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15 ・ 確 認 

 昼飯の後のホームルームで決めているのは、体育祭について。

 一人一回は出番が来るようになってるけど、メインの競技は運動部で活躍してる奴らが張り切って、そうじゃない奴は徒競走に出たらそれでおしまい。体育祭っていうのは、体育会系の皆様のお祭りだ。部活にすら入ってない俺はそもそもお呼びでない。


 異世界の人たちはどうするんだろって思ってたら、それぞれちゃんと競技に立候補してた。あの人ら、ちゃんと予習してきてるのかな? こっちの世界の高校に潜り込んだからには、おそらくノーマルな高校で開催されるであろうイベントについて、どんな風に参加したらいいものなのかって。


 俺よりもずっとポジティブに手を挙げている転校生の皆さんたち。……だらっとした自分が、すげえ駄目なヤツみたいな気分になっちゃうじゃないか。

 とはいえ、クラス対抗で競うものだからね。

 足の速い奴が、要に据えられるのは当然。

 実力が未知数の異世界の皆さんは、無難なものに割り当てられている。


 決めるべきものが決まって、今日も一日が終わる。

 カバンもって帰ろうとしたら、すごい勢いで寄ってくる奴がいた。

「熱田君」

 顔、めっちゃ近い。顔をギリギリまで近づけてくるライトニング吉野に、思わずのけぞる。けど、のけぞった先にも近寄ってきて、俺はもうキスしちゃわないようにひたすら反り続けるしかない。

「なにっ?」

 もう無理! これ以上は腰を痛める!


「君には負けないよ」

 囁くような、小さな、でも、凄みの効いた声。


 それだけ言って、ライトニングが去って行く。

 なんだ、負けないって。

 ……もしかして、徒競走でか? 俺と殿下はしょっぱなの、体育祭で目立たない派御用達競技である一〇〇メートル走に出る予定なんだけど。


 俺とお前は一緒には走らないぞー! 吉野ーっ!


「おい、アツタ!」

 王子が去ったと思えば、お次は破廉恥セーラーが現れる。

「なに?」

「一緒に帰ろうぜ」

「へ?」

 ヘソだしっていうか、腹出しだな。超ミニのセーラー服がふわっと揺れる。中身、多分、ブラの端っこが見えた。赤だ。なんというアグレッシブな色。攻め過ぎだろ。普通の女子高生は多分、真っ赤な下着をつけない! と、思う。多分。

「家、隣なんだから。いいだろ?」

 短い袖の奥からしゅっと伸びた白い腕が、俺の左腕に絡まって来た。わあ。この人、遠目に見るとなにその格好、痴女なの? って思うのに、近くでこんな、腕組んだりされると、肘にぽよんぽよん体を当てられたりすると……。はい、オブラートに包みました。体、じゃなくて、正確には胸が正解! YES! いや、NO! ううん、正直言ってYES! すいません、YESです。

 

 肘とその周辺にひろがる、柔らかい感触。


 べたべたイチャイチャ、腕組んで今にも合体しそうなくらい絡み合いながら歩いてるカップルの男の方は、この至福に浸っていたんだなあって。今、理解しているところです。


 ふわんふわーん。ぽよよーん。


 くそう。たまらん。この破廉恥セーラーは俺に気があるわけではない。わかっているのに、この感覚には抗いがたいものがある! そう思っている自分が悔しいです!


「ねえ、私も一緒にいいかしら」

 右腕に、更なる魔の手が伸びてきた。

 水無ちゃんだ。こっちは、肘にぽよーん攻撃はない。ただ、腕を取られただけ。

 嬉しくない。胸が当たらなかったからじゃなくて、手がね。とにかく、ごつい革のグローブしてるから。ちょっと臭う、これ。いやちょっとどころか……汗くさい。


 おかげで一気に正気を取り戻して、伸びてきた手、両方から逃げた。

「いや、俺、約束があるから!」


 カバン持ってダッシュ。


 嬉しかったけど、やっぱ怖い。なんで俺を狙ってくんの? 

 確かに、レイカちゃんのそばにいるってのはあるんだろうけどさ! 



「それには深い理由があるのですー」

 家に帰りつくと、部屋のど真ん中でジャドーさんが正座して待っていた。

 どうやら俺の疑問に答えてくれるらしい。それはありがたいんだが……、俺のプライバシー、最近、なくなってない? これじゃおちおちエロ画像も開けないよ。

「夕飛様、申し訳ありませんー。彼女たちが夕飛様に絡むのは、申し入れられた試合をレイクメルトゥールが断ったからなのですー」

「試合?」

「そうですー。立会いを所望すると、二人ともが申し入れてきましたー。特別な空間を用意して、負けた方が勝った方のいうことを聞くという条件だったのですがー」

 走って帰ってきたせいで暑い。しかし、窓を開けるのは気が進まない。しかたなく、机の上にあった雑誌であおいで、風を起こしたりして。

「そりゃまあ、断るだろうねえ」

「そうなのですー。この世界に居る間は、試合を受け入れなければ命を狙われる心配はありませんー。特別な空間でなければドラゴンの姿にもなれませんしー、ならなければ狩られたり、食肉としてさばかれることもありませんしー」

 ああ、なるほど。

「だから俺に矛先がむいた?」

「……そうなのですー。夕飛様の中にある竜精の効果が強烈で、レイクメルトゥールは夕飛様から目を離せないのですー。あからさまに、なにかがある感じになってしまっているのですー。だから、彼女たちも夕飛様にきっかけを求めて、近寄ってきているのですー」

「じゃあ、俺に竜精があるってもうバレちゃってるの?」

「いえ、竜精についてはドラゴンとそのそばで暮らす精霊しか知りませんー」

「ラーナ殿下は知ってたじゃないか」

「あれは仕方なく話したのですー。あまりにもそのー、情熱的に迫ってくるので、可能性はゼロだって説明しなくてはならなくてですねえー」


 すげえなライトニング吉野。


「それじゃあ殿下は、気が付いてるのか? 俺に竜精があるって」

「いえ、それはまだ、わかっていないようですー」

「……なんでだよ。レイカちゃんの態度、あんなにあからさまなのに」

「殿下はちょっと、思考の回路が普通とは違いますのでー」


 思わず、ぶうって噴き出しちゃったよ。なんだ、普通と違うって。一国の王子が夢中すぎんだろ。


 第二王子って言ってたよな、確か。

 良かったね、お世継ぎじゃなくて。


 そしてふっと思い出した、あの日の出来事。


「そういや、あの人俺を覚えてない感じがしたもんな」

「なんの話ですかー?」

「殿下が魔法陣から出てきた時に、俺とジャドーさんが居たじゃない。あの時会ったの、よく考えたらマズいんじゃない? 異世界から来た者の掟的に」


 あんな異様な光景、普通の、一般人に見せていいのか? そしてあの、ドラゴントーク。あれって、俺が相手だったからいいようなものの……って、思うんですけれども。

 俺の言葉に、ジャドーさんはうんうん頷いている。

「そうですねー。その通りですー。あの時、殿下はレイクメルトゥールの匂いがすると興奮しきっておりましたからー、夕飛様がいらっしゃったのは恐らく覚えていないでしょうー」


 大丈夫か、殿下。

 っていうか、異世界から来た者の掟って、どうなってんだ?


「掟破ったらどうなるの? 強制退去とかになる?」

「いえー、そういったペナルティはありませんー。あくまで、異世界へ迷惑へかけないよう、マナーを守ろうというだけでしてー」

「なんだよ……。それで、大丈夫なの?」


 ただの努力義務とか。皆、それ、ちゃんと守るのか?

「もし破った場合はー、私がイルデエアに戻った後、あることないこと誇張した挙句最悪のクソ野郎だって言いふらしますのでー」


 ジャドーさんはかわいい顔でにっこり笑ってる。


 この人も、大概だよな……。

 

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