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11 ・ 増 殖 

 和んでる場合じゃねえんだよ。

 異世界から来た人たちをなんとかしなきゃ、平和は戻ってこない。

 

 王子と、姿を見せない料理人の狙いはレイカちゃん。つまり、レイカちゃんが帰れば、万事解決。

 レイカちゃんが帰る条件は、やっぱ……卵、だから。


 俺がどうにかならなきゃ実現は不可能なんだよね。


 知ってた。うん、知ってたよ、俺。ははは。

 

 ちょっとだけ考えたんだ。目隠しでもしてさ、俺をどうにでも、好きにしろよって言ったら解決しないかなって。

 でも、ダメなんだよな。絆が必要なんだから。この話を信じるなら、俺が素っ裸で寝っ転がってるだけじゃ卵はできない。そもそも迎撃準備を整えられるかどうか、自信がないんだけど。


 すっごくポジティブに考えると。

 レイカちゃんは結構、いや、相当マトモでいい子なんだから、これを機に見つめなおして、ちょっとずつでも距離を縮めていったらいいんじゃないかって案も出てくる。


 一応そんな風に考えてたんだぜ? 現実逃避ばっかりじゃなにも解決しないから。

 だけど今日、あの狭い部屋で改めて向かい合ったらやっぱ無理じゃねえかなあって思ったんだ。怖いんだもん。怒った王子も迫力があったけど、やっぱレイカちゃんの威圧感はハンパねえの。素人の俺には間違いなく無理だと思う。プロだってなかなか難しいんじゃないか? なんのプロだって? 聞くなよそんなの。察してくれ。


 悩みながら寝たからなのか、変な夢を見ちゃったんだよ。レイカちゃんと俺が真っ白い衣装で真っ赤な絨毯の道を歩いていくっていう。まわりにはなにもなくて、ただひたすら荒野が続いている。二人で歩いていくと、時々生えてるデッカいサボテンが、「夕飛タンおめー」とか言ってくんの。「おめ」「おめ」って棘をバシバシ鳴らすサボテンに拍手されて、レイカちゃんは幸せそうに頬を赤らめてる。本当に、夢って不思議なんだけど、俺も、頬を真っ赤に染めて幸せそうに照れちゃっててね。なんでなんだろうなあ。怖いな、夢って。深層心理っておっかない。知りたくない。夢診断なんか絶対受けたくないなって思った。今朝、起きた瞬間。


 テンションがめちゃめちゃ低くなってて、朝飯は全然喉を通らない。

 ため息ばっかりの食卓で、親父はムカついた顔。母ちゃんも腹が立ったらしく、さっさと学校行ってこいって追い出されてしまった。


 家を出たら、ちょうど麻子も出てきたところ。笑顔のおはように、悔しいけれど癒される。

「夕飛、レイカちゃんも誘っていこ!」

 そんな話してたらちょうど、巨大な影が出現してきてさ。


「おはようございます、麻子さん。……夕飛さん」

 ぎゅんって風を巻き起こすペコリに、麻子のスカートがひらひらーって揺れる。


「やあおはよう、奇遇だね皆さん!」

 そして後ろからは、そう、ライトニング吉野!


「あ、ああ、よよよよよよよ吉野君!」

 麻子のテンションが上がった分、俺のテンションは下がった。見事な反比例現象だ。


「伊勢君おはよう。君は、熱田君だったね、おはよう」

 レイカちゃんにはウインク、俺には氷の眼差し。そして。

「ええと君は、誰だったかな」

「あ、はい、あの、菅原麻子です!」

「菅原君。そうだったね、おはよう。君の家も近いのかな?」

 嬉しそうに、うんうんうんうんって麻子が頷く。もうね、従順な大型犬みたいな喜び方よ。しっぽが生えてたら今、めっちゃ振ってるはず。そこが私の家で、って指を差したりしている。


「行きましょう、学校に遅刻します」

 浮かれる麻子、落ち込む俺、ギラギラの殿下、そして、レイカちゃん。


 四人で歩いて、そして、バスに揺られる。


 これから毎日こうだったら、どうしようかなあ。プチ地獄って感じだ。忍耐力を高める訓練か。心を鍛えるための修業期間なのか?


 ため息をついてる間にチャイムが鳴って、担任が苦笑いしながら入って来た。


「いやあ、本当にこんなことがあるもんなんだなあ。みんな、先生もすごく不思議な気分だって、まずは言っておくな」

「なんですかー、先生?」

 誰かの質問に、うんうんって頷いてから葉山っちはこう答えた。

「転校生を紹介します。しかも二人」


 へえ、とか、ほお、とか、そんな声が上がる。確かに不自然だ。先週からレイカちゃん、ライトニングと来て更に二人。学年にクラスが一つしかないならともかく、五クラスあるのに何故ここに集中するのか。おかしいよな。


 ざわめく教室の中に入って来たのは、二人の女生徒だった。

 これがまた、対照的な二人。


 共通点はある。二人とも、美人だ。

 一人は可愛い感じで、一人はちょっとキツ目の美人。


 あと、服が変。


水無(みずなし)愛那(あいな)です」


 こっちは可愛い方。髪が長くて、膝の裏あたりまである。うしろで一つにくくってて、それがお辞儀とともにふわーっと揺れた。セーラー服を着てる。それはいい。ごく普通のセーラー服だ。だけど、革のゴッツイ手袋してるんだよな。肘まであるやつ。それがまた、使い込んである感じなんだ。そして靴。上履きはどうした。なんだその革のブーツは。こっちもまた、使い込んである感じ。オシャレなブーツじゃなくて、そうだな、アウトドアでファンタジーRPG的な冒険者っぽいブーツなんだ。


八坂(やさか)仁美(ひとみ)です」


 こっちはキリリとした美人の方。とにかく美人なんだけど、あからさまにおかしなファッション。なにがおかしいって、セーラー服なんだよ。セーラー服なんだけど、すげえ短いの、上も下も。上はヘソ出しで胸の下あたりまでしかない。なんていうんだろう、短い学ランが単ランなら、単ラー服? ウハって感じる前に、どうしたのって問いたいほどに短い。スカートもとても短い。ジャンプしたら間違いなくパンツが見えるであろう短さ。推定股下五センチくらい。最低限しか隠していない、ビキニみたいなセーラー服だ。あとは髪型。ビシっと、耳の下辺りくらいでまっすぐに切りそろえてる。前髪は二対八くらいで右側に流してる。俺から見て右側だから、本人からしたら左側。

 

 葉山っちが例によってキレイな字で二人の名前を書いていくのを見ながら、俺は気が付いてしまった。


 この人たちって、もしかして異世界から来たんじゃね? って。


 だって不自然だろ。転校生がこのクラスばっかり来るのも、二人のファッションも。あとね、水無ちゃんの髪の色、青。八坂ちゃんは赤だよ。ついでに言っておくけどうちの高校、制服ないからね。私服でいいのに、全員揃いも揃って学ランにセーラー服着てさあ。


『すごいですー、夕飛様、よくお気づきでー!』


 ほめられちゃった。

 できれば、気のせいであって欲しかったんだけどな。

 異世界の人たち、この世界にすんなり馴染むために取る方法は一つらしい。


 高校に、「転校生として」入ってくるっていう。


『青い方ですが、あれはナッグース王国のドラゴンテイマーだと思われますー』

 なんだ、ドラゴンテイマーって。

『竜使いですー。竜を配下に従えて操る者ですよー』

 なんと。竜を配下に。

『赤い方は、キッカローモのドラゴンスレイヤーですー』


 ドラゴンスレイヤー。

 もしかして竜殺しとか、そういう物騒な感じの?


『そうですー。なんてことでしょうー。レイクメルトゥールの命を脅かす敵がまた増えてしまいましたー!』

 

 ジャドーさんの声は震えてる。


 もしかして、あの料理人のファイなんとかさん。あいつも明日辺り転校生として入ってくるんじゃないか? ちゃんと学ラン着てさ。


 二人の転校生が後ろに歩いていくのを見送りながら、俺はぼんやりと、そんな風に考えた。

 

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