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37 ・ 宣 言

 異世界との連絡方法、っていうものがあるらしい。ジャドーさんは秘密にしておきたかったらしいけど、話してくれた。

 今もこっそり、竜の山に棲んでる精霊仲間と連絡を取り合ってるんだって。

 それは、レイカちゃんには秘密らしい。


 もしもイルデエアに残った仲間たちになにかあったら、帰りたくなってしまうから。

 普段は能天気な妖精さんは、珍しく真剣な表情で話してくれた。


 竜はもうあと六頭しかいない。

 残りはみんな、雌なんだそうな。「竜精」とやらを求めてわざわざ世界を渡ってるんだもんな。しかもレイカちゃん以外は皆、戦うのは苦手なんだって。


「残ったドラゴンたちはどうしてんの? みんな無事なの?」

「今のところはー。なるべく姿を表に出さないようにしてー、山の奥で過ごしていますー」

 山のてっぺんの険しい辺りとか奥底にある洞窟とか、そういうところに潜んでいるんだとジャドーさんは話してくれた。

「悪いことをしていないのですからー、本当はのびのびと暮らしていいと思うのですー」


 そうだよなあ。

 俺も前、モンスター狩りまくるゲームとかやってたけどさ……。ホント、なんか、ごめんなさいって思う。


 

 そんな話を色々と聞いて、殿下を説得することを決めた。あとちょっと残るっていうのはせいぜい、一、二か月くらいにしてもらって、その間に地球の絶滅危惧種についての勉強でもしてもらおうと思う。

 そういう考え方がイルデエアにないなら、学んで帰ってもらえばいい。ドラゴンは別に「害獣」って訳じゃないだろうから。どこの国にも属してない地域に住んでいるなら、そこはもう保護区みたいなものに指定するとか、そういう流れにしたらいいと思うんだ。

 簡単じゃないんだろうけど……、でもなんてったって一国の王子様だからな。イルデエアの四国の力関係は知らないけど、まったく動かないより悪いことなんてないはず。



 殿下はわかってくれたとして、お次に俺が交渉できるのは八坂だ。

 しかしあいつが聞き入れるかどうか。それに、すぐに帰すのがいいかどうか。できたら殿下がどれくらい成果をあげられるか、ある程度予測がついてからがいいんだけど。

 あいつが残った場合、俺がちょーっと我慢すればいいだけなんだ。

 たまにベタベタされたり、ペロペロされたりすればいいだけ、って言うとすごく卑猥。いや、楽しんでるわけじゃないよ。だってアイツが勝手にそうしてくるのを、俺の力じゃちょっと止められないんだ。それだけなんだ。かといって調子に乗ってされるがままじゃ、レイカちゃんのストレスが溜まってしまうわけなので、そうそうペロペロされる訳にはいかない、とかなんとか。


 いつもはそんなに使ってない脳みそを動かしつつ、学校へ向かうべく家を出る。

 俺が出ると同時に、近隣の同級生たちも家から出てきた。麻子、覇王、王子様、ビッチ、そして……不良少女。


 はい? って感じで思わず二度見。

 八坂の後ろから気だるい様子で出てきたのは、どうやら水無愛那のようだった。

 ようだったっていうのは、あまりにもビジュアルに変化があったから。青くて長かった髪はまだ長いんだけど、背中の真ん中あたりまでになっている。しかもピンクがかった茶色に染められてるし。

 服装もセーラー服やら革の装備じゃなくなって、なんていうか、すごくギャルっぽいものにチェンジ。

「あれ、水無さん……、なにかあったの?」

 あっけにとられている俺に変わって、ややソフトなツッコミを入れてくれたのは麻子だった。

 それに対する返事は特になし。チラって見ただけの元・水色ガール。

「随分、雰囲気違うけど」

「……別にぃ」

 なんて感じの悪い受け答え!

 激しいバッシングを受けそうな返事をして、水無は遠くをみながら耳の後ろのあたりをポリポリ掻いている。なんなんだ、この凶悪な変貌は。どうなってるのイルデエアの皆さんは。

「オマエすげえな、なんだその格好は。短すぎんだろ、そのスカートはよ」

 黒いタンクトップに、金色のミニスカート。足には、革の冒険者用ブーツの代わりに、かかとの高ーいサンダル履いてる。

 スカートは確かに短い、が、八坂。お前が言うのは違うんじゃね?

「私の勝手でしょ?」

 こんなそっけない一言を残して、水無は去って行った。


 不思議な変化はなんのためなんだろう。心を読めない達人女の事情は、ジャドーさんにもわからない。

 とにかく、俺達となんとなく一緒に登校するのはもうやめにしたようで、バス停に彼女の姿はなかった。


 学校についても水無の姿はなく、現れたのは三時間目が始まってから。授業の途中、挨拶もなしに堂々と入ってきて、ズドンと椅子の上に尻を乗せて、足組んだ上にケータイをいじりだすという荒っぽさ。

 

 昼休み、深山とその他男子生徒たちがやってきて、そっと耳打ちしてくる。

「なあ夕飛、水無、なにがあったんだ?」

「知らないよそんなの」

「昨日、早野が見たっていうんだよ」

「見たって?」

「水無が、エロそうな中年親父と腕組んで歩いてたって」


 ええー?


「なにそれ」

「知らねえよそんなの。いきなり髪の色変わっちゃってるしさあ、どうしちゃったのかなって話してたんだ」


 そう言われても、俺だってわかんない。

 そっと静かに、ドラゴンの隙を狙ってたんじゃないのか、水無さんは。


 来たばかりの時には、レイカちゃんに試合を申し込んでいたはずだ。俺にも、どういう関係なんだって詰め寄ってきたはず。

 八坂と連携してる感じはないんだよな。あいつも今朝、驚いているようだった。


 そう考えつつも、やっぱり気になって、放課後そっと八坂に声をかけてみたりして。

「なんだアツタ。話ならアタシの部屋でしようぜ。いや、あそこじゃまた邪魔が入るか……」

「すぐ済むよ」

「アタシはすぐには済まないよ」

 ナニする気なんだ。ドッキドッキのワックワク、いや、ハラハラーのドキドキーだよ俺は。

「水無がなんであんなに変わったか、知ってる?」

「知る訳ねえだろ? 赤の他人の事情なんか」

 やっぱりそうなんだ。二人はセットじゃなくて、ただ来たタイミングが同じだっただけなんだな。

「夜中に出ていって、明け方帰ってきて、人が寝てんのにガタガタうるせえんだよアイツ」

「そうなの?」

「ここんとこ急にそうなったんだ」


 うわあ、不良街道まっしぐら系のお決まりのコース?

 もしかして、ここでの生活に慣れて、イルデエアとかもうどうでも良くなったクチか、あいつも。


 普通なら、そんなバカなって思うんだけど。ファイ・ファエット・ファムルーが既にそうだからなあ。ドラゴンテイマーがどんな職業かは知らないけど、もしもあんまり楽しくないとしたら、こっちの生活に溺れても仕方ないかも……しれない?


「それより、お前の部屋に行こうぜ。いいことしてやるからよ」

 八坂の瞳がキランと光る。いいこと。いいことって、どんな……?

 真っ赤な唇の隙間からのぞいた舌に、おののくやら嬉しいやら。いや、駄目だ、これ以上は。今度は俺ん家がレイカちゃんにぶっ壊されてしまう。


 それに、殿下と色々詰めていかなきゃならないし。

 イルデエアのドラゴンを救うために、卵つくり以外にまず全力投球! ってなわけで、八坂を置いてダッシュダッシュゴーゴー!


 なんとか追っ手を振り切って、帰宅。

 すると家の前に、噂の彼女が立っていた。水無愛那、現在、不良少女。

「熱田君」

 可愛い顔には、日曜日まではなかったメイクが施されている。


「話しておいた方がいいと思って。私、もうレイクメルトゥールを狙うの、やめたから」

 

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