遠山くんと高校生活
ごく普通の高校に通い、ごく普通の生活を送る、ごく普通の高校2年生、遠山勇之輔。家族構成も父、母、姉、俺、と平凡。
もう夏に近いので、基本的にクラスのやつとは会話するが、友達とまでに仲がいい人もいなく、ましてや恋人なんて、彼女いない歴=年齢の俺にとっては夢のまた夢。しかし最近は違う。このレッテルにもう一つ新しい項目が追加された。それは「特殊能力」。特殊能力といっても別に体がゴムのように伸びるわけでもないし、お腹に尾獣を封印しているわけでもない。俺の特殊能力、それは物質を硬くすることだ。別になんでもってわけじゃない・・・「石」限定だ。石を俺の意思で自在に硬くすることができる。え?そんな特殊能力、何の役に立つかって?フッそのとおり教えてやろうこの能力の無駄さを!!
「キーンコーンカーンコーン」
最後の授業の終わりを知らせる鐘が鳴った。
俺は颯爽と帰る準備をし、教室を出た。
冒頭でも説明したように、石を硬くすること以外は平凡だ。しかも俺はこの能力のことをまだ誰にも話していない。別に話せば話した人に危険が及ぶからとかではなく、話すほど親しい友達がいないからだ。
そんなことを自分の脳内で語りつつ、帰り道の河川敷をやや早足になって歩く。
「オッラー!早くカネ出せよオッラー」
低くドスの効いた声が河川敷に響く。
川の近くでうちの1年が同じ1年のDQNにカツアゲされている。
よし!ここでこの力がいかにしょぼいか見せてやる。
そのパターンをいくつか考えた。
パターン①
ここから石を拾い硬くして当てる
パターン②
近くまで行き硬くした石で殴る
まず、パターン①は無理だ。なぜなら、ここからカツアゲ現場まで100m位ある。この筋肉のないひ弱な俺にそんな遠投スキルはない。俺が150キロを超えるジャイロボーラーだったら別だけど。
パターン②も同様。俺がいくら影が薄いからって相手の近くまで忍び寄るスニーキングスキルもない。
わかったか?この能力の無用さが。だがこの力を使わず今の状況を打開する方法がある
それは相手に素手で戦いを挑むことだ。幸い、敵は武器を所持していない。これはぼっちあるあるなんだが、中学の頃あるゲームにはまり、ずっと自分の部屋でCQCの練習をしていた。友達がいないかったから対人戦で使うのは初めてだが、結構自信がある。根拠はないがな。
敵に接近し、物陰から見守る。
実はこの行為はあまり好きじゃない。「カツアゲに夢中になってた俺は後ろから来るもうひとりの男に毒薬を飲まされ、目が覚めると・・・体が縮んでしまった」とか起きたら怖いからだ。
そんなことを考えながらカツアゲを見守る
その時、
「おい!そこで何をしている!」
奥から大きな声を上げて走ってくる
俺の親しい人ランキング、ワースト1位の桜井弘樹だ
別に仲が悪いわけじゃないが、こいつの発するイケメソオーラに人が集まり、いつもグループの中心にいるので、教室の隅っこにいる俺なんかが話しかけていい領域を超えていて一部からはリア王とまで呼ばれている。ちなみに1年の頃も同じクラスだったが、まだ一回も口をきいたことがない。
「あ、ありがとうございます」
「いや当然のことをしたまでだよ」
どうでもいいことを考えていたら、もうDQNは逃げていったようだ
何?こいつイケメンすぎだろ。俺も危うくそっち方面に目覚めるところだった。心なしか助けてもらった1年も顔が赤い。
「あ、あの、な、名前教えてもらってもいいですか?」
人が恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった。
「ああ、いいよ。桜井弘樹だ」
「ありがとうございました」
そう言って1年生は走って帰っていった。
「それで、遠山君はいつまで覗いているんだ?」
「し、知っていたのか?」
「ま、まあね」
「いや、そういうことじゃなくて」
「どういうこと?」
「俺の名前を」
「?・・当たり前じゃないか。去年同じクラスだったろ?」
「ま、まあな」
何こいつ?いいやつにも程があるだろ!俺と一回も会話したことないのになんでこんなに話ができんの?なんでこんな笑顔になれるの?これがリア王の力か。それかこいつ俺に気があるとか。もうそれしかないな
「じゃあ俺、もう帰るから」
「じゃ、じゃあな」
そう言うと桜井は走って帰っていった。
よし!今年の同学年との最高会話時間だ。
いつもの会話といえば
「窓閉めて」
「はいよ」
だけなのに今日はこの200倍は会話した気分だ。
そんなことを考えながら俺はGO HOMEした。