4 、現れたのは
☆ ☆ ☆
急速に世界が遠退くような浮遊感を感じて瞳を閉じていた彩は、漸く正常に戻った体感に恐る恐る瞳を開いた。
その空間は完全な闇だった。
それなのに、何故か自分の手足がしっかり見える。
彩は手のひらを不思議そうに矯めつ眇めつ見つめていたが、周りの状況に今更気付いて仰天した。
彩の周りには四人の美男美女がいて、恭しく頭を下げている。
何も言葉を発さず、ただかしずくように畏まれて、彩はただただ困惑した。
「あの、あなたたちは……」
「私たちはあなた様方の世界で言うところの神です。ここにいるのは、光の神と闇の神、そして叡智の神と癒やしの神です」
彩が尋ねると、代表して女性が真摯に答えてくれた。
だが、肝心の何故崇拝すべき神々にかしずかれているのかが全くわからなかった。
この状況に直面したら、百人中百人が混乱すると彩は思う。
「あの……何故跪いて?」
「私たちは神子様と対等ではありません。礼を尽くさねば消されてしまいます」
「は……?」
いきなりの消される発言に、彩は神を消せる存在って私どんだけおかしくなっちゃったのと混迷を極めた。
それに聞き間違いでなければ神子と呼ばれた気がするのだが……。
神子は彩が今一番なりたくない職業だった。
「神子……嘘でしょう」
「嘘ではありません。さあ、彩様。時の神にお顔をお見せになって下さい」
「時の神……?」
先程まで一度も出なかった名前を口にされて、彩は戸惑う。
けれど、次の瞬間、名前を呼ばれて胸が締め付けられるように熱くなった。
「彩」
「だ、れ……」
彩の正面から黒い髪を肩まで伸ばし、黒いマントを羽織った、痩身の美男子がゆっくりと彩へと近付いてきた。
四人の跪いた神たちの間を抜けて歩いてきたその人を見上げると、瞳は透き通るような蒼だった。
その姿が目を通してゆっくりと彩の脳内に浸透すると、訳も分からず涙が後から後から溢れ出してきた。
それを見た青年は愛しげに彩を抱き締めて、慰めるように背中を撫でてくれる。
「彩、泣かないでくれ」
「な、で……とま、らなっ……」
ぽろぽろと零れ落ちては流れていく涙を青年が優しく拭ってくれた。
だが、その指をペロリと嘗めたのを見た瞬間、彩は真っ赤になる。
自慢にならないが、男性経験などない彩にはどうしていいかわからない。
仕方なく顔を見なくても済むようにと、彩は青年にぎゅっと抱きついていた。
「私の名はクロスロード。時の神“クロスロード”だ。クロスと呼んでくれ」
「クロス……」
名前を知って余計に胸が熱くなった。
どうしてだろう?
知らない筈なのに、何故かとても懐かしくて、胸に愛しさがこみ上げてくる。
このままこの人とずっと一緒にいたいと思いながら、人と神が交わることなどできないのだと、どこかで悟っている自分がいた。
「彩。そなたは私の神子だ。愛しい彩。祈りを捧げてくれるか?」
「も、勿論よ。……あ、でも神子だと」
思考がクロスロードに捕らわれていて鈍っていた。
どうして忘れていられたのだろうか?
大切で、誰よりも守ってあげたい妹のことをーー。
「何か不都合があるのか?」
不安げに問い掛けてくるクロスロードに事情を説明する。
誤解だけはされたくないと思った。
「私には妹がいるの。神子は特別な職業だって聞いたわ。私は、茜を守りたい! この世界で自由に動ける立場が欲しいの」
「ふむ、妹君か。ならば、外見上は魔術師の力を手に入れたことにしよう。彩、今から私に祈りを捧げることができるか?」
確認するように問われて彩は、考える。
頭の中に祈りの儀式の仕方が浮かんできた。
「できる」
「ならば、そなたに一番に授けるのは魔術絶対支配だ。これで周りには誤魔化せるだろう」
そう確約してくれたクロスロードに、彩はゆっくりと跪いて下を向いて手を胸の前で組んだ。
クロスロードへの温かくては切ない想いを祈りに乗せる。
クロスロードは愛しげに笑っていた。
「さあ、名残惜しいが時間だ。元の世界へお帰り」
「ねぇ、また会える! もっと一緒にいたい」
離れることに何故か恐怖が過ぎり彩はクロスロードに手を伸ばす。
「大丈夫だ。彩が祈りを捧げてくれれば、直ぐに会いに行く。愛しているよ、彩」
安心させるように額にキスをされたのを最後に、彩の意識は暗闇に落ちていった。
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