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第1章「遠雷2」(1)


 大きな混乱と衝撃とともに過ぎたその三日間を、後にどう呼ぶのか――想いを馳せる間も無いままに夜が明ける。


 その混乱の三日間が明け、新たな朝を迎えた王都にまず示された布告は、この国と西海との開戦を正式に告げるものだった。

 二日前の正午に宣戦布告を行ったとは言え、開戦の響きは王都の住民達にとって俄かには受け入れ難く、街は騒然となった。


 住民達を不安にさせたのは開戦だけではなく、立て続けに起きた幾つもの変動──王の消息不明と、王太子ファルシオンを狙った近衛師団の謀反、そして東方公ベルゼビアの裏切り。

 その後のひと月は、特に王城の官吏達にとっては過ぎる日数を数える暇もなかっただろう。


 第二大隊トゥレスと結託した――正しくは結託しようとしていた貴族達は数日の内に捉えられ、赤の塔に収監された。いずれも東方公寄りのグレンダ子爵及びボーモン男爵だ。

 そしてまた、東方公が所領のヴィルヘルミナに退いた事に伴い、東方公の長老会に属するイェール伯爵とネルソン男爵が、まず東方公支持を表明した。


 十日目、東方公ベルゼビアがヴィルヘルミナの地から、自らを王位継承者の庇護者──即ち、王妃クラウディアと王女エアリディアルの庇護者と称し、国の危急に当たってはまだ幼い王太子ファルシオンではなく王妃を国王として擁するべきと主張すると、ひと月の内にヴィルヘルミナ周辺を中心に、近隣に所領を有する九家もまた、東方公の元に参じた。


 彼等が所有する領地の警備隊は、合わせて一万。

 呼応して、ヴィルヘルミナを所轄する正規軍東方第三大隊が、王妃クラウディアへ旗を捧げる。

 王都はこうした動きを封じる為、正規軍東方第二大隊及び第四から第六大隊、計一万二千を派兵。だが東方将軍ミラーは王妃と王女エアリディアルを懐に収めた東方公に対し、鍔迫り合いを繰り返しつつも決め手となる攻勢を掛けられずにいた。


 そしてまた、王太子ファルシオンが求めた王妃及び王女との『会談』も、ベルゼビアはこれを受け入れなかった。








 風来しの月――五月三日、開戦翌日。

 西の地では泥土に埋もれた水都バージェスを、西海軍およそ八千が占拠し、拠点とした。

 バージェスから一里の控えは初めの三日間ですっかり泥土に姿を変え、その後もじわりとアレウス国内陸へと泥の海を広げた。


 王都はこれに対し、正規軍北方第七大隊を派兵し西海軍の進軍を阻むと同時に、正規軍法術士団及び法術院とで構成した術士三十名を投入する事で、泥地化を一里の控えから更に二里までに(とど)めた。

 次いで北方第四、第五、第六大隊が順次バージェス戦線に到着、第七大隊と併せて計一万二千名に上る布陣を展開する。


 布陣翌日、北方将軍ランドリーは開戦から数えてちょうど二十日目となる二十三日に、竜騎兵及び法術を駆使した重層的な一斉攻撃を仕掛け、二日に渡る激戦の後、一割強の兵を失いながらも西海軍の八割を打ち倒し、残り千六百もバージェス以西、本来の西海の領海まで押し戻す事に成功した。

 それは西海に対し、不可侵条約破棄後初とも言える、圧倒的勝利となった。





 戦況は逐次伝令使により王都にもたらされていたが、この報によりバージェスの奪還は確実かと思われた。

 まずは一つ──


「法術士団を増強し、西海軍を更にイスへ追い込むと共に、泥土と化したバージェス及び一里の控えを回復する」


 国王代理たるファルシオン、内政官房長官ベール、スランザール、正規軍将軍アスタロト、財務院長官ヴェルナー及び地政院長官ランゲ。国事に関する重要事項の決定は、この六者を代表とする場の議論を経て為された。

 議論のもと、王城はバージェス奪還後次に正規軍を注力すべき地を、ボードヴィルに定める。


 王城はこの勝利の機運を活かし、ナジャル及び風竜の存在により膠着状態が続くボードヴィルへ、正規西方軍及び北方軍の内、現状投入が可能な最大の戦力を以って当たり、開戦よりひと月の内にアレウス国の国土より西海軍を完全に撤退させる事を目標とした。



 だが、北方軍勝利の翌二十五日、王都に再びもたらされた一報は、攻勢を加速させようとした足元を覆すものだった。









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