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第4章「遠雷」(6)


 淡い黄金の光が室内を満たす。

 それは王城の地下深くにあるこの部屋の、中央に浮かぶ球体から零れていた。


 支えるもの一つなく浮かぶその輝く球面の奥から、波紋が音も無く、絶えず湧き上がり、黄金の光が丸い表面にさざめきを広げる。

 球体は時折水を想わせ、光を想わせ、地を想わせ、空を想わせる。


 これは恐らく、父王が創ったものだ。

 だからこの場は、まだ、父王の穏やかな温もりに満ちている。

 ファルシオンは長い間じっと、その光を見つめていた。


 湧き上がる色は刻々と移ろい、淡い金から輝く黄金、そしてやがて黄昏色に変わり、そして仄淡い輝きに戻る。


「殿下――」


 促す声にファルシオンは動揺にも似た激しい鼓動を覚え、それを(こら)えてもう一度――、もう一度だけ、()()に視線を向けた。

 瞳を閉じた面がファルシオンに返すものは無く、指先はただ人形のそれのようだ。

 けれど確かにここに居て、呼びかければすぐに、瞳を開けてファルシオンを見るのではないかと思われた。


 ファルシオンは喉を震わせ、だが音になる前にそれを飲み込んだ。

 掌の中に、冷たい石の飾りを握り込む。青い石は今は鈍くくすんでいる。

 それに呼びかける事をファルシオンは躊躇い、けれど縋るように握り込んだ手を額に当てた。


 ずっとここに居たい。

 ここを離れたくない。

 ()()に戻るのは――辛くて、怖い。


 ぎゅっと唇を引き結び、面を上げ、留まろうとする足を引きはがし、ファルシオンは金色の光の揺蕩う部屋から昏い廊下へと出た。

 背後で扉が閉ざされる音が、暗い廊下に鈍い音を響かせる。


 長い廊下を渡り、幾度も階段を上がる。

 永遠に続くのではないかと思われた、最後の階段を上がると、光を滲ませる入口から居城の一角に出る。

 王城北面六階にある、父王の館だ。扉は温室の奥まった一角の壁に組み込まれていた。


 ファルシオンは顔を上げ、六角形の温室の四方に硝子を張り巡らせた壁と、その高い天井を見た。

 それまでの暗い世界はまるで嘘だったかのように、背後に置き去りにされた。

 太陽は既に西に傾き、一日の終わりを告げようとしている。


 枯れた陽射しが、辺りを淡い琥珀色に染めていた。

















      彼方に雷鳴の轟くを見る













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