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 0 ・ 突 然

 本当に突然の出来事だった。


 いつも通りの通学路。バスに乗って、学校の前で降りて授業受けて、だらだら友達とファーストフードで話して、で、そこから歩いて帰っていた道の途中。

 夕方のオレンジがかった色のアスファルトの上に、金色に輝く円が浮かび上がった。円周に沿って、文字みたいなものが一定の間隔で並んでいる。ゲームとかアニメで見た、いわゆる「魔法陣」みたいな感じ。ぐるぐる回っていたかと思ったら、真ん中にぐわっと。柱が立ちあがった。円と同じキラキラのゴールドの柱は、キラキラの粒子を振りまいている。思わずそんな非・日常に見とれていると、柱の中に人影が現れた。

 ごくごく平均の成長をしている高校二年生の男子である俺は一七二センチ。見上げるくらいの大きさの影がずいっと一歩前に出てきて、こっちは思わず一歩後退。

 デカい。そして、ゴツい。

 筋骨隆々。ぶわっと広がる長い髪の毛、そしてギラリと輝く鋭い瞳。背景にゴゴゴ、って描いてないのが不思議なくらいのド迫力。

 うーわナニコレ、なにこの状況。辺りには誰もいない。自宅まではあと、歩いて五分くらいの距離。しんと静まる住宅街。車は通る気配なし。

 もう一歩前へ進んで、黄金の柱の中からはっきりと姿を現した「魔法陣さん」は変な服を着ていた。あえていうなら、中華風ファンタジー的な? 襟の立った長い服。腰の辺りで前後に分かれてサイドがスリットみたいになっていて、その下は多分、うーん、生足なのかな。日に焼けた褐色の肌はやっぱり、ゴツい。もりもりに盛り上がってる。

 そして突然、呼ばれた。


熱田(あつた)夕飛(ゆうひ)……」


 名前、ズバリ言われちゃいました的な?

 ……もしかして、未来からやってきた使者とか?

 怖っ。抹殺されるのかな? すごくポジティブに考えると、将来俺は大きな何事かを為すのかもしれない?

 そんな妄想はすぐに破られた。夕焼けに照らされて見つめ合っちゃっていた、俺の向かいに立つ「魔法陣さん」に。

「ようやくお会いできました」

 ごっついごっつい体がすいっと跪き、俺の手を取ったかと思ったら甲にチュっと、キス。


 気 持 ち わ る ぅ !


「失礼しました! まだ、名乗りもしていないのにこのような……はしたないことを」

 慌てて手を払った俺に対して、「魔法陣さん」は膝をついたまま、下を向いて、恥ずかしそうに手で頬を抑えている。

 なに、この乙女的反応。

 見た目から、てっきり世紀末に降臨した覇王だとか、伝説の格闘家かなんかだと思っているのに。

 まさか。ひょっとして、もしかして――。

「わたくしは遥か遠き世界、イルデエアより参りました黒き竜、レイクメルトゥールでございます」

「なに言ってんの?」

 我ながら、カラッカラに乾いてるなと思った。言葉のチョイスも、出てきた声に関しても。


「夕飛様、イルデエアの竜は滅びようとしております。わたくしは一族の為、重大な使命を帯びてこの地へ命を賭してやって来たのです。一族の秘宝であるスティアリポーハと引き換えに、呪術師に頼み込んでこの世界へやって来たのです!」

 

 どうしよう怖い。だってほら見てよ、すごいじゃない、目の前の、自称“竜”の人。体は全身モリモリ。盛って盛ってデコりまくってるの、筋肉で。しかもところどころ、傷跡みたいのがある。歴戦の戦士っぽい雰囲気で、褐色の肌にデッカい爪の跡みたいなラインが入ってんのね。髪は黒いんだけど、とにかく固そう。長くて腰の辺りまで伸びてるんだけど、下にいくにつれて広がっててさ、なんか箒みたいな感じ。声もやたらと重量感があって、鼓膜がいちいちビリビリいっちゃってる。

 そんな相手に逆らう勇気って、なかなか、普通の男子高校生は持ち合わせてないって思わない?

 だけど、レイクなんとかさんはお構いなしにこう叫んだんだ。

「夕飛様、選ばれし竜精を御身に秘めし尊きお方! どうかわたくしに新たな世代の担い手となる子を、卵をお授けください!」


 えっ?


 今の台詞に対する俺の感想は、以上。疑問符まで含めて見事三文字で収まった!

「はは、じゃあ、えーと、そういうことで!」

 これ以上、関わりたくない。関わるわけにはいかない。危ない。危険すぎる。急いでダッシュで帰ってさ、鍵かけて、で、もしも家までついてきたら一一〇番これ決定。わあ、警察とか電話した経験なんてこれまでの人生で一度もないや。なんて言ったらいいのかな。はい、どーしました? もしもし警察ですか! 変質者に追われてるんです、戦車かバズーカ用意してきてください! とか?


 そんな風に考えつつ、これまでの人生で一番気合を入れた駆け足で俺は逃げた。走って家へ飛び込んで、ご丁寧にチェーンまでして施錠完了。ついでに家中の窓をロックしてまわった。母ちゃんはなんだお前って目で見てきたけど関係ない。なんせ相手は指先ひとつで人間を木っ端みじんにできそうな雰囲気だったわけで。

 ドキドキしながら、俺はしばらく玄関前で構え続けたんだ。


 結局、誰も、なにも来なかったんだけどね。

 

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