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『挿話』

 


 かつて、まだこの地上の地図が定まらず、また世界を治める王も無い混沌とした時代があった。


 北は黒森ヴィジャ、南に熱砂アルケサス、東は峻険ミストラ山脈に囲まれ閉ざされた広大な大地には名もなく、そして西の海も未だ名を持たなかった。


 大地の覇をかけて幾つもの勢力が統合、分裂しては一時の衰勢を繰り返し、相争い百数十年が費やされた。


 幾重にも屍が重なり絶えず血の染み込んだ大地は、その堆積を吐き出し混乱の時代に終わりを告げるかのように、ある日、同時に二つの力を生んだ。


 やがて二つの力は使命を果たすかのように、あらかじめそうと定められていたかのように台頭し、周囲の吸収統合を繰り返しながら、次第に大きく二つの勢力に分かれていった。


 二つの力が拮抗し勢力が二分される事により、戦いはより熾烈を極めた。


 戦火を受けない地は無く、人々は安住の地を求めて戦火を避け常に彷徨い、耕し手を失った大地は実りを返さなくなった。


 当然の結果として深刻な飢饉が大陸を見舞い、互いの争う力さえ奪い始めた。


 これ以上地が荒れ果て疲弊し命が失われて行くのは本意では無いと、ある時、二つの力は話し合いの元、お互いに領地を公平に分け合う事に決めた。


 一方の力が世界を分ける案を出した。


『ここではないが肥沃で飢える事を知らず、天地及びその狭間、無限とも言える世界と、今目の前に広がる荒れ果て飢えを知り有限、だが陽と風の渡る地と、どちらを欲するか』


『天地四方、飢える事の無い地を私が治める』


『では私は荒れた地を耕そう』


 二つの力はそれぞれ己の血を以って、盟約書に互いの名を記した。



『盟約は成った』



 互いの名の元に、互いの血を以ってしか破られる事の無い盟約により、二つの力は各々の地の王となった。


 一つの力はアレウス王国を建て、荒れた土地を治めた。


 約束の地――西海バルバドスを目の当たりにしたもう一つの力は騙されたと憤るが、血を以って為した盟約は互いの血を以ってしか破棄できない。


 だが彼は自らの胸を裂き、脈打つ心の臓から溢れた血により、盟約書の最後に一文を書き加えた。



 盟約の、期限(おわり)を。



 盟約はその期限を受け入れた。


 一つの力は暗く深いバルバドスへと下り、西海の主となり海皇となった。






 盟約はやがて、終焉を迎える。







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