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23 ・ 誤 解

 ゴミだらけのライトニング吉野の部屋に四人。

 部屋の主の王子様と、俺、レイカちゃん、そして気絶している八坂ことイニヒイニ。


「伊勢君、来てくれて本当に嬉しいのだが、君をもてなす為に少し時間をもらいたいんだ」

 そうだろうね。だってもうなにがなんだか。こんな部屋で生きている人もたまにテレビで見るけどさ。さすがに王子様がこれはないだろうな。色々散らばっててよくわからないけど、絨毯がひいてあったみたい。細長い山になってるところは、ベッドかな。

「そして熱田君、君は一体何者なのかな? 説明してもらおうか」

 レイカちゃんにうっとりした微笑みを見せていたかと思ったら、ギュンって振り返ってラーナ殿下は俺を睨みつけた。

 さっきまでの、失禁しそうなほどの酷い顔とはうってかわって、そりゃあもうカッコいいキリリとした表情だよ。長い金髪がキラーン、アイスブルーの瞳はギラーン、賢そうだし頼りがいのありそうなナイスガイの睨みは、迫力がある。


 何者なのか、話すのは気が進まない。これ以上ライトニングにギラギラされたらたまんねえ。

 ちらりとレイカちゃんに視線を向けると、ぽっとして顔を逸らした。いや、今そういう場面じゃないでしょ。ちょっと、助けてくれないと困るよ。

「えーと、それよりもさあ……」

 しっちゃかめっちゃかの部屋の中、目に入る赤い切れ端。

「あ、いけない、八坂! おい、大丈夫か?」

 ぐったりした女戦士に、触れていいやら悪いやら。だってほら、赤いランジェリー姿のまんまだから。参ったな。いや、嬉しいけど、うん。まいったまいった。じゃなくて、頬をちょっと軽く叩くくらいしかできない感じ。

「君はその女の味方なのかな、熱田君」

 俺に降ってきたのは、王子の冷たい声。

 そりゃそうか、レイカちゃんの敵は、ライトニングの敵だよな。

 俺にとって、八坂は、味方じゃない。だけど……、敵ってワケでもない。大体、こんなボッコボコにやられて口の端から血を垂らしてる女の子をだな、放っておけっていうの無理じゃないだろうか。殿下はこいつが部屋の隅でグッタリしていても平気なのか問いたいところ。

「ううん」

 ようやく反応があった。埃にまみれて、赤い髪は白く染まっている。

 

 勝負に負けた戦士はどうなるんだろう。

「ジャドーさん!」

「なんですかー、夕飛様ー」

「いや、レイカちゃんとコイツの勝負はついたでしょ? 負けた場合はどうにかされたりするのかなあって」

「今回は、特にありませんー。勝負の前に、条件を決めませんでしたからー」

「条件?」

「そうです」

 レイカちゃんがズイっと前に出る。胸をピシっと張って、王者の風格を漂わせながら立っている。

「戦いの前には基本的に、勝った場合の条件をお互いに提示するのです。今回はその、……わたくしが焦ってしまったので、それに、イニヒ・イニ・ヤーシャッキも驚いていたために条件を出しませんでした」

 黒き竜の視線が、斜め下にうつる。


 俯くレイカちゃんはなにを考えているのだろう。


「そうだよな、イルデエアに帰ってもらうように言えば、良かったよな」

 俺の言葉に、レイカちゃんは何故か小さくモジモジし始めてしまった。

『レイクメルトゥールは、あの娘にこれ以上夕飛様に手出ししないよう条件を出せば良かったと思っていますー』

 ああ、そう。ああ、……そうですか。ホントに、なんていうか……愛されてるよね俺って。


「で、熱田君は何者なのかな?」

 見つめ合う俺とレイカちゃんの間に、ライトニングが割り込んでくる。

「うん、まあそれは後にしようぜ。怪我してる人間がいるんだからさ」

 俺のセリフに王子は渋い顔。


 しかしどうしたものか。八坂の部屋は床にデカい穴が開いている。王子の部屋は最悪の状態。レイカちゃんのとこ、ってわけにもいかないよなあ……。完全に「かたき」なわけだし、コイツは。

 とはいえ、俺ん家って線もないし。

「うう……、レイク、メルトゥール……」

 悩んでいるところに、とうとうお目覚め。

 状態としては、俺が八坂の肩のところを抱いて支えている感じ。なるべくお肌に触れないようにしてるせいで、ちょっと無理のある苦しい姿勢で。

「大丈夫か?」

「アツタ」

 いつもはキッツイ顔が、弱々しい表情を浮かべている。

「……いい、匂い」

 ころん、と俺の腹のところに倒れてきた。へその下のところか。そんなに匂うの? 俺って。

 八坂は俺の腹に顔を埋めたまま、動かない。ちゃんと生きてるけど、なんだろうまた気を失ったとかなのか。すごいな、こんな反応初めてみた。ドラマみたいだ。あと、おっぱいがすごい。でかい。


「レイカちゃーん」


 真っ赤なブラジャーをチラっと見て慌てて目を逸らし、それにしても気になるもんだなすごいなおっぱいって、なんて思っていたら部屋の奥、いや、壁に開いた穴の奥から声が聞こえた。

 聞き覚えのある声。

 麻子だ。


「どうしたのー? すごい音がしたんだけ……うわっ! なあにこれどうしたのー!?」


 勝手に入ってきたらしい麻子が、壁に開いた穴から顔を出している。

 視界に映ったのは、レイカちゃん、ライトニング、そして俺と、俺の前に倒れている八坂。

「吉野君! 吉野君、どうしたの? ここ吉野君の部屋でしょう? 大変、古いアパートだと思ってたけど、こんな、崩れちゃうなんて!」

 とりあえず愛しの王子様の部屋の惨状にあわあわしつつ、床に散らばった破片をよけつつ前へ出てくる。

「わあ、吉野君の部屋に入っちゃった! わあ、わあ!」

 そこかー。そこにまずエキサイトしちゃうのかー。愛すべきキャラだな、麻子よ!


 とか言ってる場合じゃなかった。


「あれ、夕飛……、い、いやだ……どうしたの、え? あ、ごめん、もしかして、邪魔しちゃったかなあ……」

 突然顔を真っ赤に染めて、麻子は両手で顔を覆った。いや、指の隙間から覗いているのが見えているぞ。


 俺の前にいるのは、下着姿の女。


「はあ? いや、違う、邪魔とかじゃないよ。これはその」

「八坂さんって、吉野君の上の部屋だったよね? もしかしてそのう、お部屋デートしてたら崩れちゃったとか、そういうコト、なんだよね、ごめんね夕飛!」

「違う! 違う違う違う! 麻子、待って麻子おぉー!」


 大慌てで叫ぶと、一度は走り去ろうとした幼馴染は足を止めてくれた。

 相変わらずの赤い顔でちょっと視線を逸らしつつ、俺の方を向く。

 そして、はっとした表情を浮かべて一言。


「あれ、八坂さんどうしたの?」

 

 破廉恥な下着姿に気を取られていたが、「青い顔でグッタリしている」状態に気が付いたらしく、一転心配そうな顔で覗き込んできた。

「もしかして、怪我しちゃったのかな、二階から落ちたの?」

「うう……、うん、まあそんな感じ」

「やだ、どうしよう。このアパートに居たら危ないよね、ますます崩れるかも!」


 自分の着ているパーカーを脱いで八坂にかけると、麻子は突然、力強く頷いて叫んだ。


「うちに来て、レイカちゃんも。あの、吉野君にも来てほしいけど、私の部屋散らかってるから……とにかく、ここは危ないから夕飛、今夜は泊めてあげてよ、吉野君のコト!」


「はい?」


 麻子は、ボロアパートが自壊してしまったと思っている。

 そう考えるのが自然、だよな。壁に穴が開くのははおかしいんだが、この際触れてもらわない方がいいわけで。


 レイカちゃんと吉野も、アイコンタクトを交わして頷いていた。

 無関係の人間に見られた以上、「自然」と思われる行動をとらなきゃいけない。


 で、王子様が俺の部屋へやってくる? 


 ってマジかよ……。

 

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