ク▼ババア
その会社に訪問すると、引き抜きにあうという噂があった。そんなに資金豊富なのか? それとも常に人が足りないのか?
特に有益な資格もないので、そんな目にはあわないだろうとたかをくくっていたら、突然声をかけられた。
「あなた、いつも馬鹿みたいに元気いっぱいで良いわね。うちで働かない?」
は? 喧嘩売ってんの? それが第一印象だった。なんとこのオバハnじゃなかった。50~60代のふくよかな女性がここの社長らしい。年齢にそぐわない、派手な服装をしている。
「あの、ただいまこちらには、仕事(納品)でお伺いいたしております」
やんわり牽制してみた。
「そんなのわかってるわよ。だから、うちにぴったりだと思うのよ」
何がどうぴったりなんだよ? 仕事なんだから、愛想よく訪問するに決まってるだろ。この時点で、脳内は暴言しか思い付かない。
「どのようなお仕事なのですか?」
一応、社交辞令的に紳士な態度で尋ねてみた。
「卵売ったり、昆布茶売ったり、人を集めて色々するのよ」
その説明じゃわからん。怪しさしか伝わらん。会社概要もわからん職場で働きたい人はいないと思う。
「はあ、そうなんですか。ですが、転職の予定はありませんので、」
「うちで頑張れば良いのに。頑張れば月10万くらいになるわよ!」
穏便に断ろうと思ったら、言い終わらないうちに被せてしゃべってきた。それに今より月収下がりますが? 頑張って10万って、パートさんもいやがる数字。
「私、倍以上貰っておりますので、月10万のお仕事は致しかねます」
これで諦めるだろうと、あえて金額の差を話題に出してみた。
「そこは、遣り甲斐でカバーよ」
あ、こいつ、人として駄目なやつだ。後から揉めないためにも、わかりやすくはっきり断っておこう。こんな漆黒のどブラック、かかわり合いたくない。不幸しか生まない。
「大変申し訳ございません。転職の意思はないです」
はっきりと分かりやすく断った。でも食い下がってくる。
「あなたのような馬鹿みたいに明るい人、是非うちで働くべきよ。どうにかならないの?」
「大変申し訳ございません」
あくまでも丁寧に話し、しっかりと頭を下げた。
「勿体ないわあ。本当に勿体ない」
ふざけんな。むしろ私が、おまえの会社には勿体ないわ。申し訳なさそうな笑顔を浮かべ、脳内だけで悪態をついておいた。
去りながらも、「勿体ないわあ。本当に勿体ない」と言いながら歩いていった。
そして翌日、納品契約を突然切られた。事前注文分までキャンセルだ。しかも、昨日納品分も引き取りに来いと言っていたらしい。直接ではなく、私の態度が非常に悪かったと、わざわざ本社に電話してきたそうだ。
人事と社長に呼び出され、「信用しているけど、一応説明をしてくれる?」と、説明を求められたので、全て話した。まず、人を褒める単語ではない言葉で、形容されたことから。
「あんのクソババア」
社長が呟いた。
「あはは。本当にクソババアでした」
今までも度重なる直前の変更などで、会社も迷惑していたらしい。
あんなのが社長で収入も下がるところで働けとか、ホラーでしかない。何がホラーかって、ほぼ実話なこと。
世の中には、関わってはいけない人というものが居る。関われば被害しか受けない。




