2、異世界に召還されました
床に投げ出されたような強い衝撃が私たちを襲った。
その時には茜を護るようにギュッと抱き締めていた彩は、強い光に眩んだ目をなんとか直そうと瞳を強く閉じる。
周りから聞こえるざわめきに警戒していると、目から光の残像が消えていき、彩は恐る恐る瞳を開けた。
隣で茜も目を開いて周りをキョロキョロ見回していた。
さっきからざわめきが聞こえると思ったら、周りには見たこともないローブのような神官服と、甲冑を着込んだ兵士、そして綺麗な女性がいた。
その人物たちに相応しく、部屋は大理石の広間のような場所だった。
彩と茜の下には、先ほど見た魔法陣が描かれている。
「ここ、何処?」
「茜、大丈夫?」
いきなり知らない場所にいて混乱する私たちに、待ったなしに女性が声を掛けてきた。
「ようこそ、勇者様。突然呼び出して申し訳ありません」
「誰?」
警戒を含んだ声で問い掛ける。
女性はにこりと微笑んで答えを口にした。
「ここはナレス王国。私は第一王女セシリアです。今、世界は魔王によって支配されようとしています。我が国も兵を出しましたが、手も足も出ず。どうか勇者様方の力でこの世界をお救い下さい」
「世界? 救う?」
テンプレ通りだが受け入れがたい現実に、彩は眩暈を感じた。
茜は少なからずお人好しなところがあり、困っている人を見て放っておくことなどできないだろう。
だが、魔王と戦うということは死の危険性が多分に含まれているのだ。
おいそれと返事はできないし、茜が困ったような助けたそうな顔をしていても、その事実は変わるわけもなく、仕方なく彩はテンプレ通りに聞いてみた。
「私たちはただの学生ですよ? お役に立てるとは思えません。力も人並みだし、普通の人間と変わりありません」
「それでしたら大丈夫です。召還された方は、漏れなく特別な力を授かります。そのための儀式の用意もきちんとできています」
丁寧に答えてくれたセシリアに、彩は慎重に質問を重ねた。
茜も不安そうに彩の腕に縋りついている。
「私たちは元の世界に帰れるんですか?」
「……ええ。魔王を倒して頂ければ、元の世界に帰して差し上げられます」
一番重要なことを聞いた瞬間、セシリアが少し躊躇ったのに気付いて、彩は目を細めた。
もしこのままこの世界に留まらなければならなくなった時、チートな能力は必要だろう。
茜だけでもせめて帰してあげたいが……。
「少し相談させて頂いても?」
「構いませんわ」
ざわつく周りと「何だあの小娘は」だのと文句を言っているのを横目に、彩は茜に向き直る。
この子は優しいからきっと力を貸そうとするだろう。
どれだけ厳しい現実があったとしても。
「茜はどうしたい?」
「わ、私……困ってる人たちを助けたい」
真剣に問い掛けた彩に、茜ははっきりと自分の意志を伝えた。
それに苦笑いが漏れる。
周りにも聞こえるようにはっきりと告げた茜は、強くしなやかで美しい強さを持っていた。
感嘆の声まで聞こえるのに、彩ははっきりと自分と茜との違いを突きつけられた。
「命を懸ける覚悟はあるの? これは現実なんだよ? 死ぬこともあるかもしれない。人を殺すこともあるかもしれない。茜には耐えられるの?」
「それは……」
涙目になった茜に、周りから非難の声が彩に殺到する。
けれど、彩は退かなかった。
現実的に茜に指摘できる者は他にいないのだから、彩には茜にしっかり自覚して欲しかったのだ。
もしそれでもこの世界を守ると言うのなら、彩も覚悟をしなければいけない。
茜が彩の目を見据えて答えを出した。
「それでも、守れるものがあるなら守りたい」
「そう。セシリアさん。この世界ではどうやって力を手に入れるんですか?」
話を振られたセシリアは若干不安そうだった表情を明るくして、質問に答えた。
「それは別室で行います。付いてきて下さい」
歩き出したセシリアに、彩は茜を伴って歩き出す。
暫く天井の高い通路を歩いていくと、目的地に辿り着いたのかセシリアが中へと入って行く。
そこは、広い部屋に台座があり、そこにぽつりと一冊の本が置いてあった。
それを指し示しながらセシリアが彩たちに声を掛ける。
「この本に手を置いて下さい。力が目覚めますので」
「わかった。茜」
不安げにこちらを見る茜を優しく台座の前へと誘う。
茜は不安そうにしていたが、覚悟を決めて本の上に手のひらを乗せる。
その瞬間、光が溢れ出し視界をすべて埋め尽くした。
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