スノーヴァレット
◇◇◇
「ねぇ・・・レイは知ってる?
この世界の生き物が死んだときにどこにいくのか。」
満月が輝く夜そんなことをきかれた。
もちろん俺は分からなかった。だって死んだことなどなかったから。
少女は笑う泣きそうな声で笑う。
◇◇◇
その国はある大陸の端に位置していた。
誰にも悟られることなくひっそりと、ただ穏やかに
「レイはやくー」
俺の名前を呼ぶこの子の名前はアリアこの国では全員名前しかない。
今、いるところは国を囲うようにある森の中だ。
「おっ、さっそくモンスター発見!!」
そこには、翼の生えた大きな馬がいた。
目付きは鋭くグゥーーと威嚇してきたおそらく繁殖時期なのだろう。
「大地は裂けて新たなる始まりを迎えるだろうクラッシュ」
俺は土の上級魔法を省略して使う。
すると、モンスターの下が崩れはじめる。バランスを崩したのか大きな巨体が傾く
「よくやったレイ。あとは任せて!!」
彼女はそういうと腰にさしてある細剣を目にもとまらぬ早さで抜き
モンスターを切り刻む。
ヒュンッという音が響いたと思ったときには、丁寧にばらされた魔獣が転がっていた。
「よしっ夕食の食料調達完了!!っていうかさっきの何。レイまた新しい魔法完成させたの」
「まぁね。新鮮な肉を傷つけないような魔法がつくりたかったからね~。」
「もうまた勝手に!!段々離されてく気がする・・・」
アリアは薔薇色の頬を膨らまして言う。
でも、俺は知ってるんだからな。お前が毎晩俺に内緒で森に剣術練習に行ってることを。まぁバレてるけど。
切った魔獣に目を向けると骨のところには肉片一つ残らずに切れていた。
「帰ろっか日が暮れてきたし。」
そういえば辺りが少し薄暗い。そんな中、背中にほのかに光を感じる
気になって振り返るとそこには
「きれい・・・」
大きな巨木が立っていた。
ただ、他の木と違ったのは光輝いていた木についた花は白色の光を放ち夜の闇を明るく優しく照らしていた。
「こんな所にこんなものがあったんだな。」
「私知ってるこの木。昔、お婆様が話してくれた。名前は『スノーヴァレット』この時期にしか咲かない花をつける木でそれも何十年に一度しか咲かない花なんだって。」
「そっか。じゃあ、俺達スゲー運が良かったな!!」
帰ると、国のみんなが迎えてくれた。
「おかえりなさい。」
「「ただいま。」」
いつも狩りにいって帰ってくるときに必ず言われる言葉・・・
今日は冬のお祭りだ。次の年の豊穣を願って毎年行われる。
まぁ、俺は料理しか興味がなかったがすると、
「おーい、レイ!」
そいつは会った途端に体当たりしてきた。
だが、普段から魔獣と戦っている俺の足腰は常人を遥かにこえているため逆にそいつは跳ね返された。
「痛てて・・・お前、体どうなってるんだよ。」
「お前がぶつかるのが悪いんだろうカディー。」
こいつの名前はカルディア幼い頃から一緒に遊んできた。
呼びにくい名前からみんなカディーと呼んでいる。
様々な料理が出されるなか一際目立つのが今日俺らが捕まえた
魔獣だ。こんがりと焼かれ外はサクサク中は歯ごたえのある柔らかな肉がつまっている。
「おいし~!!」
「なにこの歯応え!!?」
みんなして喜んで食べた。
そして、最後に命を分けてくれた全ての動物に感謝するために
国民全員で歌とおどりを踊った。
リズムよく笛と太鼓が鳴り響き踊り子の姿をした村の娘たちが
舞台の上で手足を構え踊る。
そんな中、俺が一番目に映ったのはアリアだった。
白色の絹のドレスに身を包み踊る姿は女神そのもので光輝いていた。
「うちの娘よりかわいいかもしれない。」
「かわいい。」
「素敵!!」
「お姉ちゃんきれい!!」
とそれぞれに誉め言葉をかける。
アリアは頬を赤らめた。
それはまるで本当の家族のような関係のようだといえる。
『永遠にこの穏やかな冬が続きますように・・・』
俺は神様なんか信じてないけど今だけはと静かに心の中で願った。
そんな俺の願いを破るかのようにある知らせが届く。
その内容はいわゆる裏切りだった。
最初に入ってきた情報は、
近いうちに隣の大国の王様がこの国を攻めいるというもの。
最初は嘘だと思った。だけど近頃、国の外から妙な音がする。
ただ、この国の存在は他国の誰にだって知られていないはずだった
つまり、住人の中に裏切り者がいるということになる。
「誰なんだろうな裏切り者って。」
カディーが独り言ともとれるような声で呟く。
俺達が今いるところは、国の中にある緑の丘の上だ。行事ように使われるため人はいない。
「この国の住人にいるわけないだろ。」
こんなに優しく家族みたいに接してくれる人達が裏切り者のはずがない。たまたま見つかってしまっただけだ。
「レイお前アリアは好きか?」
「なっ・・・ななっ何言ってんだ!!?」
いきなり何を聞くんだこいつ。
多分俺はその時顔を真っ赤にして固まってたと思う。
「俺はアリアのことが好きだった。」
えっ、今何て言った?
ふとカディーと目があう。
「好きだったんだ。アリアのことが、だからいつもお前たちを見て羨ましいと思ってた。」
そうだったんだ。もしかしていつも感じていた視線はカディーだったのか。
「でも気づいちまった。あぁ、俺じゃこの二人に追いつくことは出来ないって。だから見守ることにした・・・」
「そんなっ!!諦めていいのかよ。
俺だってアリアのことが好きだ。
だからこそ本気でぶつからないお前をみてるのは辛い。
どちらがアリアの心を射止めるか勝負しようぜ。」
「お前がそこまでいうならば分かった。」
けど、その約束はおそらく叶わないだろうな。
俺は今初めてお前に嘘をついた。
ごめんなレイ。お前がアリアを最後まで守ってやってくれ。
◇◇◇
何日かたった日
国を外の大国に売ったと疑われたのはアリアだった。
「お前がばらしたのか‼」
「最低だな。」
「信じてたのに・・・」
口々にアリアを大人たちは罵倒する。
「違います。私じゃありません!!」
「アリアを疑うなんて第一証拠がないじゃないですか。」
俺とアリアは必死で反論したが、やはり子供の戯言としか受け取って貰えないのか全く聞いてはくれなかった。
この間まであんなに優しくしてくれてたのに見捨てるのかよ。
所詮、子供のことより自分達のことか
俺は初めて大人に絶望した。
子供達も最初は一緒に反発していたが日数が経つにつれ減っていった。
アリアが裏切り者と言われ初めてから一週間経った。
そろそろ大国の方もこの国を奪う準備整った頃だろう。
あんな子供の意見を聞かない国なんて滅んでしまえばいいのに。
俺は本気でそう思った。
俺だけはどんなことがあってもお前を・・・
アリアは国からの永久追放という罰を負った。
もちろん俺もついていくと言ったら意外にもすぐ了承が得られた。所詮子供の命なんてどうでもいいんだな。
ついに旅立つ当日近隣の国の地図と最低限の持ち物
武器などを持たされ門の外に出される。
国の人々の目は憐れみ、喜び、悲しみと実に色々あった。
転移魔方陣の前にアリアと俺は連れてかれる。
ここに入ったら最後、強制的に国の外に出される。そしてそこからまた国に戻ることはできない。
アリアは一言も喋らずにそれを受け入れた。
俺がもう一度「いいのか。」とアリアに問いかけると軽く頷く。
長い髪で顔は見えない。
こんな国さっさと出ていってしまうに限る。
心ではそう思っていた。
ただ、足が動かなかった。なんだよ動けよ!!
すると
ドンッ
と背中を強く押された。
そのせいで体が大きく傾き転移魔方陣の中に吸い込まれていく。
誰が強引に押したのか見てみると
「なっ、カディー‼」
そこには涙で顔をぼろぼろにしたカディーが立っていた。
どういうことか近づこうとするも転移魔方陣の結界にはばまれて
しまい動けない。もともとは転移する際に身体全てが魔方陣に入っていないと魔方陣に入ってるところだけが転移されてしまうという恐ろしい自体を防ぐための結界だ。
「どういうことだよ!!?」
すると国を代表する者が
「こんな騙すようなことをしてすまなかった。」
国民全員が涙ながらに俺達を見る。
「私らは最初からアリアを疑ってなどなかったんだ。
これはアリアを大国から守るための策・・・
そして、お前たちをここから逃がすための策でもあった。」
その後言っていたのは
アリアは外でこの国を乗っ取ろうとしている大国である王の血を受け継いでいるのだ。だからこそ真っ先に狙われるだろう。それを家族として止めたかった。
国の上層部だけが知っていた事実。ただ時が来てしまっただけそんなことを言っていた。
そんなっ・・・じゃあ今までのは全て演技・・・
考えてみればアリアを見るみんなの目は
喜び・憐れみ・嬉しいというものばかりだった。
恨みや妬みなど端からなかったんだ。
なのに俺は・・・
「残り数分でお前たちはこの国の外に出られる。
私たちはこの国で最後まで生きることを決意した。」
「出せよ!!俺も戦うから」
必死で結界をこじ開けようとする。
しかし、何百年もの研究によって出来た転移魔法陣の結界がそう簡単に破れる訳がなかった。
自然と顔が熱い頬に水滴が流れるのを感じる。
俺は、いやここにいる全員がここを離れたらもう二度と皆に会えないのが分かったから
「なぁ・・・レイ勝負の件・・・守れよな。」
「お前がいなきゃ・・・守れねぇよ。」
薄々気づいてたのかもしれない。本当はアリアのこと裏切り者だって思ってないかもしれないって。
だけどその事実に目を背けたんだ怖かったんだ。皆がどこか遠くに行ってしまうことに。
「「「レイ・アリア、生きていたらまたどこかで・・・
この国にいてくれてありがとう!!!!」」」
全員が大声で叫ぶアリアも俺も顔はもう涙でぐちゃぐちゃだった。
俺達はただただ先に進むのが怖かったんだ。
自分とアリアの体が薄くなっていくのに気づくもうすぐ他の場所に転移されるのだろう。
でも、もう決心をしなければならない。
皆がそうしたように・・・
アリアも決意したのか先に進む者の目をしていた。
「あぁ、絶対にまた会おう。俺は皆が大好きだ!!」
「私も皆が大好き!!またどこかで」
意識が段々と薄くなっていくのが分かる
それと同時に恐ろしい爆音が辺りに広がったのも
「皆の大切な故郷を守れ!!」
「「おぅ!」」
遠くでそんな声が聞こえた
皆は最後まで笑っていた。
例え叶わぬ願いであろうと俺達は誓ったんだ。また会おうって。




