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第3章「陰と陽」(11)

 

『陛下を説得してはいただけませぬか』



 透き通る藤色の瞳が、静かにスランザールに注がれる。

 光に滲む一面の窓の向こう、白い露台を囲む瀟洒な(てすり)に数羽の小鳥が舞い降り、しばらく羽を遊ばせていた。

 一羽が飛び立つと、残りも追いかけて青い空に消える。



 エアリディアルはひっそりとした笑みと共に答えた。

 おそらく、スランザールの真意を、エアリディアルは理解していただろう。

 その上で――


『わたくしは、既に一度、陛下にお目通りを頂いているのです』






「エアリディアル様、御覧ください。何て賑やかなのでしょう――こんなに華やいで、とても素晴らしい光景ですわ」

 年若い侍従が思わず沸き立った声をあげ、傍らに控える侍従長に素早くたしなめられる。

 ただ彼女へ向けたエアリディアルの面も、普段より生き生きと輝いていた。

「本当に――街そのものが生きているようですね」

 スランザールはエアリディアルの傍らで、彼女の喜びの透ける頬を見つめた。先日の憂いは今はない。

 スランザールに対して言外に、王の意志を変える事はもはや自分には適わないと、そう告げた。

「――軍部の一般公開が昨日で終わってしまったのが残念です。毎年とても人気でしてな」

「そうですね、そちらも観てみたかったけれど――でもこんなに早く実現してくださった事に、スランザール様には改めて感謝いたします。侍従達もわたくしに合わせて、余り祝祭などを見る機会もありません。本当に有難く思っております」

「勿体ない……このようなお忍びの窮屈な思いをして頂かなければならず、恐縮でございます」

「いいえ。楽しいです。とても」

 スランザールの案内で、ごく数人の侍従達とだけ、一行は目立たないように仕立てられていた。

 差し掛けられた日除けの傘が、エアリディアルの姿を道行く人の眼から上手く隠している。警護の近衛隊士が身に纏うのも軍服ではない。

 視線が向けられても、いずれかの貴族の令嬢が祝祭を見物している、という程にしか思われないだろう。

 エアリディアルはそっと、彼女達の後方に控えるトゥレスへ視線を向けた。

 トゥレスが近衛師団第二大隊の大将に任じられ既に十年近いが、エアリディアルがこうして直に対面したのは初めてだった。

 そもそも基本的に居城を出る事が稀なエアリディアルは、王族を守護する近衛師団といえど、総将アヴァロン以外とは対面する機会が無い。

 居城の控えの廊下で王宮警護官から近衛師団へと警護の任を移管した時、エアリディアルは初めて、トゥレスの瞳を見た。

 一瞬――、身体が震えた。

 そしてそれに気付き、トゥレスは笑ったように見えた。

(――)

 あの時、瞳を見つめた瞬間にエアリディアルの意識に流れ込んで来た『色』。

 不安を覚える色だった。


 トゥレスの視線が自分に流れかけ、エアリディアルは急いで逸らせた。

「エアリディアル様? どうかされましたか」

「いいえ……」

 スランザールにそれを告げるべきなのか、逡巡がある。ただスランザールが今回の警護にトゥレスを指名したのは、トゥレスに対する信頼からなのは確かだ。

 エアリディアルには自分の受けた感覚という根拠しかない。

 そんな不確かなもので、王の任命した近衛師団大将について何を語ると言うのか。

「カザ通りまで参りましょう。色々な出物がございます」

 スランザールの提案に、若い侍従が先に立って通りを歩いて行く。

 本当に大勢の人々が通りを埋めていた。行き交う人々の流れの左右には出店が並び、珍しい品や美味しそうな匂いで彼等の足を止めている。

 家族連れ、友人や恋人同士、歳を重ねた夫婦、子供達――様々だ。

 向こうから、きゃあきゃあと笑い声を上げながら駆けてきた幼い男の子が、石畳の溝に足を取られて転んだ。

 男の子は呆然と身体半分を起こし、それから火が点いたように泣き出した。周囲の大人達が笑みを零し、手を引いて助け起こす。後から追いかけてきた母親は赤くなりながら礼を言い、泣いている男の子を宥めた。

「だから言ったでしょ! 走ると転ぶわよっていうのに走るから。ほら、泣き止んで」

 まだ三つかそこらの男の子は石畳にぺたりとしゃがみこみ、泣き止む気配が無い。

「これに懲りたら走らないの! もう」

 髪を撫でる親も諦め顔だ。エアリディアルも微笑ましくなって男の子の前に腰を屈めた。

 ファルシオンはもうあれほど泣きはしないが、ああして泣いた時期があった。

「驚いてしまったのね」

 エアリディアルの手が髪を撫でると、泣いていた男の子は驚いたように瞳を丸くした。

「痛かった?」

「――だい、じょうぶ」

 まん丸の瞳のまま、それまで涙に濡れていた頬をきゅっと引き締める。

「そう、強い子ね」

 エアリディアルが微笑んで立ち上がると、泣き止まない我が子に困っていた母親はどことなく眩しそうにエアリディアルを眺め、礼を口にした。

「お嬢さん、有難うございます。いつも気を付けなさいって言ってるんですけど――ほら、お姉さんにお礼言いなさい」

「ありがと!」

 言うが早いか、男の子はあっと言う間に、元来た混み合った通りを駆け出した。

「また!」と言いながら母親が追いかける。

 駆けていく先で、一人の男が伸ばした手がひょいと子供を抱き上げた。父親らしく、はしゃぐ男の子に何事か話し掛けると、家族三人揃って人の流れの中に消えていく。

「――」

 エアリディアルは改めて周囲を見回した。

 子供達の楽しげな笑顔、大人達のさざめき、彼等の笑い声。

「今日、来る事ができて、本当に良かった」

 小さな呟きに、スランザールがエアリディアルを見上げる。

 彼等のこうした喜びや、そしてその向こうにある日々の暮らしをいつまでも続けくように維持していく事が、王女としてのエアリディアルの――王家や国の役割だろう。

 それができるからこその王家、国家だ。

「――スランザール様。わたくしはもう一度、陛下とお話をしてみようと思います」

「エアリディアル様」

 光を透かす藤色の瞳に仄見える一国の王女としての意志に、スランザールは半ば感銘すら覚えた。

「私も、及ばずながらその際は、同席させていただければと存じます」

 エアリディアルは微笑み、それからふと通りの先に視線を投げた。

「スランザール様、あれは何でしょう。角の広場に随分大勢の人達が集まっていますが」

 スランザールはエアリディアルの示した方向を見つめ、首を伸ばした。

「あちらでございますか。ふむ、確かに賑わっておりますな」

 スランザールはちらりとトゥレスを振り返った。スランザールの視線を受けて、トゥレスが傍らの部下へ指先で指示する。一名の近衛隊士が人だかりに近寄り、その向こうを確認して戻ってきた。

「大道芸の軽業です」と告げると、エアリディアルは瞳を輝かせた。

「まあ……スランザール様、拝見いたしませんか」

 通りの四つ角を埋めている人の群れの多さにスランザールは束の間躊躇ったが、エアリディアルの普段見る事の無い歳相応に輝いている瞳を見つめ、頷いた。

 その輝きに、やはり殿下の姉君じゃ、と心の内で笑む。

「そうですな、少々窮屈ではございますが、覗いてみましょう」



 既に集まった人垣は流石にくぐれず、通りの建物側に立って人垣越しに眺めるしか無かったが、エアリディアルの立場からすればその方が都合がいい。

 それにこの芸は梯子や台を使い、観客の頭より高い位置で行われていて良く見えた。

 次々に繰り広げられる、滑稽な仕草と卓越した技にその都度歓声が沸き上がる。

 エアリディアルも見上げながら瞳を輝かせる。

 居城に劇団を招く事もあるが、王宮警護官や侍従達がずらりと並んでいて、空気は張り詰めていた。それでもその技に感動をしたが、街中でたくさんの観客の中で見るそれは居城でのものと全く違い、生き生きとしている。

 軽業師が長い梯子を駆け上がる。腕や脚だけを支えにし、空中へと身体を浮かせる。

 一番てっぺんに登り、右腕だけで逆立ちをしてみせた。そのまま身体を横に伸ばしていく。歓声が上がった。

 梯子がぐらりと揺れる。

 観客達の輪から思わず悲鳴が挙がる中、軽業師はおどけて見せながら人垣へと倒れかかった。

 わっと驚いた人垣が揺れる。笑いながら逃げようとした人々が、エアリディアルと、スランザールや侍従長達との間に流れ込んだ。

「! エア……」

 侍従長はさっと口をつぐみ、人垣を見透かした。

 エアリディアルの姿が見つからず、流れ込んだ大勢の人の間を渡るにも渡れず、青ざめてスランザールを振り返る。

 スランザールは人垣が流れた時、トゥレスが素早くエアリディアルと人々との間に入ったのを確認していた。

「安心せえ、トゥレス大将がお側におる」



 トゥレスは人が(なだ)れ込んで来たのを眼にし、彼等との間に身体を割り込ませながら、エアリディアルの肩を抱えるようにして彼女を引き寄せ、すぐ横にあった路地へ逃れた。直後に路地の出口まで人が埋める。

 大通りではすぐに、賑やかな笑いがどっと沸き起こった。狭い路地の上には人の姿は他には無く、通りの賑わいが窓ひとつ隔てるように思える。

「トゥレス大将殿――、もう、大丈夫です」

 抱え込んだ腕の中でエアリディアルが身動ぎ、トゥレスは薄く笑みを浮かべた。

「手を」

 そう促したがトゥレスの腕は肩に回されたまま解く気配も無く、トゥレスは全く違う事を口にした。

「今日は大変な人出ですね。毎年軍部の一般公開が終了すると、街が一杯になるのです。終了の翌日は特にそうです」

「トゥレス大将」

 もう一度促すとトゥレスがようやく肩から腕を離し、エアリディアルは緊張を解いて気付かれないようにそっと息を零した。

 ただまだ、トゥレスのもう一方の手はエアリディアルの左手を捕えたままだ。

 感じていた緊張は漠然とした不安に変わり、エアリディアルはトゥレスの瞳を見上げた。

 あの色――

 トゥレスの向こうにある路地の入り口を見たが、人垣で塞がれたまま、侍従長やスランザールの姿は見えない。

「――大将殿、」

「今日は、レオアリスが護衛ではない事に落胆されたのではないですか」

 思いもかけない言葉にあっけにとられ、エアリディアルはトゥレスを振り仰いだ。

「何を、仰っておいでです」

 トゥレスの言葉の意図が判らず、優し気な眉を寄せる。

「手をお離しなさい」

「そう見る輩がいるのです」

「――何故です」

「貴方は先月の王太子殿下の祝賀の際、彼にお言葉を掛けられたでしょう。階下からお姿が見えました」

「――」

「お気をつけになるべきです」

 エアリディアルは続くトゥレスの言葉を察して、陶器のような頬を強ばらせた。

「ただでさえ彼は王太子殿下と距離が近い……口がさない連中は、何もなくともあれこれと噂しますよ。まあそうすると立場が悪くなるのはレオアリスの方なんですが」

 エアリディアルはトゥレスの言葉を胸の奥で反芻した。そうしながらトゥレスをきっと見つめる。

「……そう言っているのは、貴方ではないのですか」

 トゥレスの両眼が、あの色を湛える。掴んだままのエアリディアルの手を自らの口元に引き寄せた。

 エアリディアルの瞳が僅かに見開かれる。

 トゥレスは誰かに聞かれる事を恐れるように囁いた。

「王女殿下――貴女のお心がレオアリスへ向いているのではないかと――それが私には辛いのです」

「――貴方が何を仰っているのか、わたくしには理解ができません」

 トゥレスは訴えるように告げた。

「私は、貴女に焦がれているのです。エアリディアル様」

 エアリディアルは息を呑んだ。

「ぶ、無礼な――、手を、」

「エアリディアル様」

「――」

 トゥレスを見据えた瞳から動揺が拭い去られる。

 すっと息を吸い込み、エアリディアルは凛として言い放った。

「離れなさい、無礼者!」

 エアリディアルが普段纏う柔らかな春の陽射しに似た空気が、今は向かい合う者を退かせるように強く輝く。

「それ以上言葉を弄する事は許しません。近衛師団大将としての本分を弁えるべきでしょう」

「――」

 トゥレスがエアリディアルを見つめ、手を離す。

 その緩い動きが、より二人の間の空気を張り詰めさせた。

 トゥレスの口元に薄らとした笑みが滲む。

 その場の緊迫した空気を変えたのは、全く関係のない声と足音だった。

「どうやったら大通りに出られるんだ? 王都って」

 エアリディアルがはっとして振り返ると、すぐに路地の奥の角から髭面の男が一人顔を出した。

 二人に気付いて足を止め、トゥレスの向こうを見てほっとしたように息を吐く。

「ああ、すいません、そこから出られますかね、大通り……」

 途中で気まずそうに口の中に消えたのは、その場の張り詰めた空気を感じ取ったからかもしれない。住人ではなく、旅人のような装束だ。

「え、ええ――」

 エアリディアルはにこりと微笑んだ。トゥレスは男から顔を反らし腕を組んでいる。

「少し、混んでいるけれど出られます。わたくしも、もう出ようと思っていたところです」

 柔らかな微笑みとエアリディアルの可憐な姿に男は赤面し、トゥレスへは少し羨むような視線を投げた。

「良かった。いや、すみません。どこもかしこも混んでて、裏路地歩いてたら迷っちゃいまして……着いたばかりで迂闊な事をするべきじゃないですね」

「今日王都へいらしたのですね――。出た所はインゼル通りとカザ通りの角です」

「いや、恐縮です」

 男は首筋をかきながら二人の間を抜け、まだ出口を塞いでいる観客達に、すみません、すみませんと腰を折り声をかけつつ、混み合った通りへ出た。

 エアリディアルを振り返り手招く。

「良かった、もう出れますよ。じゃあ」

 手招きに応じてエアリディアルは急いでトゥレスの傍を離れた。

 賑わう大通りに出てほっとしたとたん、「姫――お嬢様!」と呼ぶ声と共に侍従長が人垣を縫ってエアリディアルに駆け寄り、両手で彼女の左手を取った。

「ああ、ようございました、お姿が見えず心配いたしました――お側を離れ、申し訳ございません」

「マーティンソン夫人」

 そう言った時のエアリディアルのホッとした様子が侍従長には気に掛かったのか、瞳を覗き込むように顔を傾けた。

「いかがされましたか……?」

「――いいえ。心配を掛けました」

「そのような」

「トゥレス。お主がいて良かった」

 スランザールがエアリディアルの後方に立つトゥレスに声を掛ける。

 エアリディアルは一度トゥレスを振り返り、今はスランザールへと向けられている顔を見つめた。

「どう致しましょうか――もう戻られますか」

 侍従長は事情が判らないままに、それでも何かいつもとは違う空気をエアリディアルに感じたようだ。

「いいえ、せっかくですからもう少し」

 微笑んで侍従長の不安を和らげ、エアリディアルは楽しそうな様子で賑わう街を見回した。

 通りを歩き出したエアリディアルの後ろ姿を眺め、トゥレスは口の端に笑みを刷き、すぐにそれを消した。






「ロットバルト様」

 深夜に、書斎の庭に面した硝子戸を叩く音と共に、密やかな硝子越しの声が掛かる。

 燭蝋の灯りの前で書物に眼を通していたロットバルトは立ち上がり硝子戸を開けた。涼しい夜気が流れ込む。

 左隣の敷地に建つ館は灯りが消えている。レオアリスはもう寝たのだろう。

 ただ、明日、西海の使者が要望に対する回答を得に、再び訪れる。それについて想いを馳せているかもしれないとチラリと考えながら、ロットバルトは硝子戸の前の露台に膝を付いている男へ視線を落とした。



「本日の王女殿下が祝祭に御成りあそばした件について、急ぎご報告をと参りました」

 男は書斎の壁際に膝を付き、抑えた声で口を開いた。

「大道芸を御覧の際、王女殿下の前で人垣が乱れ、トゥレス大将の誘導で路地に入られた所でお姿を見失った為、急いで路地裏に回りました。私が近くに着いた時には、王女殿下とトゥレス大将が何事か話している所でした」

「内容は」

「失礼ながら――路地には王女殿下とトゥレス大将のお二人だけでしたが、暫く話を窺わせて頂きました」

 男は燭台の灯りに顔を上げた。

 髭は無くより若く見えるが、昼間、路地の奥から出てきたあの男だ。

 ブロウズという名で、ヴェルナー侯爵家に仕え探索・密使などを主な役割としていた。

「トゥレス大将が、王女殿下と第一大隊大将殿とが、親しいのではないかと(あげつら)う声があると言い、王女殿下に対し、自らの想いを伝えようと」

「想い――?」

 ロットバルトの面に浮かんだのは呆れた色だ。次のブロウズの言葉の方に、蒼い瞳を細める。

「緊迫した御様子でしたので、迷った振りをしてその場に入りました」

「顔を見られたか」

「はい。あの場は止むを得ず――ですがトゥレス大将は顔を背けており、私も少々顔を変えておりました、問題は無いかと」

 ブロウズの言葉にロットバルトは厳しい表情を向けた。

「それは少し甘いだろう。一度その状況で声を掛けた者が次に身近に姿を見せれば、疑念を持つ可能性が高い。お前の能力は残念だが、別の者を付けよう」

「申し訳ございません」

「仕方がない。その場で何事も無かった事が一番の結果だ」

「王女殿下に、護衛は」

「王女殿下が居城から出られる事はほとんど無い。居城におられる限り、再びトゥレス大将が接触する機会はまず無いだろう。その点の懸念は薄い。……しかし――」

 最後の言葉は独り言のように口の中に消え、ロットバルトは揺らぐ燭台の灯りへ瞳を向け、その影を見つめた。

(この滅多には無い状況下で何か動くのかと思っていたが――、心情を伝える? 王女が侍従にでも伝えれば、いかに近衛師団大将とは言え立場を危うくする行為だ。それが本心とは考え難いな)

 危険を冒してまでそうした行為を取る事で、トゥレスが何を狙ったのか。

『王女殿下と第一大隊大将殿とが、親しいのではないかと論う声があると』

(――)

 ロットバルトは職台の影から視線を逸らせた。

 元々トゥレスはあからさまに疑義のある動きをしている訳でもない。

 ただその行動が何らかの意図を持って行われているように感じられると、その点がひっかかり、エアリディアルの警護も兼ねてブロウズを付けた。

 単に穿ちすぎかもしれないが――

「トゥレス大将が言った、『論う声がある』という点、少し王城内の様子を探ってもらいたい。三日後に一度報告を」

「承知致しました」

 立ち上がり、一礼して硝子戸へ向かったブロウズの背に、ふと、ロットバルトの確認の声が掛かる。

「ブロウズ、路地には二人だけだったと言ったな。王女殿下のお傍にはトゥレス大将以外、隊士はいなかったのか」

「はい、おりませんでした」

 ブロウズはその後の言葉を待ったが、ロットバルトが口を開く気配のない事を見て取り、もう一度礼をすると硝子戸を薄く開けて外の闇に消えた。




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