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5、神子? いいえ、魔術師です

         ☆ ☆ ☆




 その頃、儀式場は混乱に包まれていた。

 彩の体が黒いもやに覆われたと思ったら、黒いドレスのようなワンピースのような服を纏った彩がいて。

 黒いドレスは神の神子“所謂花嫁”ということだ。

 神に誰よりも近しく、だからこそ人間たちの間では、永きに渡り争ってでも手に入れる価値のある存在だった。

 先程まで『生意気な小娘』だの『政治を知らない愚者』だのと罵っていた兵士や魔術師も水を打ったように沈黙が流れていた。

 その沈黙を途絶えさせたのは茜だ。

「わー! お姉ちゃんスッゴく綺麗!」

 目をきらきらさせて姉を見詰める妹に、漸く周りが呪縛から解かれた。

「神子?」

「神子だ!」

「何故今になって」

 てんやわんやの騒ぎにセシリアさえ目を見開いて口を手で覆い呆然と立ち尽くす。

 そして、そんな綺麗な姉を見て感激した茜が、彩に飛びつこうとした瞬間、また変化が起こった。

 周りは「我が国のものだ」と主張し始めていたのでいい頃合いだったのだろう。

 いきなり空間が固まった。

 ここにいる者たちは誰も気付いていないし、誰も知覚することはできない。

 そして時間は遡る。

 彩の服装が制服姿に戻った。

 そこでぴしりと空間に亀裂が生じた。

 かちりと、まるで機会仕掛けの人形のように、今までに起こった出来事を忘れて、彩が“何の職業”に就くのか見守る人々。

 事実、彼らは何も覚えていなかった。

「お姉ちゃん何になるのかな?」

 わくわくと表情にでている茜に、セシリアは微笑ましそうに笑った。

 事実、セシリアは彩に好印象を持っている。

 彩は、自分の身可愛さに妹を切り捨てたりせず、真摯に相手の気持ちを考えて行動している。

 セシリアにとっても自国の勇者を選ぶのだ。

 相手がその器に相応しいか、彩のお蔭で茜を図ることができた。

 例え彼女が妹のことしか考えていないのだとしても、その慎重な姿は目に見えて彩の有用性をセシリアに示唆していた。

「そうですね。もしかしたらお二人共勇者かもしれませんよ?」

「わー! お姉ちゃんと一緒なら百人力だ!」

 嬉しそうに目をきらきらさせる茜に、セシリアはちらりと期待の眼差しを彩に向けた。

 今まで異世界人の召還で二人も召還されたことはなかった。

 だから、彩の存在がどんな意味を持っているのかわからない。

 その時、彩の周りに黒いもやが発生し姿を覆い隠す。

 現れたのは魔術師のローブを制服の上に纏った彩だった。

「魔術師……」

「お姉ちゃん魔法使いなの!?」

 嬉しそうな茜に流石に伝えることができなかった。

 異世界人の魔術師というだけでも珍しいのに、服が変わった瞬間に漏れ出た彩の魔力は、一流の魔術師千人分くらいはありそうだった。

 少し冷や汗が流れる。

 隠していることがあるだけに、セシリアには脅威に見えた。

 ここで幾つか不幸な出来事があった。

 もし彩がセシリアに好意を持たれていることを知っていれば、彩はセシリアを王家とのパイプ役として伝手を望んだだろう。

 そして、もし茜が勇者でなければ、彩は危険の中に身をおくことも、大切な妹に嘘を付くこともなかっただろう。

 他にももしセシリアが神子の本来の役目を教えていたのなら、彩は嘘を付く必要はなかったし、セシリアたちが記憶を奪われることはなかった。

 知らなかったことが後に大きな問題が起こることになるのを、まだ誰も知らなかった。

「おい、時間掛かり過ぎじゃないか?」

「なんだ? どうしたんだ?」

 いつまでも本から手を離さず、目を開かない彩に周りが流石におかしいと思い始めたとき、彩の体がゆっくりと傾いだ。

 倒れかかった彩の体を、弾かれたように飛び出した茜が抱き止める。

「お姉ちゃ、ん……」

 茜が目を見開いたのは彩が涙を流していたからだ。

 姉は、昔の事件で両親を亡くしたあと、一度も泣いたことがなかった。

 気丈に振る舞って、茜を護るためにずっと頑張っていた。

 苦しくても苦しいと言ってくれない彩に、何度も歯がゆく思った。

「……んっ、あか、ね……」

 目を覚ました彩が茜を見て笑った。

 そして、目許に違和感を覚えたのか、目を指で擦って驚いている。

「大丈夫ですか?」

「私、泣いてた……?」

 呆然とした彩の呟きが辺りに響いた。





更新が遅くなりすみませんでした。

ちょっと体調が;


感想、指摘よろしくお願いします。

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