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25年周期の都市伝説  作者: けろよん


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第7話 見えざる手

 杉本市議がカフェのテーブルに座ると、その沈黙の中で空気が一層重く感じられた。彼の顔はどこか冷静でありながら、何か引き裂かれるようなものを抱えているようにも見えた。彩花は彼の目をじっと見つめ、息を呑んだ。


「杉本市議、私たちは町を守りたいんです」


 彩花は力強く言った。


「再開発計画に隠された真実を、私たちは知りたい。25年前、なぜ計画が中止されたのか、そしてその背後に何があったのか、全部」


 杉本市議は軽く微笑みながら、静かに答えた。


「君たちは、かなりの覚悟を持っているようだね。でも、その覚悟がどれほど深いものなのか、君たちが理解するにはまだ時間がかかるだろう」


 翔太が即座に反応した。


「どういう意味ですか?」


 杉本は一瞬、沈黙を保った後、ゆっくりと語り始めた。


「25年前のあの日、再開発計画は確かに中止された。しかし、それは町の未来を守るためではなく、私たち自身を守るためだった。君のお父さんが選んだ『道』は、確かに多くの命を救うものだったが、同時に、町の一部の人々が命懸けで守ってきた秘密を明らかにしてしまうことになる」


 その言葉に、彩花は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


「秘密……? それが町の奇跡と関わる事なのですか?」

「そうだ」


 杉本は厳かに頷いた後、ゆっくりと続けた。


「25年前、再開発計画が進行していれば、確かに町に莫大な利益がもたらされただろう。しかし、それと同時に、この町は見えない『力』に支配されていた。町の上層部には、外部の企業と密接に繋がり、違法な取引を繰り返していた者たちがいる。その『力』を暴くことは、町の全てを壊すことに繋がりかねなかったんだ」


 彩花は驚きと恐怖が入り混じった感情で彼を見つめた。


「……その力って、どれほどやばい物なんですか?」

「やばいなんて物じゃない。それはまさしく町を動かしてきた伝説だ。君のお父さんも、それを知ってしまった」


 杉本はその目をじっと見つめ返してきた。


「そして、君が思っている以上に、お父さんはその『力』と戦っていた。しかし、彼の選択が町を守るためだったか、それとも自分を守るためだったかは、誰にも分からない」


 彩花は言葉が出なかった。その瞬間、すべてが歴史の渦に呑まれて混乱し、父の姿が遠く感じられるようになった。父が選んだ道、その背後に何があったのか、今の自分では計り知れない。


「杉本市議、お願いです。教えてください」


 翔太が声を震わせながら言った。


「僕たちが知るべき真実を、全て」


 杉本は静かに目を閉じてから、深く息を吸った。


「君たちが知ることのできる真実は、もうすぐ暴かれるだろう。だが、それには大きな代償が伴う。君たちが望んでいるものが明るみになったとき、町の未来がどうなるか、覚悟はできているのか?」


 翔太は固くうなずいた。


「僕たちが知るべき真実があるなら、それを知るのが町を守る唯一の方法です」

「覚悟ができているのなら、伝えよう」


 杉本は目を開け、まっすぐに彩花を見つめた。


「25年前、君のお父さんはある『契約』を結んだ。それは、町を再開発し、外部の企業に利益を与えることではなく、実は町を『支配する力』を抑えるためのものだった。その契約には、君のお父さんが選んだ犠牲が含まれていた」


 彩花はその言葉を噛みしめた。


「契約? どんな契約ですか?」


 杉本は小さくため息をつきながら言った。


「君のお父さんは、町の上層部が関与している違法な活動を暴くことなく、再開発計画を中止した。その裏で、ある者たちに『口封じ』の代償を払うことを約束したんだ。それは、ただの金銭的な取引ではない。君のお父さんは、自分の命を掛けて、町を守った」

「命を掛けて……?」


 彩花は声を震わせて尋ねた。


「どういうことですか?」

「君のお父さんは、ただ一つの条件を提示した。それは、再開発計画を中止させ、町の大部分を守ること。その代わりに、彼の家族—君たちの家族—が決してその真実に近づくことがないようにするという約束を、暗黙のうちに交わしたんだ」


 翔太は思わず息を呑んだ。


「それなら、彩花のお父さんは、自分の家族のために命を捧げたということですか?」


 杉本は静かに頷いた。


「その通りだ。しかし、君のお父さんが選んだ道は、全てを守るものではなかった。君が今、再びその真実に近づこうとしていることは、町の未来を変えることになるだろう」


 彩花は、心の中で激しく葛藤していた。父が選んだ道は、本当に町を守るためのものだったのか。それとも、家族を守るために選ばれた「自己犠牲」だったのか。その真実が明らかになったとき、彼女は何を守り、何を捨てることになるのだろう。


「私、もう戻れません」


 彩花は静かに言った。


「父が選んだ道を守り、私はその真実を掴みます。それが町を守る唯一の方法だと思うから」


 杉本は深く息を吐き、そしてゆっくりと立ち上がった。


「君の決意を尊重しよう。だが、その先に待っているものを知っているか?」


 彩花は静かに答えた。


「何が待っていても、私は進みます。父が遺したものを、私は受け継ぐ覚悟を決めたから」


 杉本市議は、彼女の目をじっと見つめた後、口を開いた。


「それなら、これ以上は私が言うことはない。君たちの未来を決めるのは君たちだ」


その言葉が、彩花の胸に深く刺さった。

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