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はははうちうじん  作者: 葉山麻代


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4/5

自白

 朝の満員電車でそれは聞こえた。


「やめてください!」


 女の子の声だ。なんだなんだ? 痴漢か?


「んだとー! 俺がおめーみてーなションベンくせーガキ触るわけ、ねーだろがぁ!!!」


 車内に、ガラの悪い男の大声がとどろく。


 これは大変、女の子は大丈夫だろうかと心配したが、車内は満員過ぎて、何処に居るかさえわからない。でも次に聞こえたのは、女の子の怯えた声ではなかった。


「私は、誰に何をされたか、まだ言っていません!!! 自分から触った白状するなんて、本当に頭大丈夫ですか?」


 確かに。触られたとは言っていない。何を嫌がったのかは、それを行った者と、された人しかわからない。

 回りの人たちがささっと避けて、混んでいるはずの車内に空間ができた。そして乗客がクスクス笑い出す。


「痴漢だってー、最低ー」

「キモチワルーイ」

「名乗り出る痴漢とか、プププ」

「誰か、次の駅で突き出した方が良いんじゃないか?」


「てめー、覚えてろよー!」


 電車のドアが開いたとたん、ガラの悪い男はもうスピードで走って逃げていった。



 家に帰ってこの話をすると、母も学生の頃は痴漢被害が酷かったらしい。そのせいで就職は、都心に向かわない方向を選ぼうと思ったそうだ。


「長い髪に小さい背だと、おとなしい女の子に見えるらしくてさ、痴漢被害は酷かったねぇ」

「防衛とかしなかったの?」


 質問の答えは、衝撃的だった。


「往復ビンタに、逃げる相手にハイヒールで蹴り入れるくらいしかしなかったよ」


 え? 防衛ではなく、反撃?


「充分なのでは?」

「同じ相手から何度も被害を受けたのに、1度も捕まえられなかったんだよね」

「あ、うん」


 母って、強いの?


「通学時に友人もいたから」


 な、成る程。1人じゃなかったのか。


「しつこいのもいてね。いくら車両変えてもついてきて、その日は1人だったから」

「それでどうしたの?」

「ドアが閉まる直前に飛び降りて、その白いスボンの人痴漢です!って、指差して叫んでみた」

「それで?」

「物凄く混んでいたのに、ささーと人が避けて、痴漢のそばから人がいなくなってた。ドアまで来て閉まったドアを叩いてた」


 それはなんとも。

 母は只者じゃないらしい。


「被害受けている人を助けたこともあるよ」

「そうなの!?」

「最初に言った、往復ビンタにハイヒールで蹴りは、毎朝痴漢してきた学生で、帰りの電車で私と良く似た風貌の女の子をあからさまに触ってたんだよね」

「それで?」

「車内は朝より空いてるから、間に入って口頭で止めようとしたら、また私まで触ってきたんで、往復ビンタして、逃げようとコケたところをハイヒールで蹴りとばした」

「あはは」

「助けた女の子には、泣いて感謝されたよ。いつも困ってたんだって。その後、3人くらいからも感謝されたよ。みんな背が低くて髪が長い子だった」

「タイプだったのかね?」

「是非、髪が長くて背が低い女の子がトラウマになれば良いなと思う」

「そうだね」


 そんな犯罪者からタイプと思われるのは嫌だよな。母は良いことをしたのかもしれない。


「ところでなんで、通学にハイヒール履いてんの?」

「その日、マナーの授業があって、正装してくるように言われたから、一番良いスーツと靴をね」


成る程ねえ。


「他にもあるけど、聞く?」

「あはは。もうやめとく」


 母の昔話はあまり聞くもんじゃないと、物凄く思った。

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