表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

めだまころりんころころりん

作者: 閑話休題

えろっちい描写とかぐろっちい描写とかあります。苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。

「わたしは両目に眼帯がチャームポイントのしがない逃亡者だよ?」

ぱあん。

今晩の寝床と決めた地方都市のそこそこ大きい運動公園の片隅で、マイ・スウィート・ダンボール・ハウスに潜り込もうとした矢先に全身で正義の味方的オーラを発する美少女にドライバーを突き付けられたので迷いなく懐の旧型ベレッタを抜き眉間に穴を開けてあげた。怪しきは罰せよ。

「……困ったなあ。また寝床を探して歩き回んなくっちゃ」

ダンボールを引きずってのそのそ歩き、近くの神社だかお寺だかの軒の下に潜り込もうとしたら、また声を掛けられた。

「あんなにあっさりと殺さないでくださいっ!!」

振り返るとさっきとそっくりの正義の美少女にドライバーを突き付けられた。お、プラスドライバーだね。

「甦ったの?」

「いいえっ!! 殺された双子の妹のかたきっ!!」

「そんな取って付けたような……」

「てんちゅーっ!!」

結構見事な踏み込みでドライバーを突き刺すA子ちゃん(暫定)。暖かい我がダンボールの尊い犠牲のもと逃げる。胡散臭いことこの上ないので、そーゆーののプロっぽい人に対処を丸投げするべく深夜2時のラブコール。

「もしもし?」

「ぐっもーにんぐあにゃんちゃああああああああん!!!! はああああああああああああああぁぁぁぁぁん! その美声だけで玄米半膳はいけるううううううううううう!!」

「あんたにちゃん付けされたくないなあ」

「そんなドライに否定しないでっ! もっとツンデレっぽく耳を赤く染めて可愛く怒鳴り散らしちゃってっ!! ついでに猫耳犬耳兎耳鹿耳馬耳つけちゃってっ!」

「あと、今は夜だからぐっどいーぶにんぐだねえ」

「スルーの上にちょっと時間差のツッコミ! 萌えたっ! オジサンの事務所が大火事よっ!」

「お願いがひとつ。この人何とかして。方法はなんでもいいよ」

「ああんっ! あにゃんたんラアアアアアアアヴッ!」

「承諾と受け取るよ?」

「報酬はあにゃんたんのコンビニ全裸露出三時間ってコトでっ! 問題ナッシイイイイイイイイイイングッ?!」

「うにゃあ。眼帯着用可?」

「モチのロン! 面前平和断么九一盃口ドラ1丁っ! 満貫!!」

「じゃあそれでいいよ」

「交渉成り」

ぶちっ、つーつーつー。

「あと少し遊ばなくっちゃ、助けは来ないかなあ」

独りごちたら、A子が草むらから飛び出してきた。こっちの武器はベレッタ(残弾2発)と愛用の眼帯×2だけ。着用中のどっかの中学の制服とか両手両足のごっついブレスレットはアクセサリーだから、除外。ん? 足についてる輪っかはブレスレットって言わないよね。なんて言うんだろうか。あ、一個だけ切り札がポケットに入ってた。わーい。

「みつけたあっ!! てんちょーっ!!」

「A子はバイト戦士なの?」

「あたしの名前は天ノ川天秤だっ!!」

A子改め天秤ちゃんが叫んでつっこんできたから、ベレッタぱあんっ。咲いたー、咲いたー、チューリップのはーなーがー。血の池地獄に沈んだ天秤ちゃんを観察しても、初対面のときに額に開けた銃痕がどこにもない。まあいいや、不死身なのかほんとに替え玉双子の妹なのかのどっちかだし。どーでもいいや。

「また寝床探して歩き回るのかあ」

頼りない街燈が寂しそうだったからその下のバス停のベンチに横になろうとしたら、不意打ちでプラスドライバーが飛んできたので迎撃した。みごとに死角を突いてきた。危ないなあ。

「て、てんちゃーっ!!」

比較的気の抜けた掛け声とともに天秤ちゃん三号が道路の向こうから走ってきた。結構速い。でもドライバーなし。なので気楽にレベッタぱあん。天秤ちゃんばたり。そしてムクッ。

「やっぱり甦りなの?」

「聞いて驚け見て笑えっ、防弾チョッキなのだあっ!!」

バッと上着を脱ぎ捨ててサービスシーン。防弾チョッキを見せてくれた。おひねり代わりに空薬莢を投げた。

「いらなーいっ!!」

見事な指弾と化してリターンしてきた。割と全力で避ける。ぎりぎりだよ、まったく。肉弾戦には向いてないんだから。仕方ないので天秤ちゃんに声を掛ける。

「今なんじ?」

「そうねだいたいねっ、二時三十六分だよっ!!」

「ありがと」

「お礼は捕まってからでいいのですっ!!」

「かつ丼はでるよね?」

「出ませんっ!!」

「じゃあ近所で美味しいと噂の『かつ秀』に行こう」

「あたしは別にかつ丼をたべようとしてないのですーっ!!」

「え、かつ丼デートのお誘いじゃないの?」

「かつ丼デートのお誘いじゃありませーんっ!!」

「それじゃあイマドキの女の子は落とせないよ?」

「いつの女の子もかつ丼になびかないことくらい知ってますっ!!」

「ちなみにわたしはてんどんまん派だけど、かつ丼デートはアリだと思うよ?」

「ちなみにあたしはロールパンナちゃん一択ですけど、アリなんですかっ?!」

「アリなの。そしてブラックロールパンナぺろぺろ」

「なあっ!! ぺろぺろするとはっ!! ……許すまじ」

天秤ちゃんがなんか覚醒モードに入りかけたところで袋の小路。ぴーんち。そういえば銃弾も尽きたのだった。絶体絶命のぴーんち。立ち止まって振り返る。天秤ちゃんも間合いを取って立ち止まり、向き合って対峙する。うーにゃー。会話を続行する。

「ベレッタくらえ」

「銃弾は効かないのですよっ!! ……ッ?! うにゅ?!」

銃本体を投げつけてやった。つい、天秤ちゃんの視線は飛んできたレベッタに行ってしまう。ざんねーん。それはフェイクなのだ。そのまま天秤ちゃんの視界をぐちゅっと壊滅させて、とどめ。一方的かつ残虐非道な暴力で天秤ちゃんに今度こそ絶望をプレゼント企画。具体的には落ちてた鉄パイプをぶーんごしゃっ。

スマホで時間を見やるに、ヘルプ到着まであと三分ってとこかな。あと一回くらい復活しそうな気がする。もし天秤ちゃんが不死身なら目の前で頭が半壊してる「この」天秤ちゃんが何事もなかったかのようにむくりと起き上がるはずなので、復活と同時にぶーんごしゃっで無限ループすればオッケー。天秤ちゃんの言うとおり、天秤ちゃんが天秤ちゃん「たち」だったらちょっと面倒。またどこからかプラスドライバーが飛んでくることとなる。

「うーん、『プラス』ドライバーか。たぶんキリスト系列だよなあ。にゃらば、本来の使い方とは違いまくってるけど『護符』が効くかな」

とは言っても一枚しかないけど。文字通り切り札ですなあ。お、いま私うまいこと言った。

「てんちぃーっ!!」

「もはや原型を留めてないとゆーか、意味不明だね」

残念ながら面倒な方。もたれかかってたビルの三階の窓が開いて、私の直上から天秤ちゃん四号が垂直落下してくる。目の前には血の池風呂に入浴中の天秤ちゃん三号の姿がある。はあ。

アクロバットに前転して躱したいところだけど、私にそんな運動神経ないし。素直に左に三歩ほどよけて躱して、天秤ちゃん四号の顔面に裏拳を叩き込む。ヒット。ひるませた隙に鉄パイプを両手持ちして、ホームラン。

ところがガキッて異音がして、ドライバーで受け止められちゃったからファールフライ。走者一掃とはならなかった。物性物理学を鼻で笑うドライバーと、いたってふつうの鉄パイプでしばし鍔迫り合い。とゆーかまた私の勝ちパターンだし。良かった。

「うにゃあ?! またぁ……?!」

急に体幹のブレた天秤ちゃんを蹴りつけて、壁ドンする(ちょっと違うか)。鉄パイプ振りかぶって、半回転。

「……っ?!」

血の池から音もなくゆらありと立ち上がった天秤ちゃんが無音のままプラスドライバーを突き出していて、私はそれを真正面から鉄パイプで迎え撃つ。

ガギュメリ、という異音とともに鉄パイプがくの字に折れてドライバーが右腕を掠める。掠めただけで、メキッ。あーあ、片腕もってがれたな。ってもう動かないしー。動けッ、俺の右腕ェッ! なんちゃって。

とりあえず、詰みそう。二対一とか卑怯だー。逃げるだけならまだしも迎撃は不可。だから逃げる。

「双子のくせに甦るとか、はあ」

こいつはまさかの両方正解パターン。不死身な天秤ちゃんは実は双子とな。双子だと思って安心して死体に背を向けたら甦った死体に刺されちゃう、なかなかどうして初見殺しの体張ったフェイクだねー。

とっとこ走って不死身な天秤ちゃん×2から逃げる逃げる。といっても窓から落ちてきた方の天秤ちゃんはきっと戦闘不能状態なので、逃げるだけなら何とかなりそうですからして。

ひゅん、と投擲されたドライバー。

「なむさんっ」

護符を起動させて、相殺。切り札を切る。本来は魔封じの護符で足止め用なんだけれど、今回はそれを生かして上手い具合にプラスドライバーを封じ込めさせてもらった。二人の天秤ちゃんが一本ずつドライバーを持ってたから、今一本を無効化して残り一本。だけど残念なことに私の側はレベッタも護符も無くなって品切れ、本日は閉店いたします。またのご来店をお待ちしております。だから帰っていーよ、天秤ちゃん。うー、足疲れたー、もー走れないよぅ。なんちゃっててへぺろ。冗談言う元気はあっても、行き止まりじゃあしょーがないよね。

立ち止まる。

「追いつーいたっ!」

「追いつかれて追いつめられて絶体絶命かな」

「ふふふ……!」

下手打ったわけじゃあないんだけど、見事に追いつめられてしまった。はあはあ。残念ながらこれは息切れのはあはあで天秤たんはあはあぺろぺろしてるわけじゃあない。でもせっかくだし天秤たんはあはあはあ。

「あなたの症状、分かったのですよ!」

二人並んだ天秤ちゃんズ。片方は片手を腰にあてて薄い胸を張りプラスドライバーを私に向けてビッと突き出してポーズ。片方はドライバーなしで、目を閉じたまま、手のひらに乗せた二つの目玉でこっちを見ている。こーやってみるとやっぱり美少女だなー。コンビニ露出に付き合わせるというのはどうだろうか? あ、これ名案。

「あなた、『仮病患者』ですねっ! しかも野放しになってる。これはいい報酬が期待できそうなのです!」

二人をこう上手く手錠かなんかで縛って動くと双子美少女がくんずほぐれつする、みたいな。あ、やべ、鼻血が。

「あなたの症状は、眼球を切り離す(・・・・・・・)ことですねっ!! しかも視神経を残したまま! だからあなたは両目を覆ったままで行動できるのです!」

しかしコンビニの店員も嬉しい悲鳴だろーなー。えっろい美少女がいきなり三人も来店するわけだし。しかもいずれは噂が噂を呼んで、集客率にも貢献しちゃう。なんていいお客なんだ、私たち。

「なぜならばっ、あなたの眼球は眼帯の下ではなくて両腕のブレスレットの中にあるのですっ!! だから後ろからだろうが上からだろうが不意打ちに気が付くことが出来たのです! 顔の向きと視界は全く関係なかったのですから!」

集客率をアップさせる画期的な方法として極秘裏に経営陣に売り込んだらどーだろうか? すごい儲かりそう。ん? てゆーか、天秤ちゃんズを剥くならば私が脱ぐ必要ないじゃないか。

「そして、眼球が切り離される、というあなたの『症状』をあたしたちにも『感染』させることで、あたしたちの視界を攪乱させた! 今妹がそうなっているみたいにっ、突然眼球が落っこちる、それがあたしたちが受けた視界攪乱攻撃のしょうたいなのですっ! 目が見えるままってのが余計にやっかいですけど!」

よく考えたら美少女二人も三人も同じようなもんか。じゃあ大人数じゃありがたさが無くなっちゃうんじゃないだろーか、逆に。うん、そーだな。私は、脱がない。ラスボス的に。もう一つ上のステージまで上がっておいで、そしたら相手してあ・げ・る。とか言っちゃうの。ああんっ。

「ですがタネさえわかれば対処は簡単ですっ! 眼球を一点に固定して普段とのズレになれてしまえば! 妹もいつも通りとはいかなくても充分動けますっ! ……にゃは、追いつめたこの状況で2対1! あたしたちのかちですっ!!」

……おめでとう天秤ちゃんズ。大正解と言ってもいい。まあ細部は間違ってるところもあるしそういうのって意外と足を引っ張っちゃうからパーフェクトには程遠いけれど、根本的な部分は間違っていない。根幹は理解できている。故に正解大正解。私との初戦闘で此処まで読み切られたのは初めてかもしれない。私の能力は初見殺しの初回見識殺しが信条だから二戦目以降の勝率ってスゴク悪いわけで。記憶を保持したままの再戦連戦っていう天秤ちゃんズは、ひじょーに相性の悪い相手だったけれど、それもまあ言い訳かなー。

過ぎたるは及ばざるが如し。過ぎてしまったことは仕様が無い。

ってなわけで。

ここからが、舞台の幕開け。

監督・脚本・演出・主演、ぜんぶ私。

対バン張るのが天秤ちゃんズ。

さあさあお立会い。しかと御覧召されよ。なんちって。ちょっとばかり厨二病を開放しなくちゃなんないかもです。

……さて。

私には天秤ちゃんたちを圧倒しうる切り札があるのだ、と。

彼女たちに思い込ませるために、私は全力で猿芝居を始める。

「…………ふははっ」

そう笑って。かつん、と私は一歩前に踏み出す。私に止めを刺そうと飛び出す天秤ちゃんたちの、機先を制する。私は女優。あ、ちょっといい気分。主演女優賞は総ナメかなー。そんなものより天秤ちゃんを舐めたいですにゃあ、私としては。

「その勝ち名乗りはちょっと早いんじゃないかな? ねぇ、そうは思わない天秤ちゃん? あ、そっかそっか。そんなこと微塵も考えないからこんな隙だらけ穴だらけ突込みドコロ過剰供給な宣言したのか。天秤ちゃんてばオンナノコだからねズコボコ突込まれたいのぉ滅茶苦茶に犯されたいのぉって気持ちも分からなくはないよ? だけどゴメンよ私もオンナノコだからさ。突込まれるのはダイスキだけども突込むのはそんなにスキじゃないんだ。うーん、でも天秤ちゃんカワイイから特別に滅茶苦茶にぐちゃぐちゃにしてあげちゃってもいいかな。具体的にはコンビニ露出三時間耐久とかで。くははははっ!」

如何にも思わせぶりに、悪魔の如く鬼の如く竜の如く人間の如く、ラスボスちっくな笑みを浮かべて。ブロードウェイのスターのように、両手を広げて大げさに顔を俯ける。ハハハハッ、と。演出過剰に哄笑してやる。考えさせるな。疑わせるな。気取られるな。総ては私の掌の上で踊れ。なーんちゃって。厨二病フルスロットルでお送りいたしております。

「つまり、天ノ川天秤ちゃん、君、雑魚すぎ」

無警戒に、くるり、と後ろを向く。天秤ちゃんたちに背を向ける。もはや君たちは警戒するまでもない存在だ、と全身全霊で主張する。完全無欠に武装解除した私の姿は、きっと底知れない恐ろしさを想起させるはず。勿論、天秤ちゃんが推察したとおり、私の顔の向きと私の視界の向きとは関連性は無い。

「見習いのハンター風情が私の相手しようなんて百年早いってば。不定期巡回の救急救命士かと思って最初焦っちゃった。賞金稼ぎの分際で、いい気になっちゃって。せめてヤブ医者の一人でも連れてきてもらわないと」

問答無用だった最初の襲撃は低レベルな救急救命士の手口だったから、そうなのだろうとアタリをつけていたんだけど。救急救命士ならば私が『仮病患者』だという情報は大前提として持っているわけで。私が『仮病患者』だろうと推測したことをドヤ顔で語る天秤ちゃんズは、救急救命士などではなくて、深夜に不審人物を見つけたから取敢えず襲い掛かってみただけの雑魚賞金稼ぎだった。ただの無差別レイプ犯だった。そんな雑魚にヤられてしまうのは、私としては避けたい。

「そんで天秤ちゃんはそんな豆鉄砲みたいな当てずっぽうもいいとこの診察を添削してもらわなくちゃね」

「……ッ、なん、あ、あたしたちの診立てが間違ってたとでもいうですかっ!?」

そう、それでいい。激昂させて、でも行動を起こさない、そのギリギリを綱渡りする。空中ブランコする。玉乗りする。冷徹だったハズの思考回路をオーバーヒートさせてあげる。具体的にはサーカスコスってことでウサ耳にハイレグカットを着た私の悩殺ポーズで。あ、このセリフすごいバカっぽい。やー。

「そりゃそう。的外れもいいとこ。だって私の『症状』は」

「……」

「あは、言うと思った? 莫迦だねー言うわけないじゃん、そんなこと」

「……っ!」

今にも私を刺し殺そうと殺気まみれの天秤ちゃん(姉、自称)が辛うじて残ってる理性で私からの反撃を警戒して踏みとどまってる姿とか。

……くぅっ、滾るぅ!

しかも、私からの反撃かっこ虚像かっことじとか!

これ以上ないシチュエーションっ!!

「……はったりじゃないんですか、あなたがまだ出してない能力をもってるなんて!」

両目をつむり、手のひらに2つの眼球を乗せた天秤ちゃん(妹)が冷静なふりをして叫ぶ。でもこの娘の方がキテるなぁ。ああん、濡れちゃう。でもここは煽らないで答える。本当に攻撃されないように。

「持ってるって。能力。能力ってゆーか『症状』だけど。さっきから使ってるのにホントに気付いて無いの?」

「……使ってた、です?」

「そーそー。使ってた使ってた。ほら、最初に天秤ちゃんを迎撃したときとか、あ、二回目の迎撃の時もかな。気付いてるもんだとばかり思ってたからさー。特に隠してたつもりもなかったんだけど?」

「……にゃ? 銃弾に補正を掛ける能力です? いや気配探知の……」

「おねーちゃん! そんなはったりに惑わされないで! 口だけだって!」

勿論至極当然のコトとしてそんな能力使っちゃいないし、まだ出していないヒーローがピンチになると覚醒して習得する的な真の能力なんてものはあるはずもない。

でも、冷静に考える暇なんて与えないよー。

す、と両腕を胸の前に掲げる。天秤ちゃんズが一気に警戒の度合いを高めるのを視認しながら、

「……あはははっ!!」

がちゃぁん!! と。

天秤ちゃんたちが私の両目が収納されていると推理した、両手首についたブレスレットを、叩きつけて粉砕した。

……ように見えるように、音を立てると同時にロックを解除してブレスレットを外した。えへ。

だってさっきの天秤ちゃんの推測どおり、このブレスレットには私の眼球が本当に格納されている。だから壊しちゃうわけにはいかんのです。

もっとも、仕舞ってあるのは、右目だけ。だから、まだセーフ。……ああん。

この綱渡りが快感っ!

唐突に突然に突拍子もなく自分の中の前提条件が破綻する、あの絶望顔がそそるっ!

美少女なら3倍増(当社比)っ!!

……やばい相手が美少女盛り沢山な所為でアドレナリンの出方が半端ないや。いやん。

「なんだっけ? 私の眼球がこの鉄屑の中に入ってる、だっけ?」

「なに、をして……」

「……え、そんな、え?」

「こんなのファッションに決まってんじゃない」

ブレスレット改めファッション鉄屑を無造作に跨いで、何事も無いかのように正面の壁まで歩く。実際のところ、視界が封じられてても普段通りに歩くことなんて、練習すれば誰にでも出来る簡単な技巧だから。片目を瞑った状態でなら、一切合切支障無く滞り無くモーマンタイで歩くことが出来る。

くるっと半回転して壁に寄掛かり、天秤ちゃんズと見つめあう。ときめいちゃうかも。ま、天秤ちゃんズは私の眼球がどこに隠されているのか知らないので視線が合うわけじゃないんだけどね。

私についての想定の大前提を文字通り破壊された天秤ちゃんズは、なかなかどうしてそそられる、呆然とした表情を浮かべていた。

「冥土の土産話にネタ晴らししてあげる」

畳み掛ける。診察は完膚なきまでに誤っていたのだと誤解させる。取敢えずは、それらしい解答を提示して間違いを印象づけるなど。だって、主導権を譲った瞬間に待っているのは私の敗北、具体的に言うと美少女二人に凌辱される未来だから。あ、それはそれでアリかも。いいよー襲ってー。って現在進行形で襲われてるじゃないか。

「私の症状は『共有感覚』。この症状自体は比較的メジャーだと思うけれど。天秤ちゃんも味わったとおり、視覚共有が主体だよ。だから君の襲撃に気付けたし、視覚情報を盗み取って君の焦点がどこに合っているのかって事から君の攻撃の狙いも簡単に読み取れる。無論避けるのは簡単。気付かれないようにぎりぎりで躱すところまでがデフォ」

美少女の呆け顔を拝みながら、即興出鱈目虚構ハリボテの種明かしをすらすらと紡ぐ。あー騙すのって愉しい。癖になる。

「目つぶしは単純に君に他人の視界を押し付けただけだよ。あとは君が視認していない隙にくりっと目玉を抉りだしておしまい。知ってる? ちょっとした外科手術の知識があれば、スプーンひとつで外傷無く綺麗に抉り出せるんだよ。こないだ知り合った『眼球蒐集家』って奴に教わってね。そいつは今頃地獄旅行の真っ最中だけど」

天秤ちゃんズが、だんだんと蒼白になってきた。もうひと押しかなー。

と思ったら、果敢にも天秤ちゃん(姉)が矛盾を指摘してくる。

「め、目玉を抉りぬく必要はないはずです……! だ、だいたい、今私が見ている視界はいったい誰の視界です?!」

ほー。ご明察。ていうか適当論理だからちょっと突込めば矛盾がいっぱい出てくるなあ。

どうやって誤魔化そう。

「よくぞ突込んでくれたね。うん、それは是非とも突込んでほしかった。君が面白い診察を開陳するから、もし私の症状が本当にそうだったとしたら、君の視界は今生きていて手のひらの上に載っている眼球の視界であるはずでしょ? だから、そうなるようにいろいろ手の込んだことをしたんだよ。気付いてくれなかったらどうしようかと思った。私はネタ晴らしがしたくてしょうがないんだ」

ホントにしたくてしょーがないのは時間稼ぎだけど。

壁に寄掛かってた体を無造作に起こし、袋小路の更に端っこへと、ゆったりとのんびりとじっとりと歩を進める。もーそろそろ白馬に載った王子様の登場シーンでまとめに入っていいのよ、ディレクターさん? とすると私の活躍シーンも終盤ってことか。意味もなく中空に向かってカメラ目線を飛ばしてみたり。おまけにウインクを一つ。きらっ☆ ……おっと、瞼が付いてないのを忘れてたぜ。なんつって。

「目玉って上手く刳り貫けば十分くらいなら細胞も死滅せずにそのまま機能するんだよね。だから君の掌の上の眼球と君の脳内の視神経を『共有』させてあげてるわけ。んー、あと数分なら問題なく見えると思うよ? 大丈夫、責任もって私が視界を残してみせよう。視界がだんだん腐敗していくなんて、普通じゃあ体験できないからね。喜んでもいいんじゃないかな。…………まあ」

事態の打開は急展開で前触れも予兆もない。死っていうモノは根本的な属性として不条理で、理解の範疇を常に遥か高くに飛び越えているもんだから。私の『仮病』や天秤ちゃんの『特異体質』みたいに。

「全部が全部、虚言妄言出鱈目の嘘八百だけども」

天秤ちゃんズがイキナリ90度ひっくり返った。出来の悪いCGみたいに空中でうつ伏せになって、そのままべちゃり。そんでぴくりとも動かなくなる。

あっけねー。

流石に戦闘が本職の方は違うね。私がこれまで苦労して逃げ延びてきたのが莫迦らしく思えてくる。

「ごくろーさま。こんな時間に頼んじゃってごめんね」

なんとなくの直感で私から見て左手のビルの屋上に向かって声を掛ける。

「問題は莫い」

「きゃーっ?!」

「此の時間帯の隠密は容易である」

「いきなり真横に表れないでくれないかな。キャラじゃない悲鳴をあげちゃったじゃない。戦闘中にもこんな声出さなかったのに」

「其れは失礼した」

「あんま反省してる声には聞こえないけど」

「感情を表に出さぬよう心掛けている」

「謝罪の意思くらい表にだせよ」

てくてくと歩いて天秤ちゃんズに近づき、自分で壊したブレスレットを回収して装着。良かった、無事だったな私の右目。心配したんだぞ。よしよし。

ついでに天秤ちゃんズを見てみる。あーやっぱり間近で見るとこの子たちかわいいなあ。食べちゃいたいなあ。天秤ちゃんズはぴくりともできないみたいで、プロの仕事を感じる。両目の生きている方の天秤ちゃんが、忘我したふうな目で私を見ていた。

「ねえ無感情忍者。天秤ちゃんズに触ってもいい? あ、そよ風の如きソフトタッチだけにしとくから」

「無感情忍者とやらが某のことで天秤ちゃんズとやらが敵性対象を指すのであるならば、触れる程度ならば問題は莫い」

「やったちゅーしちゃおう」

ちゅー。

お隣にもちゅー。

勝者とは奪い取る者なり。ふふん。美少女の唇は柔かいですにゃあ。

「耳は聞こえるだろうから折角だし一寸ネタバレしてあげる、天秤ちゃんたち。私には天秤ちゃんたちを倒せる武器の類はドライバー吹っ飛ばした護符で全部使い切ってて何もなし。仕方がないから助けを呼んで、誰か来るまで適当なことを喋って時間稼ぎしてたの。それで、あそこに立ってる無感情無礼千万忍者コスプレ男をいま天秤ちゃんズをさくっと倒してくれて、私の勝ちってこと。状況説明は以上。これから君たちは私がヘルプ呼んだお駄賃ってことで知り合いの超ド級変態に売り渡されることとなるけど、まあ、調教が済んだらまた会えるかも」

コンビニで会えることを祈ってるよー。適当に言って、後は無感情無礼千万中二風黒尽くめ痛い系時代錯誤系ニンジャごっこマンに天秤ちゃんズを引き渡して、あとで私が報酬を払えば、今回の件は一件落着これにて終幕。

「じゃああとよろしくねー。私は寝る」

「承知した」

ひさびさの肉体労働でつかれた。ねむい。寝る。

時間も時間だしこれじゃあ起きるのは昼過ぎかも。

って待った寝床もなにもないじゃん私。どうすんだ。

「うにゃー。やっぱ天秤ちゃんについてく。あふたーさーびすってことで私も連れてってくれー。あの変態の事務所の無駄にふかふかふかなソファーで私はねむるんだぁ……」

「……あの事務所で眠れるであるか?」

「ねむねむ」

「……承知」

無感情無礼(中略)NINJAが天秤ちゃんズを回収していくのを横目に、私は天秤ちゃんにも語ることのなかった真の隠されしヒーロー的主人公的すーぱー能力、立ったまま眠る能力を発現した。

おやすみにゃしゃー……。ぐぅ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ