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13 ・ 甘 味

 教室の後方には転校生が四人。

 

 世紀末の覇王っぽい見た目の乙女、伊勢レイカ。

 金髪碧眼、王子様っぽい見た目の変態、ライトニング吉野。

 清楚な乙女っぽい見た目だけど、革の手袋とブーツがおかしい、水無愛那。

 超ミニのセーラー服が眩しいけど、ドSの香りをプンプンさせてる、八坂仁美。


 一つのクラスに転校生が集中しちゃってるらしいよっていう話題は校内でも有名で、しかも美形揃いらしいよと、レイカちゃん以外の三人を見ようと見物客がやってくる。

 生徒たちでごったがえした出入り口を悠々と抜けるにはやはり、レイカちゃんと一緒に出るしかない。


 昼休みは邪魔が入って質問できなかったから。そういう理由があったので、レイカちゃんに声をかけて一緒に学校を出た。レイカちゃん超嬉しそう。目、潤んで輝いちゃってる。


 そんな乙女っぽい顔しないでくれ。


 みんなの注意は他の三人に向いているので、その隙にさっさと帰る。ギャラリーが道を塞いでくれている間に離れちゃえばいいだろうっていう計画だ。


 バスには乗らず、人通りの少ない住宅街を二人で歩く。

 セーラー服を着てなければ、そうだな、例えば道着かなんか着てくれてれば、男同士で通りそうなもんなんだけど。女子の服着てるからややこしんじゃない? あらあの子、熱田さん家の……。女の子? 女の子? と、一緒みたいだけど? みたいな噂、たてられなくて済むじゃない?


『夕飛様ー、二人きりの下校だなんて、とうとう恋の物語が始まったんですね~』

 呑気なジャドーさんの声。俺だけに聞こえているのか、それともレイカちゃんにも届いているのか。ちらりと隣を歩く顔を見上げても、特に変化はなし。

 そんなんじゃないよ、全然。恋の物語以前の問題だし。

『なにがですかー?』

 それについて、色々聞きたいんだ。


 で、はたと思ったのは、どこで聞くのか。

 レイカちゃんの部屋だと、どうなんだろう。確か水無ちゃんはあいさつ回りするつもりって言ってたはずだ。

 ……ファーストフードだと、すげえ目立つよな。その前に、イスとか壊れそう、じゃなくて、あいつらが嗅ぎつけてやってきたら困る。特にライトニング。あいつすぐに来そう。匂い辿って来そう。


 あれー。


 二人きりで邪魔が入らずに話せるところがいいんだけど。

 


 で、結局、俺の部屋。


 仕方ないだろー? 他にないんだから! ちょうど父ちゃんも母ちゃんもいなくてちょうどよかったんだ! これは断じて、恋の物語のプロローグじゃない。ここしかなかったからだ。俺の家なら、他の異世界人たちは勝手に入って来られない。そういう掟になってるんだから。ドアに鍵かけて、万が一の麻子の襲来にも備える。あいつは勝手に入って来ちゃってOK認定されているから。


 二階の俺の部屋なら、大丈夫だろ。


「そうですねー。窓から侵入するなどの行為は、異世界から来た者の掟に反しますー」

「ねえジャドーさん、その服どうしたの。イメチェンするにしても変わり過ぎでしょ?」

 ようやく聞けた。ふんわりドレスから、ライダースーツに変わった理由。

「火がついたからですー。たくさんの障害を乗り越えてこそ、愛は燃え上がるものですからー。やはり恋愛物語が一番好きですよー、みんな、人の恋愛事情が大好きなのですー」

「趣味悪くない? それ」

「これはイルデエアの竜の存亡をかけた戦いでありますからゆえー」

 なんか誤魔化そうとしてやがるな、このミニ美女。

「ジャドー、おやめなさい」

 デカい手がおしゃべり妖精を制する。


 やっぱりレイカちゃんは良識派だよなって思ったら、覇王、顔真っ赤。

 斜め下向いてモジモジしながら、咳払いして、俺の用意したアイスコーヒーを慌てて飲み始めている。

「あ、とても美味しいです。夕飛様が用意してくれたこの飲み物、甘くておいしいです」

「ブラックなんだけどそれ」

 一緒に持ってきたガムシロップは開封された気配がない。じゃあ、甘味の理由はなんだ?


 いや、考えるのやめよう。怖くなってきた。イルデエアの人、じゃねえや、竜は味覚がちょっと違うんだ、きっと。

 俺もケホンと咳払いをして、話題を元に戻す。確認したいあれこれを、今日のうちに全部聞いて済ませたい。


「あの転校生たちの正体は、赤い方がドラゴンスレイヤー、青い方がドラゴンテイマーでいいんだよな?」

 ジャドーさんはちょっぴり小首を傾げつつも、頷いた。

「なに、その曖昧な頷き方は」

「あの二人の特徴からいって、多分そうだろうと思うだけですー。彼女たちについて、私はしりませんー。まだ名の知られていない、若い人材なのだと思いますー」

 レイカちゃんはこの言葉に、ズッシリと頷いた。

 

 俺の部屋は広くない。中途半端な六畳弱のサイズの洋室だ。今は、ほぼレイカちゃんで埋まってる。


「イルデエアには四つの国があります。ナッグース、キッカローモ、ミルミーナ、ケルバナックです」

 ライトニング吉野はケルバナックの王子様。

 どこへ行ったのかわからない料理人は、ミルミーナの人間だって言ってた気がする。

「ナッグースには、ドラゴンを支配下に置き、意のままに従えるドラゴンテイマーと呼ばれる者たちがいます。彼らはドラゴンを従属させる特殊な術を編み出し、強い竜を持つ者には権力が与えられているそうです」

「へえ」

「キッカローモは戦士の国です。強さこそがすべてであり、竜を倒した者には最高の栄誉が贈られるのです」

「……へえ」

 

 レイカちゃんの口調は穏やかだったものの、ミルミーナからは「最高の食材として」狙われてるわけで、四つの国のうち三つはドラゴンにとって「敵」だ。ナッグースが相手の場合は、殺されたりはしないんだろうけど、自由が奪われてそうな気配が濃厚。

「その、あの二人はどうするつもりなのかな。レイカちゃんにその、仕掛けてきたりするのかな?」

「その可能性は充分考えられます」

 重々しく頷く覇王。


 大変じゃないの、それ。


 俺が重苦しい気分でズーンってしてたら、なぜか、レイカちゃんは恥ずかしげに目を伏せてしまった。


「え? どうしたのその反応」

「いえ、夕飛様……」

 なんだ?


 いかつい顔は、みるみるバラ色に染まっていく。


「お優しいんですね」



 なーんーだーよー! もう、やめてくれよそういう反応!

 俺の方が恥ずかしいわ! だって命狙われちゃってんだろ? そんな危険な事態になっているなら、そりゃちょっとくらいは心配するわ! 優しいとか、レイカちゃんを失いたくないんだとかそういうロマンのある考えじゃないんだっつーの、もう! 


「大丈夫ですー。異世界から来た者の掟がありますからー」

 身悶える俺の前を、ヒラヒラとライダースーツがよぎっていく。

「ジャドーさん、どういうこと?」

「ごく普通の高校生として暮らしている間は、たとえば武器を持ち出したり、襲い掛かったりすることはできませんー。そういった試合のようなものは、特別な空間を用意して行う必要がありますがー、そこへの移行は双方の同意が必要なのですー」


 双方の同意が必要?


「つまり、レイカちゃんが受けなければ、戦いにはならないって話なの?」

「その通りですー」

「なんだよ……、じゃあ、心配要らないんじゃないか」


 そんなの無視しちゃえばいいんだもんな。

 なんだよ、心配して損した……。


 俺はその時、やっぱりアイツらはアホだなって。来た意味なくね? って思っていたんだ。

 だけど当然、それを承知で来ているんだ、あっちだって。


 ここからが本番。

 この次の日から、異世界の皆さんと俺の最高にデンジャーな高校生活が始まった。

 

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