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A legendary adventurer  作者: tricolour-hear
第1章 少年期
4/7

3.邂逅

 鏡に映る自分の姿は、身長130センチといったところか。


 つい先日10歳を迎えた俺は鏡の前に立っていた。

 銀色の髪を後ろに流した顔は、最近では幼さが抜けつつある。

 だが、見た目はまだまだ子供だ。


 俺は自分の成長の遅さに、少なからず苛立ちを覚え始めていた。

 最近では読書もあまり行っていない。印刷技術は確立されているものの、書物の値段は高く、魔術書などの専門書以外の書物はまだまだ少ない。


 父上が商人をやっているため、普通よりも沢山の本に触れることができたが、それも全部読み終えてしまった。

 新たな知識を得るためには、実際に人と話したり旅をする必要があるのだが、俺はまだ十歳。

 毎日のトレーニングに魔術の修業を盛り込んで、そこらの冒険者より実力は優れている自信はあったが、年齢は変えようがない。

 それも、魔術学院の入学は12歳だから、あと二年の辛抱である。


 魔術学院に入れば、図書館にある何千冊に及ぶ本を読めるのである。

 あぁ知識欲がわくぜ。


 もう少しの辛抱だと、いつものように鏡の映る自分に言い聞かせた。



 俺は着替えを終えると、出店が立ち並ぶ商店街に向かった。

 商店街は、相変わらず活気に満ち溢れており、商人たちの声が響いている。この商店街を適当に散策し、そのまま町のはずれの空き地で、のんびりと一日を過ごすのが俺の日課である。


 兄上は12歳になったときに、商人を目指すことを両親に宣言し、今は本格的に父上のもとで指導をうけている。

 だから、最近では一人でいることがさらに多くなってしまった。


 母上は家にいるのだが、俺が家で暇そうにしていると、近所の子供たちと遊ぶように言ってくるか、母上の話し相手にさせられるため、のんびりとできない。


 さらに母上は、俺が母上に冷たいことを気にしているらしく、隙あらば甘えようとしてくる。普通、甘えるのは子供の方だと思うのだが、子供が甘えないならば私が甘えるしかないという、発想の逆転をおこなっているようである。

 なぜか兄上と父上は、俺に甘えまくる母上の様子を微笑ましく見ているので、なおさら家に居づらいこの頃である。



 のんびり商店街を歩いていると、前方に人だかりができているのが見えた。


 なんだかただならぬ様子を感じ、俺はその人だかりに近づいた。


「おい、俺たちが誰だかわかっているのか!?」


 そんなセリフが集団の中心から聞こえてきた。

 こんなセリフは言うやつは、自分の能力に見合わないプライドを持った、能無しというのがセオリーだが。

 俺は集団の中をかき分けて、中の様子が見れる位置に移動した。


「すみません。すみません」


 十代後半であろう女性が、冒険者風の男二人に向かって謝っていた。

 あたりには、たくさんの食材が散らばっていた。

 どうやら、荷物を持った女性が、この二人にぶつかったようである。


「まったく、どこ見て歩いてやがるんだ!」

「怪我したらどうしてくれるんだ、あ!」


 男二人はその女性に向かって、怒鳴り散らしている。まぁ二人とも見るからに酔っている。

 まったくベタすぎる悪役だな。


 周りの大人たちを見回してみるが、どうやら止めに入ろうとする者はいないようだ。男たちの腰に差してある剣が原因だろう。

 しょうがないか。冒険者の相手は、素人では分が悪いからな。


 町に在住している騎士がくるのは時間の問題だが、男たちの行動はより激しいものになっていた。


「姉ちゃん、ちょっと付き合えよ」

「悪いと思ってんなら、ちょっとぐらいいいだろ、な?」


 男たちは誰も止める人がいないことをいいことに、完全に調子に乗っていた。

 いや、もしくは酔いで周りの視線に気が付いていないのか。

 言い寄られている女性は、小さな声で否定の言葉を言っているようであるが、男たちは気にする様子もない。


 俺は大きなため息をついたあと、その女性を助けるため一歩前に踏み出した。


「昼間から酒に酔って、女性に下品な視線を向ける冒険者の風上にも置けない糞野郎の臭いがしますが。

 そこの頭の悪そうな二人、誰だかわかりますか?」


 俺はその場で、男たちに向かって大きな声で言った。


「あぁん?」


 男たち二人はそろって振り向いた。

 男たちの視線は俺の頭上を見た後、下を見て俺の存在に気付いた。

 

 俺が子供だということがわかって、男たちは下品な笑い声をあげた。


「ガキ、てめぇ誰に向かってそんなこと言っているんだぁ?」


 男は、またもや同じようなセリフを吐いた。


「おや、俺は頭の悪そうな二人に質問したんですが?それに答えたお二人は頭の悪そうな人なのでは。

 それとも糞野郎の方だったでしょうか?」


 周りから失笑がもれる。


「ただで帰れると思うなよガキが」


 男たちは顔を真っ赤にして、プルプルと怒りに震えている。


「お金くれるんですか?わーい、ありがとう。臭そうなおじさん」


 俺は10歳という年齢に見合った、無邪気な声を出して男たちに近づいた。

 正面にいた男は、怒りの限界を超えたのか、腰にある剣の柄に手を伸ばそうとしていた。


 遅すぎだよ、おっさん。

 男が剣の柄に手を伸ばすころには既に、俺の拳の間合いだった。


 一歩で二人の男が射線上に重なる位置へと移動した俺は、剣を抜こうとした男の右のわき腹をに向かって、拳を突きだした。

 空手でいう正拳中段突きというやつだ。ただし俺の身長は低いため、俺にとっては上段突きだが。


 突きを食らった男はそのまま吹っ飛び、真後ろにいたもう一人の男も巻き込んで、一緒に吹っ飛んで壁に激突した。

 男たちはどうやら一撃で戦闘不能に陥ったようだ。


 全く、手ごたえのない。どうやら、冒険者の中でも弱い者なのだろう。

 子供ということで油断してくれたから、楽に仕留められた。


「大丈夫ですか?」


 俺は、あたりに散らばっていた、女性が落としたであろう食材を一つ掴んで、手渡した。

 周りのやじ馬たちは揃って、驚愕の表情で俺を見つめている。


「う、うん」


 女性はどうやら状況に付いてこれていないらしい。呆然と俺の顔を見つめている。

 まぁしょうがないか。


 俺は辺りが騒ぎ出す前に、人込みを飛び越えて走り出した。


 これやばいよな?


 俺は自分の起こした行動を考え、軽い頭痛を感じていた。


 いつも空き地についた俺は、地面に寝そべった。


 この空き地は初めて魔術を使った空き地で、町のはずれにあるため滅多に人が来ることはない。

 俺はそこで先程の行動を思い返した。


「俺のやったことって問題になるよな?」


 最近では、周りの目を気にして家の外では常識的な子供を演じるように努めていたのに、これではまた「変な子供」の噂が再加熱しそうだ。

 しかも、今回はそれどころでは済まないだろうな。


 大人二人をあっという間に倒したのである。それも冒険者とみられる大人を。

 少なくても、俺に高い魔力が宿っていることは、周りに知られてしまうだろう。

 これからは、もっと慎重に行動しなければならない。


「めんどくさ」


 俺がボソッと呟くと同時に、空き地に人が入ってくる気配がした。


「よう、坊主」


 そこには、二メートル近い筋肉隆々の大男が立っていた。このあたりでは珍しい黒髪に黒色の目をしている。また、背中には背丈ほどもある大剣を背負っている。

 大男はぼさぼさの髪をボリボリと掻きながら、俺の10メートル手前ほどまで歩いてきた。


「さっきは、大活躍だったじゃねぇか?うん、やるなボウズ」


 大男は愉快そうに笑顔を浮かべながら話す。


「誰ですか?」


 俺は大男に慎重に質問した。

 大男は俺の質問にすぐには答えず、うーんと唸った。


「…さっきの男たちの兄貴分でな。それでお前に仕返しに来たわけだ?わかるか、ボウズ?」


 大男はガハガハ大きな声でわたっている。


「要するに、お前をぶっ殺しに来たってわけだ。どうする、ボウズ?」


 さっきからボウズ、ボウズとうるさいやつだ。

 しかし、さっきのことを知っていて、この場所まで来れたってことは、俺の全力の走りについてこれるほどの相手である。


「なぜ、この場所が?」


 大男は、俺の眼を覗きこむような表情を浮かべて、また笑った。

 どうでもいいが、この男は笑いすぎだ。何がそんなに嬉しいのやら。


「見た目によらず、ずいぶんと賢いようだな。だが、質問を質問で返しちゃならねえな、ボウズ」


「そうですね。出来れば殺されたくありませんけど、どうにかなりませんかね?」


 俺は笑顔で言葉を返した。


「無理だなー。俺はボウズに興味を持っちまったからな。この場から逃げたいんだったら俺を倒すしかないんじゃねえか?」


 大男はにやーっと意地悪そうな顔で笑った。


「そうですかね?」


 俺は無詠唱で無属性『敏捷上昇』を中位魔術でかけ、全身の氣を使って一気に後ろに駈け出した。

 この『敏捷上昇』は身体の能力を補助する魔術で、身体の移動速度を上昇させる魔術である。身体補助魔術はその補助の程度によって、魔術の難易度が変化する。


 一気にトップスピードに乗った俺は、高速でその場をから離れた。


 完全に相手を置き去りにしたであろう。しかし、後ろを振り返ると、先程の大男はそこにいなかった。

 前方に気配を感じて前を向くと、大男が立っていた。

 俺は体に急制動をかけて静止した。


「だから、俺を倒さねえと逃げられないっていってるだろ、ボウズ」


 大男は今まで一番大きな笑い声で笑った。


 なぜ、俺は追いつかれた。

 『敏捷上昇』は無詠唱で唱えたから、相手が『敏捷上昇』を使う前に逃げ切れるはずである。

 まさか、『敏捷上昇』の上位魔術を使ったのか。しかし、俺は『敏捷上昇』とは別に、氣によって身体能力を強化している。子供の体とはいえ、大人よりも断然、身体能力は高いはずだ。

 それなら、相手が上位魔術で『敏捷上昇』しようと、最初の発動までの差で逃げ切れるはずなのに。


 俺たちは移動したことにより、町から少し離れた平野にきていた。


「しかし、中位魔術を無詠唱とは驚いたね。氣を使えるのはさっきのいざこざで分かっていたけどなぁ」


 大男は感心したように、うなずく。


「しかし、戦闘に関しちゃ素人みたいだな、ボウズ。まぁ、その歳じゃしょうがないか」


「なぜ、俺が素人だと分かるんですか?」


「そりゃ、わかるよ。俺に追いつかれたのが不思議なんだろ?

 顔に書いてあるぞ、ガハハハ。

 それに…まぁこれ以上は、今は言うわけにはいかないなぁ。そういえば、俺はボウズを殺しに来たんだったからな」


 大男は余裕の表情でこちらを見ている。お前の実力はこんなものか、とそんな表情をしている。


 上等じゃねぇか、おっさん。死んでも恨むんじゃねぇぞ。


「『炎槍』」


 俺は火の中位魔術『炎槍』を相手に向かって放った。炎槍は周りの大気を熱しながら相手に向かって迸る。

 火の中位魔術『炎槍』は、強大な炎の槍を相手に向かって放つ魔術である。この魔術が直撃すれば、一つの家が完全に吹き飛ぶほどの威力がある。


 大男はよけるそぶりも見せずに『炎槍』を待ち構えている。


「ふんっ!」


 なんと、その大男は『炎槍』を掌底でかき消した。


「馬鹿な」


 中位魔術に素手で対抗するなんてことがあり得るのか。


「どうしたボウズ。それで仕舞か?」


 大男は先ほどと変わらない笑顔を浮かべているように見えるが、その眼には先程までなかった殺気がある。


「まだまだ!!」


 俺は土に中位魔術『巨窪』と、風の中位魔術『竜巻』を連続して無詠唱で発動した。

 大男の足元に直径10メートル、深さ20メートルほどの穴が突然出現する。その直後に大男を中心に、巨大な風の渦、竜巻が発生する。

 竜巻はその渦の中心を上にして、下を向いているので、大男は穴の底へと叩きつけられる力を受ける。

 大男は俺の思惑通り穴の底へと落ちた。


 とどめだ。


「『雷落』」


 雷の上位魔術『雷落』、その名の通り雷を対象へと落とす魔術だ。

 穴の真上で発生した雷は、穴の底に向かって雷撃を走らせた。


 あとは雷が相手を焦がすだけだ。雷は眩い光と共に、大男を貫くはずだった。


 しかし、雷は縦に真っ二つへ裂けた。それと同時に雷は激しい光を発して消滅した。

 一瞬の間、光に視力を奪われる。


 背後に気配を感じると、首筋に冷たい鋭利な感触が伝わった。


「まさか、俺に剣を抜かせるとはな」


 大男は今までと打って変わって、冷ややかな口調で言った。

 大男の持つ真紅の大剣の切っ先が、俺の首筋に当てられていた。


「あれほどの魔術を使ったあとなのに、息一つ切らさないとは。恐ろしい魔力の量だな」


 俺は大男の話を聞きながら、指一本動かせずにいた。

 顔に冷や汗がつたっているのがわかる。


 大男はしばらく沈黙した後、大剣を俺の首筋からはなし、背の鞘に納めた。


「殺さないのですか?」


 俺は大男の目を見つめながら、質問した。


「俺の質問に答えろ。なに、緊張するなボウズ」


 大男は、最初のころのような陽気な調子で言った。その顔には、先程まで放っていた殺気のかけらも残っていない。


「なんでしょう?」


「ボウズは将来何になるつもりだ?」


 大男はまじめな様子で聞いてくる。質問の意図が理解できない。

 ここで嘘をつくメリットもないか…。

 俺は正直に話すことにした。


「冒険者になろうと思っています」


 大男は嬉しそうに口元をゆがめた。


「冒険者はつらいぞ。いつ死んでもおかしくはない。それをわかっているのか、ボウズ?」


「はい、覚悟の上です」


 俺はこの世界に転生し、冒険者の存在を知ってから、冒険者になることを決めていた。

 この世界で二度目の生を受けたからには、後悔することなく人生を全うしたい。

 この壮大な自然や、今まで見たことのない文化や技術を見て回りたいとずっと思っていた。

 そのために、たくさんの本を読んで知識をつけてきたし、強さという力をつけて、いつか冒険者として世界を回る準備をしてきた。


 大男は、俺の眼を真剣に覗き込んだ後、いきなり爆笑しだした。

 大男はしばらく笑った後、やっと笑いが笑いが収まったのか、軽く咳払いした後、俺の頭に手をおいてこう言った。


「わかったボウズ、俺の弟子になれ」



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