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エンディング(最後の時間)

どれくらいの時間が流れたのかは、わからなかった。


どれだけ遠くまで歩いてきたのか、はっきりとは思い出せない。


ただ―ひとつだけ、確かなことがある。


俺は、ユリのいない半年を生きた。寿命が来るまで俺は生きた


格好よくなんてなかったし、胸を張れるような毎日でもなかった。


何度も立ち止まって、何度も迷って、それでもどうにか、ここまで来た。


あいつが最後に残した言葉が、ずっと消えなかったからだ。


「ちゃんと、生きてね」


その一言が、何度でも俺を引き戻した。


――そして。


気がつくと、俺はまた、あの丘に立っていた。


夜の丘。


風が吹いている。


草が揺れている。


空には、あのときと同じように、音符みたいな星が並んでいた。


けれど――


音が、ない。


あれほど確かに鳴っていたはずの、低くて深い音は、どこにもなかった。


まるで、長く続いていた曲が、静かに終わったあとのように。


余韻だけが、そこに残っている。


俺は、ゆっくりと歩き出した。


考えるまでもなかった。


足は自然と、あの場所へ向かう。


丘の真ん中。


あいつと、並んで座った場所。


そこに――


「なぎちゃん、遅かったね」


声がした。


振り向く前に、わかった。


ずっと覚えていた声だった。


少し軽くて、でもどこか優しくて。


俺は、ゆっくりと振り向く。


ユリが、立っていた。


あのときと同じように、少しだけ笑って。


まるで、時間なんて止まっていたみたいに。


胸の奥が、静かに締め付けられる。


けれど、不思議と涙は出なかった。


その代わりに、ずっと張り詰めていた何かが、ようやくほどけていくのがわかった。


「……待たせたな」


それだけを言うと、ユリはくすっと笑った。


「ほんとだよー。もっと早く来るんだと思ってたー笑」


少しだけ拗ねたような声。


でも、その奥に責める色はなかった。


俺は、ユリの隣に座る。


あのときと同じ距離で。


あのときと同じように、空を見上げる。


星が並んでいる。


音は、もう聞こえない。


けれどそれでいいと、自然に思えた。


すべてが終わったあとだからこそ残る、静かな形だった。


しばらく、何も言わなかった。


それでも、時間は満ちていた。


ユリが、ぽつりと口を開く。


「ねえ」


「ん?」


「ちゃんと、生きた?」


少しだけ意地悪な聞き方だった。


俺は、ほんの少しだけ考えてから答える。


「……まあ、それなりにはな」


それが、一番正確だった。


完璧じゃない。


それでも、逃げなかった。


ユリは、小さく笑った。


「そっか」


その一言だけで、十分だった。


全部が、報われた気がした。


風が吹く。


草が揺れる。


夜は、静かに続いている。


もう急ぐ必要はなかった。


しばらくして。


ユリが、空を見上げたまま言う。


「……ありがとう」


その声は、とても小さかった。


でも、はっきりと届いた。


俺は、何も言わなかった。


言葉にしなくても、伝わると思ったから。


ただ、同じように空を見上げる。


星が、静かに瞬いている。


――そして。


夢を見た。


丘の上だった。


夜の風が、静かに吹き抜けている。


遠くには、街の灯りが小さく瞬いていて、

その上には――空が広がっていた。


けれど、それは普通の星空じゃなかった。


星は、音符みたいに並んでいる。


丸い光と、それを繋ぐ見えない線。


まるで、誰かが最後に残した楽譜みたいに。


そして―


その音は、もう鳴ってはいなかった。

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