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8、俺様は嫌い

 ヤンヴェルトが振り返って一人ずつ紹介していく。

「彼女は私の妻でビクトリアだ」

 紹介された女性が優しい表情で綺麗にお辞儀した。

 彼女は王様と違い年齢が十歳以上離れているように見えるが、行動の端々から優雅な気品を感じた。

 彼女の髪の毛は金髪でウェーブがかっていて、娘のセシリアが血を引いているのが納得できる綺麗な外見だった。

「その隣が私の息子で第一王子のジルウェル。さあ、勇者殿たちに挨拶しなさい」

 そのヤンヴェルトの姿勢は彩に大きな好感を生んだ。

 思い出せばこの国に来てからこんなに礼儀正しく接してくれたのは、第一王女であるセシリアだけだった気がする。

 何人か召還の間で私に対して尊敬の視線を向けている者はいたが、誰だかわからないし。

「はじめまして、茜様。王子のジルウェル・バン・エバンスです。よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

 茜が不信感を感じたように辛うじて返事をしているのに対して、彩はジルウェルの様子を醒めた目で見つめていた。

 彩はそれとなく王族を観察していて気付いていたのでその態度に驚かない。

 何せ茜が入って来た瞬間から、彼の視線は茜に固定されて動いていなかったのだから。

 ここまでわかりやすく一目惚れしたと気付くと生温い視線しか浮かばない。

 彩自身ジルウェルの様子と言動に、応援するという選択肢は真っ先に除外した。

 当の茜も彩に挨拶をしなかった王子様の態度と熱い視線に辟易しているように見える。

「茜様。この後お時間ありませんか?」

「すみません。姉と今後について話し合いたいので」

 冷たく切り離されたジルウェルの怒りは、理不尽なことに彩に向いた。

 怒りで顔を真っ赤にして彩に言い掛かりをつけ始める。

「おい、愚民。茜様は高尚な方になられたのだ。お前から身の程を弁えて茜様に正しい在り方をお伝えするんだ」

 一瞬何を言われたのかわからなかった茜は呆然として、次いで怒りに顔を真っ赤にした。

「何てこというの!? 最低! 私たちに二度と近付かないで!」

 こちらの世界に来てから初めての“完全な拒絶”と“まるで親の敵を見るような目”に、彩以外の全員が呆然とした。

 いつも人当たりがよくにこにこ笑っていた茜が、例えどんな人間に言われたとしても絶対に許さないのが、“彩を貶めるような言動”だった。

 彩は昔の火事で、一生消えない傷跡が背中に残った。

 そのことを彩は気にしていないし、妹を守り抜いた証だとも思っていたが、茜にとってはその火傷は情けなかった自分を思い出させるようで。

 茜は水泳とかの授業でからかわれたりする彩に、毎回からかった相手をかんかんになって責めていた。

 そうした日の夜は、茜は毎回彩の部屋にきて泣いて謝るのだ。

 『ごめんなさい。ごめんなさい』と。

 その慟哭を、彩を傷物にしたと泣く茜を、慰めて一緒に寝てあげることしかできなかった自分がいつも悔しかった。

 ほら、今だって前を睨んでる茜の足元にはーー。

 そっと後ろから前に回り込んで、彩は茜をギュッと抱き締めた。

 その深い深海のような瞳から涙が溢れて頬を伝わっていた。

 床に落ちた雫が、赤く深い絨毯に染み込まれて色を変えていく。

「茜。私は大丈夫だから。気にしなくていいんだよ」

「でも! 私いつもお姉ちゃんに甘えてばっかりで」

 泣きながら話す茜の言葉を彩は優しく抱き締めて聞いていた。

 自分のバカ息子を止めようとしていた王様はこの事態に付いていけずに困惑気味に固まっていたので、さり気なくアイコンタクトで意志を伝える。

 幸い家族の紹介は終わっていたので、茜が泣き止むまで彩はずっと慰めることができた。

「ひっく、ひっ」

「大丈夫だよ。大丈夫だから」

 彩の優しい声に落ち着いて来た茜に、ずっとそばにいたセシリアが声をかけてきた。

「お二人とも入浴してきませんか?」

 いきなりの提案に二人揃って目をぱちくりする。

 彩に至っては、日本の入浴文化とどこか違うのかと目を輝かせた。

 ファンタジー世界ではよく体を服だけの清めすら入浴に入るのだ。

 お風呂のお湯に浸かるのが大好きな彩と茜にとって、入浴は大きな気分転換だ。

 茜の意識が入浴に大きく傾いたのがわかった。

「お風呂! 入る! お姉ちゃん行こ!」

 一緒に入る気満々な茜は、いつの間にかジルウェルがいなくなっていることに気付かなかった。

 そもそももう二度と視界に入れるつもりなどないからこそ視界に入らない。

 何て考察している間にぐいぐいと腕を引っ張られる。

「って、本当に一緒にはいるの!?」

 驚いて慌てて茜を見ると、晴れやかな笑顔で笑っていた。

「うん。当たり前じゃん」

 年相応な姿に拒絶する気もおきなくなった彩は、茜に手を引かれて歩き出した。

「こちらです。どうぞごゆっくり」

 侍女風な女性に声をかけられて、去っていく姿を黙って見送った二人は恐る恐る中へと入った。





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