1、過去の傷跡
火の海の中茜の泣き声が聞こえる。
崩れそうな家だった柱の残骸に、八代彩は茜を護るようにギュッと腕の中に抱き込んだ。
茜は彩の妹で、やんちゃ盛りの五歳だ。
昼間はデパートに買い物に出掛けて、夜は疲れ果てて二人で眠り込んでしまった。
起きたら周りが熱くて、息苦しくて、周りは火に包まれていた。
そのあと知ったことだが、放火だったらしい。
彩は茜を護ろうと必死で逃げ道を探した。
二人は一つしか年が離れておらず、仲のいい姉妹だ。
特に茜は可愛くてご近所さん方にも愛されていて、自慢の妹だ。
確かに嫉妬していたときもある。
でも、それ以上にかわいい妹なのだ。
「こわいよぉ。おねえちゃん」
「大丈夫だから。大丈夫」
泣きつく妹に安心させるように抱き寄せる。
それに茜は震えながら抱き付いてきた。
その時、クローゼットが二人の子供の上に倒れてきた。
死を覚悟して、茜を少しでも護ろうと体に覆い被さる。
彩は、激しい灼熱の痛みを背中に受けて気を失った。
遠くからサイレンの音が聞こえてきたことも知らずに。
☆ ☆ ☆
朝の陽光に鳥の囀りが清々しい朝を感じさせた。
藤代彩は制服に身を包み、朝日を浴びて体をぐっと伸ばした。
久しぶりにあの日の夢を見た。
彩と妹の茜は、幸いにも駆け付けた消防隊によって助けられたら。
二人が生き残っているのに気付いて貰えたのは、茜が彩が気を失ったことにより、火を付くように泣き続けたからだ。
完全に護れたと思っていた茜にも、あの日の傷口は確かにある。
それにあの火事で両親を失った私たちは、親戚に引き取られた。
親戚とは上手く行かず、最初は茜にだけは優しくしていた叔父夫妻は、懐かない茜にとうとう中学に入るときに家を出て、以来仕送りだけが毎月送られてくる。
「お姉ちゃん、おはよう!」
目を覚ました茜が同じ制服に身を包み姿を現した。
長い黒髪は背中に伸ばし、前髪は額のところで切りそろえ、深い蒼を讃えたような黒い瞳をしている。
出るとこはしっかり出て、引っ込むところはしっかり引っ込んでいるモデル顔負けな美少女だ。
今年で高一になった妹には、学校で親衛隊ができるほどの人気がある。
「お姉ちゃん、一緒に学校行こう!」
「うん、行こっか」
手を繋いでくる茜に苦笑しながら、彩はそっと握り返した。
藤代彩は平凡だ。
身体能力は人並み以上だと自負しているが、頭はそこそこだし、外見も美しいとは言えない。
目立たないように不恰好な黒縁眼鏡を掛けて、体系も人並みだと思う。
それでも、彩には隠しきれないオーラがあった。
隠された瞳は深い深緑で、黒髪は背中にストレートに流し、前だけ茜と違い髪を左右に分けていた。
隠さなければ美しいことはその外見からも明らかなのに、本人だけが気付いていなかった。
茜はそんな姉を心配していたが、本人が気付くはずもなく今に至る。
嫌がらせは受けたことはないが、きっと彩が茜の姉であることに不満を持っている者はたくさんいるだろうとすら思っている。
二人の想いは平行線だ。
通学路の公園を横切ろうと中に足を踏み入れた彩は不思議に思った。
人が誰もいない。
いつもなら何人か茜の親衛隊がいるのに。
彩は少し警戒した。
その時、茜から悲鳴が聞こえてきた。
驚いて隣を見ると、茜が不思議な魔法陣に捕らわれ、吸い込まれそうになってもがいていた。
「お姉ちゃん!! 助けて」
「茜!!」
何コレ、漫画でよく見る異世界召還ってヤツ?
そんな疑問を持ちながら茜に駆け寄ろうとしたとき、彩の足元まで魔法陣が伸びてきた。
せめてもと茜の手をギュッと握ると、その瞬間光が辺りを包み込んだ。
公園には、誰の姿も見当たらなかった。




