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中華街ウォーズ  作者: oga
10/11

マツコの知らない領域

帰りの車の中で、グエンがこんなことを切り出した。

「ちょっと考えてたんだ。リンちゃんに何かしてあげられないかって。やっぱり、うちの傘下に入らないかい?家庭菜店っていう名前だけは残して、そうすれば食材の提供もできるし、プロの料理人だって使える」

後部座席で外の景色を眺めていたリンユーは、

「遠慮しとくわ。今サモとソウハはやる気になってる。アタシたち兄弟で切り盛りすることに意味があるのよ」

と言った。

そうだ、とグエンは思い出した。

兄弟で料理屋をやること自体に意味があるのだ。

グエンもようやく気付き始めていた。

もし自分がリンちゃんと一緒に料理屋ができたら、もし成功しなくても楽しいに違いないのだ。

「きっと、そっちの方が楽しいな」

グエンはそうつぶやいた。


店に帰り、しばらくしてテレビ局の人間が家庭菜店にやって来た。

番組の打ち合わせをするためである。

番組の収録は2週間後に決まり、また何度か打ち合わせに来るとのことであった。


それから店も通常通り営業を再開し、また忙しい日が続くと思いきや、今まで店を閉めていたためまた客足が遠のいてしまっていた。

暇な日が続く。

時よりテレビ局の人間が来る以外は、ほとんど何もせずに終わってしまっていた。


その日、リンユーはTVSのスタジオに来ていた。

髪を整え、チャイナ服に身を包む。

「変なこと言ってもスタッフが編集でうまいことしてくれるから大丈夫よ」

とマツコがフォローを入れてくれる。

「……は、はい!」

マツコに声をかけられたことに一瞬気づかず、反応が遅れてしまった。

(こんな緊張するの生まれて初めてかも……)

スタジオのセットも完了し、本番まであとほんの僅か。

「じゃあ、本番入りまーす。10秒前、9、8、7、6、5、4、……」

そこからは黙って指だけをおって3、2、1とカウントした。


「横浜中華街のリン・ユーさんです。どうぞ」

マツコが拍手をし、周りからもパラパラと拍手が上がる。

リンユーは中華街の門のセットをくぐり、中に入った。

「初めまして、よろ、よろしくお願いします」

ガバっとお辞儀をする。

「あなた今噛んだわね?」

「は?い、いえっ、何かっ」

想定外の突っ込みに慌てふためく。

「あなたって結構緊張しいなのね、とにかく座ってちょうだい」

とりあえず座る。

カンペでスタッフが「紹介お願いします!」と合図する。

リンユーはそれをガン見し、

「はい、じゃあ、まずアタシのじょ、じこ、ジコショカイからですね!」

とソファの裏に置いてあったテロップを取り出した。

「アタシは兄弟と一緒に、中華街でお店をやっています。アタシはホール担当です」

と説明する。

「そんなに緊張するのに、接客なんてできるの?」

「えっ!で、できまっす!」

変な日本語が飛び出す。

「もうわかったわ、とにかく進めて頂戴」

ふうーと一息入れて、説明を始める。

「まず、今一押しの中華料理を、マツコさんに食べていただこうかと思います」

そう言って、スタッフが料理を持ってきた。

台車の上にのっているのは、チンジャオロースと思われる料理だ。

それをマツコの目の前に持ってくる。

「見た目は普通のチンジャオロースよね」

「これ、実は味噌で味付けされてるんです」

ニヤリ、と笑みを浮かべマツコに説明する。

「えっ、味噌なの?なんか怪しいわね」

「どうぞ、食べてください」

パクリ、と一口食べる。

「……」

ジロリ、とマツコがリンユーを見つめる。

「次行きましょ」

ハハハ、とスタッフが笑う。


そんなこんなで番組が進んでいき、とうとう最後になった。

「次は、今一押しのお店の紹介です」

リンユーがそう言うと、モニターに中華街の風景と、店が映し出された。

「これが、アタシと兄弟でやってる家庭菜店と言う店です」

そこには兄弟が料理をする姿が映し出された。

「アタシたちには両親がいなくて、叔父と一緒に切り盛りしてたんですが、最近死んでしまいました。今経営は苦しいですが、料理には自信があります。もし足を運んできてくださった方の中に、中華街にちなんで、朝陽、朱雀、延平、玄武のどれかの名前の方には、料理を割引させてもらいます」

「いるわけないわよっ、ってか結局あなたの店の紹介じゃないっ」

と突っ込みが入り、番組は終わった。


「マツコさん、ありがとうございました!」

リンユーは帰り際、深く頭を下げた。

「オンエアは1か月後だからね。うまくいくかは分からないけど、他の2人が見つかったら連絡頂戴ね」


それから瞬く間に時は過ぎ、オンエアの日が訪れた。

3人でテレビの前でその時を待った。

「始まるよ!録画できてるよね?」

ソウハが確認する。

「じゃあリンユーの雄姿を見ますか!」

とサモが腕を組んでテレビを見る。

「見てなさい、アタシの雄姿を!」

そして、番組が始まった。

ナレーションが始まる。

「マツコの知らない、中華街の世界」

おおおーーーっと3人で盛り上がる。

リンユーが出てきた。

「じゃあ、アタシのジコ、ジコシュカイからですねっ」

ぎゃはははーっと笑うサモとソウハ。

(カットされてなーーーい)


オンエアの翌日、店には行列ができた。

なんと2人の守護者も現れたのである。

マツコのゲーセンの回はめっちゃ笑ったw

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