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第2章「風姿」(10)

「ロットバルト、殿下にあそこまでお伝えする必要があったの? ご心配をおかけするだけじゃ」

 フレイザーは天幕を出るファルシオンと、その護衛を兼ねてアヴァロンへの報告をする為に出たグランスレイを見送ってから、ロットバルトへ視線を向けた。

「必要ですよ。殿下がこの状況を承知されている事で、事後に発生しうる問題に当たる時も説明が通し易くなる。ハンプトン殿や警護官が同席していたのは都合が良かったですね」

「そんなふうに」

 フレイザーの瞳に咎める色を見て、ロットバルトは苦笑を浮かべた。

「ファルシオン殿下はまだ幼いとはいえ、ご自身のお立場を理解された上で、非常に聡く物事の本質を捉えようとされる。加えて殿下はどうしても上将の側に立って発言なさるでしょう。曖昧な返答を差し上げるのは、余計な問題を生むだけです」

 ロットバルトは衣装の上を脱ぎ、掛けてあった本来の軍服を纏った。

「殿下はそうだろうけどお前、さり気なくアルジマール院長のせいにしたろ。要請だとか」

「事実を言ったまでですが。アルジマール院長には戻ったら確実に説明責任を果たしてもらわないと、割りを食うのは上将ですよ」

「あ、結構怒ってる?」

 にやりと笑ったクライフを見て、ロットバルトは短く息を吐いた。

「それなりにね。西方公に関わるのなら、予め陛下の下命という形を取っておきたかった」

「――上将が西方公と戦うと思うかい?」

 ヴィルトールがそう尋ねる。

「呼び出された状況を考えれば、確率は高いでしょう」

「――まあ、そうだよな」



 ずっと黙ってやり取りを聞いていたアスタロトは、ぎゅっと唇を噛み締めた。

 ロットバルトやクライフ達はレオアリスがルシファーに関わる事の方を問題と捉えていて、レオアリス自身についてはそれほど心配はしていない。

 普段ならアスタロトもそうだろう。

 心臓がどくどくと音を立て、全身に血を送り出している。

(何で――あんな事言っちゃったんだろう……)

『ファーを斬るの?』

 聞いてしまった。

(どうしよう――)

 気にしていないかもしれない。もう忘れている可能性だってある。

 忘れていてくれれば

(そんな訳ない)

 レオアリスがそんな事を忘れてしまうはずかない。

(――どうしよう)

「公、申し訳ありませんが、現地の」

 ロットバルトに話しかけられている事にも気付かず、アスタロトは両手を握り締めて俯いていた。アスタロトの様子に気付いてロットバルトが訝しそうに眉を寄せる。

「公――?」

「えっ」

「どうかしましたか」

「な――」

 フレイザーやグランスレイの視線も向いている。

「何でもない」

 ロットバルトはアスタロトの様子を、ただレオアリスの身を案じているのだと捉えたようだ。

「さほど心配はないでしょう、アルジマール院長もいる。ただ状況を把握したい、アルジマール院長には西方第七軍の小隊が付くという事でしたが、ボードヴィルを通じて状況を確認していただけませんか。師団の伝令使を飛ばします。公が一言お口添えを頂ければ話が早い」

「わ、判った」

 アスタロトが頷いた時、慌しく天幕の入り口の布が上がった。

「失礼します」

 隊士ともう一人、灰色の法衣に身を包んだ男が入ってくる。

「クライフ中将、法術士をお連れしました」

「ご苦労さん。ロットバルト、どうすんだ?」

「まずはこの状況で転位の法術が可能かどうかですね。基本的に転位の法術は転位する先の目標物や周辺状況の情報が必要だという事ですが、人物を目標にする事はできますか」

 法術士は「可能だ」と頷いた。かなりの高齢で手足は枯れ木のように細い。やや掠れた声で続けた。

「アルジマール院長ならば追えるだろう。ただ出現地点に法陣がある訳ではないから時間がかかる。すぐに始めよう。ここに法陣を敷いてもいいかね?」

「構いません。渡れる人数は?」

「ろくな準備もしていない、一人か二人が限度だ」

「それだけ?!」

 クライフは眉をしかめた。

「少なくねぇ? 前アルジマール院長は中隊一つでも飛ばせるって言ってたぜ」

「それだけって、クライフ」

 フレイザーがたしなめたが、法術士は気を悪くした様子も無く、淡々と足元に法陣を描き出した。

「それが我々とあの方の違いだ。アルジマール院長には出現地点に法陣が無くても大量輸送が可能だが、通常は法陣が無ければ数人が限度なのだ」

「へぇえ。やっぱ法術院長ってのはすげぇんだな。まあそう言うんなら仕方ねぇ、取り敢えず用意できたら俺を送ってくれよ」

 クライフは半ば感心した口調でそう言うと、法術士を手伝って床に散乱している木箱やら衣装やらを片付け始めた。隊士達も急いで床の上を片付けていく。

 ヴィルトールは落ちていた小道具の盾を拾って、その表面を手の甲で叩いた。

「どうする、ロットバルト。向こうは西方公の風と上将の剣の真っ只中って事もある。何の備えも無くただ渡るってのは考え物だよ」

「そう、問題はそこです。アルジマール院長のいる位置に出てしまう訳ですからね。そこが最も危険な地点と考えるか、最も安全な地点と考えるか――何にせよ状況把握が最優先ですが、二人が限度というのは余りに少ない。正規軍経由の情報を待つべきかもしれないな」

「多分最も危険なのは、上将の傍だよ」

 アスタロトは手を伸ばし、ロットバルトの腕を掴んだ。

「――私が行く!」






 風の音が強い。海から岸壁を吹き上がる風と――、ルシファーが呼ぶ風。

 岸壁を吹き上がる風はルシファーの風に飲まれ、勢いを増していく。

 レオアリスは向かい合って立つルシファーの腕の傷を認め、軽く息を整えるように吐いた。

 ルシファーと視線が合ったあの一瞬、一つの言葉が頭を(よぎ)った。

『ファーを斬るの?』

 そう問われたのは、たった二日前の事だ。

 あの時は答えを出さなかった。これほど早く対峙すると思っていなかった事もある。


『斬るの――?』


 もう一度、今度はゆっくりと、溜めていた息を吐く。

 斬る事は――、考えていない。捕えるつもりでいる。

 ただ、加減をしながら果たして四大公であるルシファーを捕えられるかどうか――油断をすれば風に切り裂かれるのは、確実に自分の方だとも判っている。

 大気が唸りを上げる。ルシファーを中心に動くのを肉眼でさえ見て取る事ができる。

 その圧倒的な質量。

 風がルシファーの剣であり、盾だ。

 捕えるのならまず、あの周りを取り巻く大気を無効化しなくては難しい。

 ルシファーの身体がふわりと浮き上がる。館の屋根の高さまで上がると、ルシファーは眼下を見渡した。

 右手を館へと差し伸べる。指先に細い竜巻が一つ、生まれた。

 生み出された竜巻は上下に伸びながら身体を揺らし、地面から草や土を巻き上げながら館へと一直線に突き進み始めた。

 レオアリスは草の覆う地面を蹴った。剣の纏う青白い光が空と水平線の狭間を割るように流れる。

 館を砕こうと迫る竜巻を瞳に捉えたまま、足元から剣を薙ぐ。

 迸った剣光が竜巻を真っ二つに断った。乾いた砂の塔が崩れる様を思わせ竜巻が崩れる。

 同時に二本、ルシファーとレオアリスとの間に新たな竜巻が立ち上がる。

 レオアリスは左足を踏み込み、それを軸に身体を捻ると、そのまま剣を振り抜いた。

 剣光が竜巻の胴を断ち、生まれたばかりの二つの竜巻が崩れる。

 ルシファーの手から三度(みたび)渦巻きかけた風の塊を、間合いを詰めたレオアリスの剣が三度(みたび)断ち切る。

「!」

 風が砕けた衝撃に半ば押されるように退きながら、ルシファーは右手を振った。生じた風が刃となってレオアリスの喉元へ奔る。

 レオアリスは振り抜いた剣を返し、風の刃を砕いた。

 ルシファーの姿が大気に溶けるように消える。

 レオアリスの視線が追った先、三間ほど離れた上空にルシファーが再び現れた。


「――」

 肩をゆっくり上下させ、ルシファーはレオアリスを見下ろした。これだけ離れていても、剣がすぐ目の前に突き付けられているように思える。

 ただ、あの剣がまだ自分を捉え切れずにいる事に、ルシファーは確信を深くした。

 つい先ほども、レオアリスの剣はルシファーを捉えられていたはずだ。

「本当に甘いのね」

 呟きルシファーは手を胸の前に伸ばした。手のひらの上で大気が凝縮し、渦を巻く。

 今度は竜巻状に長く立ち上がるのではなく、それは馬車の車輪ほどの一枚の円盤状になった。回転により円の縁が鋭利な刃を作り出す。

 いくらでも造り出せ――、いくらでも姿を変える。そして供給源は無限にあった。

 ルシファーは円盤へ、綿埃を吹くように軽く息を吹き掛けた。

 大気の円盤がルシファーの手のひらを飛び出す。レオアリスは剣の柄を軽く握り直した。

 剣が迫る円盤を捕らえようとした瞬間、円盤はレオアリスの手前で急激に向きを変えた。

「! ――退がれ!」

 振り返ったレオアリスの視線の先で、円盤は弧を描きながら正規軍の足元を穿った。正規軍の兵士達が驚き倒れ込む。

 円盤はそのまま草地に長く無残な傷跡を刻み、再びルシファーが伸ばした手のひらの上に戻った。勢いを失う事無く回転し続ける。

 レオアリスは正規軍に被害が無い事を遠目に確認し、ルシファーを見上げた。

(威嚇だけか)

 本気で切り裂くつもりなら、あの一個小隊全てを一度に切り裂ける代物だ。

 ルシファーが正面に差し出した右手に並べるように、左手を伸ばす。左の手のひらの上にもう一つ、大気が回転を始めた。

「これで二つ――でも大したものじゃない、あなたの剣なら砕けるわ。――アルジマールと正規軍と、どちらを守る?」

「――意外と悪趣味なんだな」

 ルシファーはくすりと笑った。

「ユージュも守らなきゃね」

 レオアリスは瞳を細めた。

 ルシファーとの間には距離があり、一刀の間合いに詰めるには、跳躍だけでは足りない。

「選んでいいわよ」

「――」

 レオアリスは短く、低く呟いた。

「何?」

 聞き取れずにルシファーが首を傾げたその時、レオアリスの前に光る法陣が浮かんだ。

 次の瞬間レオアリスは膝を屈め、地面を蹴って跳んだ。

 同時に跳躍を追って突風が巻き起こり、その勢いを利用して一息に間合いを詰める。

 中空で身体を捻り振り下ろされた剣が二つの円盤を砕く。衝撃にルシファーは僅かによろめき、そうしながら驚いて暁の瞳を見開いた。

「法術――アルジマール、いえ――」

 レオアリスの二太刀目がルシファーの身体を取り巻く風の盾に阻まれ、額の目前で止まる。

 ルシファーは正面の白刃の縁に額を付けるように、ぐいと顎を上げた。

「あなたの風ね」

 レオアリスが剣士として覚醒する前に得意としていた法術だ。

「いつだったか、アスタロトが話してくれたわ――とても楽しそうに」

 青白い刀身越しに、暁の瞳が漆黒のそれを覗き込む。自分を切り裂こうとする刃など無いように、くすくすと軽やかな笑い声が転がった。

「風の(わたし)相手にいい度胸ね。でもあなたが使うのが風だなんて、嬉しいわ。法術がどこまで通じるか、少し試してみる?」

「もう、大して使えない」

 刃がじり、と風の盾を斬り進む。それに気付いたルシファーは頬を張り詰め、唇を引き結んだ。

 暁の瞳が光を増し、同時に風が勢いを増す。

 レオアリスは瞳を細め、自分の刃を止める風の向こうを見た。

 ルシファーの風は変幻自在で厄介だ。常に身体を取り巻く大気の盾は鉄の盾よりもなお剣を寄せ付けない。

 ただ――、それでも斬れる。

 レオアリスは剣に力を込めかけ、躊躇うようにぐっと奥歯を噛んだ。

 この風を断てば、断った勢いでルシファーの身体をも切り裂く事になる。

『ファーを斬るの?』

 アスタロトがルシファーと話している姿を――、その時のアスタロトの笑顔を、レオアリスも何度か眼にしていた。

 大好きな、姉のような存在なのだと、よく話していた。

『斬るの』

 だがここで剣を引けば、次にこの位置に捉えるまでに、正規軍やアルジマールに何かしらの損害が出るだろう。

「――ッ」

 レオアリスの剣が風の膜を断ち、ルシファーの身を取り巻いていた風が四散した。暁の瞳が剣を映して見開かれる。

 ルシファーの額へ叩きつけられる剣が――

 掻き消えた。

 レオアリスはそのまま空の手を伸ばし、ルシファーの喉元を捕えた。二人の身体が草の中に落ちる。

 眺めていたヒースウッドは思わず身を乗り出した。「捕えた」という声が兵士の間から上がる。

 ルシファーは草地に仰向けに横たわったまま、右手で自分の喉元を押さえているレオアリスを見上げた。

「何故斬らないの? 斬れたでしょう、今。せっかく終わらせられたのに」

「――」

 そこにある躊躇いを見透かしたように、ルシファーの唇が微かに笑みを(かたど)った。

「私を斬るのに、躊躇う理由でもあるのかしら」

 ルシファーの喉元に当てたレオアリスの右腕に、風が螺旋状に奔る。それを追って肉が裂けた。

「ッ」

 ルシファーの白い腕が上がり、手のひらがレオアリスの胸に添えられる。手のひらに風が渦巻く。

「!」

 背中まで突き抜けるような鈍く重い衝撃と共に、身体が弾かれた。

 骨が軋み、呼吸が止まる。

 数間離れた草地に飛ばされ、レオアリスは膝をつきながらむせた。数拍の後、ようやく呼吸が戻る。

 あばらが折れたかと思ったが、見ればいつの間にか薄い光の膜が身体を覆っている。アルジマールの声がした。

「何やってるんだ君は。普通あそこで剣を消すか? ただ捕えようとしたって無理だよ」

 声だけで姿は無い。

(まだ館か)

「別に斬ったっていいんじゃない?」

 レオアリスは息を吐き、立ち上がった。

「――王の御下命は捕縛だ。あんたがもう少し手伝ってくれりゃ楽なんだけどな」

 アルジマールは束の間黙り、それから「努力する」と言った。

「アルジマールの言うとおりよ」

 耳元で笑いを含んだ声がした。

 レオアリスが飛び退くのと同時に風が地面を穿つ。石くれと青い葉が宙に舞った。

「さっきから何を気にしているのかしら。私を慮ってくれているという訳ではないわね。王――? それとも」

「何も気にしてない、貴方を捕えるのが俺の任務ってだけだ。離反の目的や西海との関わりも聞く必要があるしな」

「目的や西海との関わりねぇ。そんなもの重要? 近衛師団として、今の内に斬っておかないとすぐに後悔する事になるわよ」

 レオアリスは再び剣を引き抜いた。

 敵を斬り裂く前に戻されたのが不満とでも言うように、剣が二度、明滅する。

 実際――、アルジマールが法術を以って捕縛するのを補助するのならともかく、斬る事無くただ捕えようとするには無理があるとレオアリスも解っている。

(――それでも、捕える)

 それが王の下命だ。

 ルシファーがレオアリスと正規軍の中間にふわりと降り立ち、挑発するように両手を広げてみせた。

「抑えた剣でこの私を捕えられるか、やってみればいいわ。私は手加減をするつもりはないけどね」

 首を巡らせ、背後の正規軍へ視線を向ける。

「あなた達も――見てるだけじゃなく、手を出していいのよ」



 ヒースウッドは吸い込んだ空気で肺を膨らませ、ふうっと一気に吐いた。

 ルシファーはヒースウッドに向けてあの言葉を言ったはずだ。

 レオアリスは攻撃の手を止めている。ヒースウッド達が介入する機会は、今以外に無い。

 ケーニッヒと部下達を振り返る。

「我々がただ見ている訳にはいかん。近衛の大将殿に加勢する」

 表向きはそう言った。

 兵士達の反応は二つに分かれていた。ケーニッヒを始め、ヒースウッドの――ルシファーの意を汲んだ同士達と、全く関わっていない兵士達と。

 ただ、正規軍としてこの場を眺めて過ごす訳にはいかないと、その思いは共通していた。兵士達が腰に下げた剣の鞘を叩いて応える。

「西方公の後方に展開する。三班に分かれ、合図と共に矢を放て。西方公の気を散らせればいい」

 通常の矢などルシファーは難なく躱すだろうと、ヒースウッドはそう思った。

 そして、兵士達を傷つけはしないだろうと。

 いずれこの兵士達は、ルシファーの掲げる旗のもとに集うのだ。

 兵士達がそれぞれ弓を手にし、ヒースウッドの指示を待つ。

 ヒースウッドは肺に息を吸い込み、叫んだ。



「大将殿、助勢致します!」

 西方軍の中から、大柄の将校らしき男が大声で呼ばわり、先陣を切って駆け出す。

「助勢?」

 ぎょっとしたのはレオアリスだ。ルシファーの風から少しでも離れるのが良策というこの状況で、およそ小隊の助勢は意味が無い。

「助勢はいい、退け!」

 レオアリスはそう返したが、西方軍の兵士達は既に先ほどの将校の指揮で動き出している。ルシファーの後方、半円状に展開していく西方軍の小隊を確認し、レオアリスはもう一度叫んだ。

「退け! 数で何とかなる相手じゃない!」

「我々は西方第七軍ウィンスター大将より、アルジマール院長の護衛を命ぜられてここに来ました! 大将殿お一人に負わせたとあっては西方軍の名折れとなります!」

「名折れとかそんな問題じゃ」

 ルシファーの口元に笑みが閃くのが見えた。

 ルシファーの左斜め後ろに位置どった西方軍兵士が弓を引き絞り、一斉に放つ。

 ルシファーは振り向かないまま、西方軍へと手をかざした。

 放たれた十数本の矢が、ルシファーの手前でくるりと向きを変える。

 レオアリスは踏み込み、右手の剣を振った。迸る剣風が兵士達に突き立つ寸前で降り注ぐ矢を断つ。

 兵士達は剣風に煽られ、後方の草地に倒れ込んだ。

「距離を詰めすぎだ」

 正規軍はレオアリスの剣の間合いに入り過ぎている。

(師団じゃないのは痛い)

 右側の兵士達が弓を引き絞り、放つ。

 だがそれでは先ほどと同じことだ。

 レオアリスはルシファーの動きを封じようと踏み込みかけたが、ルシファーは今度は飛来する矢を意に介す事無く、右手を正面に掲げた。

 レオアリスの背後、アルジマールのいる館へと。

(まず)い」

 レオアリスは咄嗟に地面を蹴り、館へ走った。

 ルシファーが笑う。

 無数の風の刃が頭上に生じ、正規軍の放った矢ともども、館ではなくレオアリスの上に降り注ぐ。

 駆け出した足を(とど)め、レオアリスは右手の剣を弧を描いて振り抜いた。

 剣が風と矢を断つ。

 霧散し――その向こうに、ルシファーの放った第二波が迫る。

「!」

 屋敷とレオアリスの上へと、細い針状の風が豪雨のように叩きつける。

 アルジマールの張った光の膜を突き抜けた数条の風が、レオアリスの肩や腕、脚を貫いた。





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