朝陽門の守護者
「目的の門?じゃあ、朝陽門」
リンユーは試しにそう言ってみた。
すると、水晶は、
「了解デス、朝陽門ノ守護者ノ居場所確認中……30キロ先、北東ノ方角ニイマス」
水晶はまるでカーナビの音声ガイダンスを彷彿とさせる声でそう言った。
「北東を30キロ?中華街より外に出ちゃうんじゃない?」
とリンユー。
「うーん、今はたまたま中華街を出ているだけなのか、それとも出身が中華街ってだけで、住んでいる場所は違うのかもね」
サモが水晶を覗き込みながら言う。
「こういうのって、魔女とかがよく使うよね」
とソウハがリンユーをチラッと見る。
「誰が魔女よ。それより、もうちょっと正確に割り出せないものかしら。範囲が漠然としすぎてて探しきれないわ」
すると、水晶はこう言った。
「案内ヲ開始シマスカ?」
「案内してくれるの?ますますカーナビね。どうしようかしら?」
「リンユー、チェン爺の頼みだから行ってきなよ。今回は俺とソウハはやることがある」
「やること?」
リンユーがサモに尋ねた。
サモは改まった顔をして、こう言った。
「料理をソウハに教えないといけない。チェン爺が死んじゃったし、厨房は一人じゃ無理だからさ。」
あー、なるほど、とリンユーが納得した。
「そうよね、そっちも重要だもんね。今回は2手に分かれましょうか。そっちは料理の練習で、アタシが守護者を探す」
そういう取り決めになり、サモとソウハは厨房に向かっていった。
リンユーは水晶を持って、外に出た。
「ソノ道ヲ左方向へ進ンデクダサイ」
と水晶が言う。
リンユーは言われた通り左に進む。
中華街の通りをしばらく進むと、門をくぐって道路に面した道に出た。
「ソノ信号ヲ渡ッテクダサイ」
「え、ちょっと待って……」
30キロも離れたところに、この調子で歩いて向かったんじゃ日が暮れる。
リンユーはそう思い、携帯を取り出してある人物のもとに連絡した。
グエンが店で事務作業をしていると、携帯が鳴った。
画面には、「リンちゃん」と文字が表示されている。
慌てて携帯に出る。
「はい、グエンです。どうしたんだい?」
すると携帯の向こうから声がする。
「あ、ハゲ?今すぐ車出して欲しいんだけど」
「え、今かい?」
ちょっと困った様子でそう答えたが、
「ふーん。じゃあもう二度と電話しないわ」
とぶっきらぼうな返事が帰って来た。
「そ、そんな……今行くから待ってて!」
と急いで店を飛び出した。
グエンがセダンに乗って、リンユーのもとにやって来た。
「お待たせ」
リンユーが後ろに乗り込み、水晶を差し出した。
「このナビに従って道を進んで。アタシは寝てるから、着いたら起こしてね」
急に水晶を手渡されて、困惑の色を見せたグエンはこう質問する。
「え、どこに向かうんだい?」
リンユーはさも当たり前のようにこう答えた。
「そんなの知らないわよ」
水晶が案内を開始した。
みなとみらいから高速道路に乗り入れそのまま北上し、湾岸線を進む。
道はすいており、30分で目的の場所に到着した。
「着いたよ」
そこには、球体が特徴的な建物、「フジサンテレビ」が眼前にあった。
「ここって、フジサンテレビよね?」
ナビの案内では、フジサンテレビの建物内に入るようになっている。
「まさか、守護者ってアナウンサーなの?」
そんなことを考える。
「俺はどうしたらいい?」
車は路肩に止めていて、もしフジサンテレビに行くならコインパーキングで待っているとのことだった。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
と言って、リンユーはフジサンテレビの方に向かっていった。
見学料を払い、エスカレーターを上っていく。
水晶は、
「ソノ道ヲ右ニ曲ガッテクダサイ」
と指示を出し、リンユーがそれに沿って進む。
建物内に入り、細い通路を進む。
その通路の脇には、ガラスのケースに入った人気バラエティ番組のアイテムなどが展示されている。
「めさイケ」などのグッズも置いてあり、思わず見てしまう。
「へえ~、初めて来たけど、結構面白いわね」
道なりに進むと、スタジオを覗ける場所に到着した。
ちょうど見下ろす形でスタジオが覗けるようになっている。
「目的地付近ニ到着シマシタ」
と水晶が案内を終了した。
スタジオでは収録が行われている。
カーテンが閉まっていてよく確認することはできないが、恐らくあの中に守護者がいるに違いない。
「客席にいる人かしら。それとも出演者?」
このままでは候補が多すぎるため、しばらく待つことにした。
番組の収録が終わって出演者が動けば、ナビも案内を再開するはずである。
「一旦外で待ちましょう」
そう思い、車に戻って行った。
コインパーキングでしばらく待っていると、ナビが再び案内を開始した。
「守護者ガ移動シマシタ」
もし番組を見学している客なら、そのまま建物から出てくるはず。
出演者なら、地下の駐車場から車で移動する確率が高い。
20分ほど経過した時だった。
一台のリムジンが道路を通過した。
「守護者ガ移動シマシタ。道路ヲ左ニ移動シ、前方ノ車ヲ追跡シテクダサイ」
「えっ」
そのリムジンに乗っている者こそ、今回探している朝陽門の守護者であった。
ゴール地点が定まらないまま投降w