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52 ・ 親 友

「夕飛様ー、本当に申し訳ありませんでしたー。戦いに巻き込むなどもってのほかだというのにー」

「ジャドーさんのせいじゃないでしょ?」

「いいえー、異世界へ渡った者の掟はー、呪術師から必ず説明されるはずなのですー。良心をもってそれを守るべきはずなのにー」


 イルデエアを代表して謝りますって、ジャドーさんは何度も俺に頭を下げてきた。

 でも、ルールを無視するヤツらはどこにだって、いくらでもいる。地球も変わんないはずだ。


「狼藉者たちはこのジャドーが責任を持ってー、未知なる世界へ飛ばしましたゆえー」

 強制転送って言ってたな、そういえば。それって大丈夫なの。

「そんなの知ったこっちゃねえのですー。これは当然の報いですー」

 そんな容赦のない発言をして、ジャドーさんはちょっぴり萎れた。

「私情でそんな報復をした私もまたー、報いを受けますー」

「え?」

 なにそれ。

「報いって?」

「私はもうイルデエアに帰ることができませんー。イニヒ・イニ・ヤーシャッキも同様ですー。禁じ手を使った者は故郷を失う定めなのですー」

「同様って?」

 八坂がやったといえば……。

「ファイ・ファエット・ファムルーになにかしてたよな? あれ、なんだったの?」

「あれは、一生に一度しか使えないドラゴンテイマーの奥義なんだ」

 はい?


 竜使いが一生に一度だけ使える奥義っていうのは、相手を完全に自分の支配下に置く、洗脳の術なんだそうだ。

 それを人間相手に使うのは、完全な禁忌で、許されないらしい。


「じゃああの料理人は、八坂の……」

「奴隷だな」


 さらっと言うよねえー。


「別にあいつに興味ないし、飯作ってろって言っておけばいいだろ? どこに行こうが、どこで死のうが関係ないし」

 ふんって鼻から息を出し、八坂は顔を逸らす。

「効いて良かったよ。効かない場合だってあるんだからな」

「そうなんだ」

「ドラゴンに効けばドラゴンテイマーとして認められる。ダメならただの一般人だ」


 八坂はファイ使いになってしまったのか。

 ごめんな、変な職業の人にしちゃって。


「俺を助けるためにやったんだろ? ……ありがとう、助かったよ」

「アツタを助けるのは当たり前じゃねえか」

 

 ニヤっと笑う顔が、マズいな。可愛くてたまらない。


「でも、もう戻れなくなっちゃったんだろ? ホントに」

 ひゅんって白い指が伸びてきて、唇に当たる。

「謝るなって言ってんだろ? アタシとアツタの間には、そういうのは必要ない」

「あのさ、なんでなの? それってそのー……、鼻の頭舐めるのと関係あんの?」


 ずっと疑問に思ってた。あいつが執拗に、舐めろって言ってくる理由はなんなのかって。


「そんなの決まってるじゃねえか!」

「いや、決まってないからわかんないんだけど。どういう意味があるんだよ」

「お前……、知らないでやってたのか!?」


 急に怒りだした八坂に、ボッコボコにされてしまった。

 ジャドーさんが間に入ってくれなかったら、もしかして永眠してたかもしれない。


「ったく、アツタ! 使えねえヤツだよお前はホントに!」


 うう、体のあちこちが痛い。八坂さんホントにお強くてらっしゃるから。


「あれはそのう……アレだよ、アレ」

 なんなの。

「わかんないってば」

「くそ! 馬鹿、おい妖精、お前外に出てろ!」

 ジャドーさんをむんずと掴むと、八坂は窓を開けてポーイと投げ、ピシャーンと閉めて、鍵までかけた。

「しょーがないから教えてやる!」


 なんですか。どんな意味があるの?


「アレは、そのう……」

 なにか言うとまた殴られそうなので、黙って待つしかない。


 しばらく、耳が痛くなるくらいの沈黙が続いて、とうとう八坂は答えを教えてくれた。


「友達になるっていう、意味だろうがよ……」


 ちっちゃい声だったけど、静かだったからちゃんと聞こえた。

 マジで。舐めるのが、友達になる条件なの?


「へその下を舐めるのが?」

「そうだよ! へその下舐めたら友達、鼻の頭舐めたら、親友!」


 同性でもやるのかそれ。ハードル高すぎだろ、俺には無理だ。


「アタシは乱暴者だからって、ずっと友達がいなかったんだ。いつも一人だったから……」

 おでこをぽりぽりひっかきながら、イニヒさんが続ける。

「黒い竜を従えられたら、みんな、仲良くしてくれるかなって思って」


 それはどうかなあって思う。それって、おっかないから仲良くしておこうって思うだけじゃね? って。

 でもイルデエアと俺の常識は同じじゃないから、そうでもないのかな。勇者さん仲良くしてー! ってなるのかもしれないもんな。

 しかし、そんな展開はもうないんだ。もう帰れないんだから。


「ごめんな」

「なんで謝るんだよ。アツタはアタシを助けてくれたし、仲良くしてくれるだろ? 親友かはわからないけど、友達だと思っていいんだよな?」


 顔色を窺うような、上目使いで見つめられる。うん。何度目かわかんないけど、可愛い。ドSの乱暴女かと思ってたらただの寂しがり屋さんだったとか、典型的なギャップ萌えだ。

「いいよ。もちろんいいよ」

 ぱあっと八坂の表情が輝く。そして、近づいてきてまた鼻の頭を舐められるっていう。ムズムズしちゃう。

「改めて、親友になってくれよ」

「……それはいいんだけど、その……」

「なんだよ?」

「友達になるのに、へその下舐めるっていうのはその……、ここでは勘違いされちゃうからさ。だから、もしこれから友達が増えることになっても、ペロペロし合うのはやめようぜ」


 切れ長の瞳が、まんまるになった。ビックリしてるみたい。

 

 考えてみたらホント恥ずかしいわ。

 八坂的には、俺は「友達」だったわけだろ。もしかしたらすっごく好かれてるんじゃないかと思っていたなんて。童貞丸出しの盛大な勘違い感がすごい。恥ずかしい!


「わかった。アツタがそういうんなら、やめとく」

 ニコっとして、で、チュッて。軽くて可愛い小鳥のキッスですよ。

「こっちが正しいんだろ?」

「いや、違う。こっちはもっとやらない! だから、他の奴としたら駄目!」


 あわわ。また恥ずかしいこと言っちゃったし。俺とならいいよ、みたいな! やだ、もう穴があったら入りたい。


『はい、そこまでー!』


 ジャドーさんが窓をバンバン叩いている。くそう。全部見られてるんだな俺! ホント、恥の多い人生です。




 反省したら、またずうんってなってきた。

 だって浮かれてる場合じゃないんだ。


 窓を開けて、ジャドーさんを中へ入れる。

 一緒に入って来た空気が冷たい。なにもない八坂の部屋は寒くて、ぶるっと震えた。だって服もビリビリだもんな、俺。母ちゃんになんて言ったらいいんだろう。


「ジャドーさん、レイカちゃんはどうなったんだ?」

「……わかりません。もう、イルデエアとの交信は無理なのですー」


 そうなのか。

 じゃあ、もう、ドラゴンがどんな未来を辿るのか、知る術はないんだな。


「ジャドーさん、これからどうするの?」

「うーん。とにかく、他の人達に見つからないように暮らすしかありませんねー。似たような生き方をしている方々がいますからー、お世話になれないか聞いてみようと思いますー」


 なんだよ、似たような生き方をしている方々って。妖精がこの世界にもいるの? 魔法使いとかも?


「八坂は?」

「アタシは今のままでいいよ」

「今のままって……」

 高校生として、学業にいそしみますって? 出来るのか、そういえば、成績とかどうなの八坂ちゃん。


「オマエがいるから、戻らなくてもいいって思ったんだ。責任取ってちゃんと面倒みてくれよ、アツタ!」


 責任だって。

 なんかすごく、プレッシャーだ。

 

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