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第六章(最後の練習)

いつ眠ったのかは、よく覚えていない。

ユリの家の客間に布団を敷いてもらい、天井をぼんやりと見上げながら、俺たちは少しだけ話をしていた。夢の丘のことや、どうして同じ夢を見るのかということ、そしてあの場所が本当にただの夢なのかどうかということまで、思いつく限りのことを口にしたけれど、結局どれも答えの出ない話ばかりだった。

それでも不思議と、嫌な気分にはならなかった。

窓の外には星が見えていて、風がゆっくりカーテンを揺らしている。その光景をぼんやり眺めているうちに、いつの間にか意識が遠くへ沈んでいった。

そして気がつくと―

僕は丘に立っていた。

夜の丘。

何度も夢で見ている場所なのに、ここに来るたびに、胸の奥が少しだけ静かになる。現実とは違う空気が流れていて、風の音も草の揺れる音も、どこか遠い世界から届いているみたいだった。

僕はゆっくり空を見上げる。

星が並んでいる。

いつものように、まるで誰かが大きな楽譜の上に、丁寧に音符を書き並べたみたいに、一定の間隔で静かに光っていた。

風が吹く。

草が揺れる。

その奥で、低い弦の音が聞こえていた。

チェロの音だ。

深くて静かな音が、丘の空気に溶けるように広がっている。前にここへ来たときより、ほんの少しだけ低くなっている気がして、僕は無意識に胸の奥へ手を当てた。

ゆっくり丘を歩く。

夜の空気は冷たいけれど、どこか透明で、息を吸うたびに胸の中が静かになっていくみたいだった。

そのとき、背後から声がした。

「なぎちゃん」

僕は振り向く。

そこにはユリがいた。

丘の草の上に座って、夜空を見上げている。夢の中のユリは、前より少しだけ大人びて見えた。時間がこの夢の中でもゆっくり流れているみたいだった。

僕はユリの隣に座る。

丘の上から見える夜空は、やっぱり音楽みたいだった。

星は音符で、風は旋律で、遠くで鳴るチェロがその全部を支えている。

「今日は、泊まってくれてありがとう」

ユリが小さく言った。

僕は空を見上げたまま答える。

「うん」

しばらく、二人で黙っていた。

丘の上では、沈黙が重くならない。言葉がなくても時間は流れていくし、むしろ何も言わないほうが、この場所には似合っている気がした。

やがてユリがぽつりと言う。

「ねえ、なぎちゃん」

「なに?」

「夢と現実ってさ」

ユリは空を見上げる。

星の光が瞳の奥で揺れていた。

「どこで繋がってるんだろうね」

僕は少し考える。

でも、やっぱり答えは出ない。

「分からない」

正直にそう言う。

ユリは小さく笑った。

「だよね」

それからユリは少し真面目な顔をして言った。

「でもさ、もしこの丘が、死ぬ前にだけ来られる場所だとしたら?ほんとは現実に存在しなかったとしたら?」

風が吹く。

草が揺れる。

チェロの音が、少しだけ低くなる。

ユリは続ける。

「私たち、毎日同じ夢を見てるでしょ。同じ丘で、同じ空を見て、毎日朽ちていく音を聞く」

それから、少しだけ笑った。

「もしかしたらここは、最後の練習をする場所なのかもしれないね」

「練習?」

僕が聞くと、ユリは夜空を指さした。

「最後の曲」

星が瞬いている。

空は大きな楽譜みたいで、その上に並ぶ星の音符が、まだ完成していない曲の続きを待っているように見えた。

「あの楽譜に終止符が打たれたときに私たちは旅立つんだと私は思うよ」

僕は死に近づいているという認めたくない事実を前にして黙ってしまった。それでも、勇気を出してひとこと言った。

「じゃあ間違えないように死ぬ前にたくさん練習しないとだな!

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