家路を辿る。
今日はケーキを買うためいつもとは違う道で、
今日は彼と出会ってからちょうど2年の月日がたったから。
1年目はお互い忙しく祝えなかった、今回こそは彼とお祝いをしようと思い頻発してケーキを買ったんだ。
彼の生まれた日がわからないから、彼との出会いを祝おう事でこの日が特別になればと思う。
彼の喜ぶ顔を想像しながら私はいつもは通らない道を急ぎ足で家に向かった。
その途中私は声をかけられた。
立ち止まり、ゆっくり振り返るとそこには黒いパーカーを深く被った、がたいの良い男がたっていた。
「君の事をずっと見ていたんだ。君が中学生のときから一目ぼれだったんだ。でも僕には話しかける勇気もなく年齢もまったく違う君とどうやって接点をもてばいいかわからなかった。ずっとただ見つめていたんだ。ねぇいつも一緒にいるあの男は誰?君は僕のものになるはずなのに、君の両親を殺して寂しくなった君を慰めて僕の物にしたかったのに・・・どうしてなの?ねぇ・・・?さぁ僕についてきて、君は僕のものなんだから。」
突然腕をとられ私を連れていこうとする。
あまりにも突然の出来事に頭が真っ白になった。
こいつは何を言ってるの?
両親を殺したってどゆうことなの?
狂ってる・・・
私のせいでパパとママは死んだの・・・?
捕まれ腕の力が強くなっていく。
「いやっ」
私はケーキの袋を投げつけた。
助けて、助けて、助けて・・・怖い・・・
「僕は君を傷つけたくないんだ、ねぇ・・・素直についてきてくれないかな?」
ガクガクと体が震える。
どうすれば・・・恐怖のあまり足が動かない。
叫び声を上げようとするが、声もでなくなっていた。
嫌だ嫌だ嫌だ
「触るな」
突然強い力で逆にひっぱられ私は誰かの胸に抱き締められた。
来るのが遅くなってごめんね っと耳元で優しい彼の声が聞こえた。私は彼にしがみつき彼の胸の中で震えていた。
「お前・・・お前がお前が現れてから全てがおかしくなったんだ。いつも一緒にいやがって、僕が彼女を慰めて僕を好きになるはずだったのに、お前の・・・お前のせいだ!!!!!」
その男は胸元からナイフを取り出し彼に向かってきた。
「やめて!!!!!」
彼は私の言葉ににっこりわらって大丈夫と小さく呟き、
向かってくる男を、彼は見えない力で吹き飛ばした。
吹き飛ばされた男は何がおきたかわからずに恐怖の表情を浮かべ一目散に逃げていった。
彼は私を胸にとじ込めたたまま
ただただ私の背中をずっと撫でてくれた。
私のせいで私のパパとママが死んでしまった。
どうしたら、こんな娘でごめんなさい。
あぁどうして私は生きているんだろう。
もう一人はいや・・・・おいて行かないで・・・
ただただ泣く私を彼は何も言わずにずっと抱き締めていてくれた。
そうやって何時間たっただろうか、涙が枯れ、ゆっくり顔をあげると彼は愛しそうに、私の瞼に優しいキスを落とした。
私も彼に答えるように目を瞑り、私たちは深い私口付けを交わした。
泣いていたことも忘れ顔が赤くなる。
「君は僕の為に生きてくれないかな、僕は君を愛しているんだ・・・こんな時に言う僕はずるいかな」
私は首を横にふり、愛しい彼の頬に手を添えた。
「ずっと一緒にいてくれる?私を一人にぼっちにしない?」
「もちろん、約束だ。僕が君を幸せにするよ」
それから彼と恋人になった。
後から彼が教えてくれた話では、彼は私のバイト先からの帰り道に魔術をかけ私を守っていたらしい。夜の一人歩きは危険だからっと。
でもあの日、なかなか私がその道を通らなかったから心配で探しにいったんだって。
君の危険に駆けつける事ができて本当によかった。と彼は微笑みながら私を強く抱き締めてくれた。
私たちは同じ布団で眠るようになった、朝目が覚めると私の頬にキスしずっと一緒にいてくれた。
私を一人にしないように。
恋人になって、毎日が幸せだったんだ。
ある日二人で夕陽を眺めていると、
「実はね、大半の記憶はもう思い出しているんだ。僕の本当の名はグレン、そして僕は自分の意思でこの世界に来たんだ。」
彼の言葉に驚いて肩にもたれ掛かっていた顔をあげた。
彼の赤い瞳が夕陽に照らされてより強く輝いていた。
「僕の国では名前は特別なもので、僕をグレンと呼んでいたのは家族だけだったんだ。」
彼は真剣な表情で私に視線を合わせた。
「君を僕だけの呼び名で呼ばせてくれないかな。」
「もちろん」
私は嬉しく愛しくて満面の笑みで答える。
「マリエだから・・・マリーにしよう。僕の愛しのマリー。この呼び名は僕だけのものだからね」
「うん。グレン大好き」
彼の名前を呼ぶと、彼は顔が赤いのを隠すように私の唇へキスをした。
照れたグレンもかわいいな。
「僕も大好きだよ。マリー」
それから
春には一緒に桜を見て
夏には浴衣を着て祭りにでかけた。
秋には紅葉を眺め
冬には雪の中、てを繋いで歩いたんだ。
季節は巡り出会ってから5年の月日がたっていた。
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最近、彼女の様子がおかしい。
顔色が悪く、よく貧血を起こすようになった。
彼女は笑顔で何でもないと答えるが5年も一緒にいればわかる。
体調が悪いのだろうか。
病院へ連れていったがどこにも異常がない。
でも彼女の体調が日に日に悪化していった。
なぜだろう、悪い予感する。
そんなある日、
この世界にあるはずのない魔力が
突然彼女を覆いつくし、彼女の意識がなくなった。
明日完結予定。