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主人公最強ものですので、抵抗がある方は遠慮してください。
また、初めての投稿作品なので乱筆にて失礼します。
視界が霞んでいく。
体が粉砕されるかのような衝撃、同時に走る激痛。
さっきまであったそれは、今では幻のように何も感じない。
しかし、体の自由が効かないことから、それらが現実のものだったことがわかる。
指一本すらも動かすことができない。
俺を轢いたであろう中年の男性が、俺を蒼白な顔で見下ろしている。
心配するなよ、おっさん。俺は平気だよ。
虚勢を張ってそう告げようとするも、言葉が俺の耳に達することはない。
俺の口は動いたのだろうか? それとも、言葉を発することができなかったのか?
その男性は、慌てたように携帯を取り出して電話している。救急車を呼んでいるのだろう。
まさか、車に轢かれるとは…情けないものだ。
俺は、だんだんと重くなっていく瞼が閉じるのを必死で耐えて、空を見上げた。
今にも雨が降りそうな、どんよりした雲が広がっている。
ふっ、最後くらい晴れてろよ。
俺は全身を包もうとする「死」に身を任せた。
俺の意識は、肉体という器を離れて遥かなる闇へと放り出された。
これが死というやつなの?
しかし、俺に自我があるのはどういうことだろうか?
完全な無に至るまでの、わずかな時間が存在するとういうことか?
それとも、まだ俺は生きている?
分からないことを考えてもしょうがないか…。
俺はこの何もない空間で精神を保つためなのか、今までのことを思い返していた。
小学校に入るまでは幸せだった。覚えていないことも多いけれど、いつも優しい母と一緒に笑っていた記憶がある。その時はまだ父も笑っていたような気がする。
変わったのは、小学校に入学してからだ。もともと病弱だった母が亡くなり、全てが一変した。
父は非常に厳しくなり、何か俺が悪さをしたり、学校の成績が悪いと暴力を振るうようになった。そして、毎日のように「強く生きろ」と俺に言った。
なぜ、強く生きなければならないの理解できないまま、俺は父の機嫌を取るためにひたすら努力をした。
俺は父にどれだけ暴力を振るわれようと、父を嫌いにはならなかった。
なぜなら、父と俺は共に母を愛していたからだ。俺と父のその歪んだ関係は、俺にとっても父にとっても、必要な生きる目的だった。
父の「強く生きろ」という言葉、そして暴力は確かに俺を強くした。母の死を悲しむ暇もないほど俺は努力をした。そしてそれは、俺が高校に入学した直後に終わった。
今度は父の死であった。父は長い間、重い病を患っていたらしい。
父の「強く生きろ」という言葉には「俺が一人でも生きていける力をつけろ」という意味があったのかもしれない。それも確認しようがない、父は遺書を残さなかった。
そして俺は一人になった。
今までひたすら勉強ばかりしていたため、小、中学校では親しい友人は作れず、父の残した使いきれないほどの金だけが、俺のもとにあった。
父を失ったことにより、俺は努力をすることをやめた。
何かを求めても、それは気まぐれに去っていく。俺がどれだけの努力をしようと。
人生の終わりを感じていた俺だが、いいこともあった。
高校の同級生は最初のころはなじめなかったが、段々と話すようになり、ようやく友人と言うものができ始めた。
友人ができることによって、俺は変わったと思う。忘れていた笑顔というものを取り戻すことが出来た。友達という大切なものを作ることが出来た。
やっと人並みに、生きることに幸せを感じることが、出来るようになっていた時だったのに。
そして、俺は今この闇にいる。
結局、俺は生きている間に何かを得たのだろうか?
大事な人を失い、今度は守れるようにと「強く」なろうとしても、また失い。
大事な人を作れたと思えば、今度は自分自身を守ることが出来ずにいる。
結局わからないままだ。
何もわからず、何も得ず、何も残さず俺は消えていくのか。
「生きたい」
俺は、この当たり前のような感情を声にした。その声は、精神のみの存在である俺にも温かみを与えてくれた。
「生きてーーーー!!!!」
俺は叫んだ。自分という存在を声として、全身全霊で。
すると、闇の空間に一筋の光がさした。その光は段々と強く大きくなる。
俺は、その光に飲み込まれるようにして消えた。
…はずだった。
「私のいとしい赤ちゃん。名前は…そう、レインね」
目の前には、銀髪の綺麗な女の人がいた。
(10/10)少し修正しました。