はははうちうじん
うちの母は、たぶん変わっている部類なのだと思う。
本人曰く、「早く時代が私に追い付けば良いのに」らしい。
母が気に入ったものは、大体廃盤になる。
「あー、○○社製のシャンプー、○○の香りだけ廃盤になったー!」
今日も嘆いていた。
今日たまたま行ったスーパーで、身障者用駐車スペースに停めている、年中ハロウィンみたいなセンスの車から、ファッションもハロウィンな感じの人が出てきた。今は春先だ。
足が不自由な人なら、見てすぐわかるかもしれないけれど、見てもわからない病気の人もいるから、なんとも言いようがない。
その時、ふと、幼い頃に母に言われたことを思いだした。
「どうしてここに停めないの? お店近いよ?」
「この場所はね、足や体の不自由な人が買い物しやすいように、空けてある専用スペースなのよ」
「そうなんだ。ここに停める人は、早く良くなると良いね」
「そうね」
そんな会話をしていると、車高短の改造マフラー車がそこへ停めた。ブァオン ブァオンと、マフラー音が異様に五月蝿い。
降りてきた人は、咥え煙草の、見た目に健康そうな若者だった。
「ママ、あそこに停めた人はどこが不自由なの?」
「んー、頭と、モラルと、性格かしら」
「そんなにいっぱい不自由なんて、かわいそうだね。早く良くなると良いね」
「うふふ、そうね」
ちょー!当時の母、皮肉がわからない純粋な子供に何教えてんの!?
そういえばその当時、若い男性がおにいさんで、若い女性がおねえさんで、それより年上が、男性はおじさんで、女性の呼称を教えてくれなかった。
「すべての女性は『おねえさん』って呼んでおけば良いのよ」
母が言うのだから、そうなのかと、そう呼んでいたが、試食販売の販売員の女性に「おねえさん、ママがどれを売ってるのって聞いてた!」と、美味しかった試食のそれを買って貰おうと商品を聞いてみたら、売り出しの商品を渡された他に、おまけをものすごくたくさんくれた。
母に渡すと、さすがにおまけの多さに驚いて、販売員さんのところまで話を聞きに来た。
「あら、このお坊っちゃんのお母様かい? 」
「何かありましたか?」
「おねえさん、だなんて、初めて言われたよ!」
「女性の呼び方は『おねえさん』しかないと教えているもので」
「素晴らしい教育してるね! みんなそうあるべきだよ!」
当時の、ばあばくらいの年齢の販売員さんだった。
結局、母は教えてくれず、幼稚園に入って聞くまで「おばさん」と言う呼称を知らなかった。
完全自由服の高校に行っていた頃、ここは異世界か?という程、色々な髪色の生徒が居た。
茶髪なんて全く目立たない。金髪、銀髪、まだら、赤、ピンク、緑、紫、黄色と、リアルアニメ髪、髪色の見本市のような状態だ。
生まれつきの少し茶髪を気にしていたが、ここでは黒髪の扱いだ。
「なあ、髪染めないの? 就職したら無理だから今のうちだぜ!」
「成る程、何色似合いそう?」
「青って居ないから、青は?」
「青か。考えてみるよ」
友人とそんな会話をして家に帰った。
「髪、染めようと思うんだけど」
「へぇ」
あれ?反対しないんだな。
「何色に?」
「青なんてどうかな?」
「何色に染めても良いけど、青は、しっかりブリーチしないと青く見えないよ」
「そうなの?」
「若干茶髪と言っても、適当な抜け具合に青を染めると、発色が緑っぽくなるよ」
「何でそんなこと知ってるの?」
「若い頃に、ロングのソバージュヘアを青いヘアマニキュアで染めたら、あだ名が若布ちゃんになりました」
「うわ・・・」
生まれながらの茶髪ヘアは、母譲りなのか?
母の髪も、染めずに茶色い。(母の方がより茶色い)
「ところで、何で反対しないの?」
「反対してほしいの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「なら、正論ぶちかましてあげよう。青を染められるほどのブリーチは、毛根にダメージが大きいから、あまり繰り返すと、将来」
そこまで言って、母は目線を泳がせた。
目線を追った先には、父の頭皮が。
なんという説得力!
「それでも反対はしないんだ」
「自己責任でしょう」
「反対する事柄は無いの?」
「犯罪と入れ墨は反対するよ」
「だからピアスも何も言わなかったのか」
「まあ、驚いたけどね」
ピアスについては、母よりも父の方が驚いたらしい。
「ピアスするなとは言わないけど、いきなりだから驚いたよ」
「そんなに驚く?」
「なら、学校から帰ってきたら、父さんがピアスしていたら驚かないか?」
「とりあえず、正気を疑う」
「まあ、開けないけど、それと同じくらい驚いたよ」
そして、ブリーチせず、自宅で青く染めてみたが、髪色が黒く見えるようになっただけだった。




