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25年周期の都市伝説  作者: けろよん


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第3話 25年前の失われた秘密

 夕暮れ時、篠田陽一の家の庭に沈黙が広がった。空の色が赤く染まり、温かな風が木々を揺らす中で、彩花はその言葉の重さに圧倒されていた。


「君の父親は、『奇跡』を選んだ」


 篠田の言葉は、まるで歴史の中に刻まれた運命のように響いた。


「奇跡を選んだ?」


 彩花はその意味を飲み込むことができず、思わず繰り返す。


「それはどういうことですか? 父のやった事に都市伝説がどう関わってくるのですか?」

「それを君に話していいものか、すでに過ぎ去った遠い過去の事だ」

「それでも知りたいのです。お願いします」


 篠田は長い沈黙の後、ゆっくりと答えた。


「25年前、君の父親はこの町を守るために命を賭けた。そしてその選択は、町に『奇跡』をもたらすことを約束するものだった。だが、その奇跡は決して簡単なものではなかった」


 彩花はますます混乱した。


「『奇跡』って、一体何なんですか?」


 篠田は深いため息をつき、視線を遠くに向けた。


「25年前、この町では再開発計画が進められていた。その計画は、町の土地を売り払い、大きな企業を誘致することで経済を活性化させるというものだった。それだけだったらどこにでもあるありふれた事だったかもしれない。しかし、その裏には町を支配しようとする大きな力があった」

「大きな力?」


 彩花は言葉を続けた。


「それって……町のリーダーたちのことですか?」

「そうだ。だが、それだけではない。あの時、町を支配しようとしていたのは、地元の有力者達だけではなかったのだ」


 篠田は視線を彩花に戻し、次の言葉を慎重に選んだ。


「実は、あの再開発計画には外部からの圧力があった。その圧力をかけていたのは、ある企業を背後で支える力を持つ者たちだ」


 彩花は心の中で、何か恐ろしい予感を感じた。再開発計画が町の未来を変えようとしていたとき、父親はその計画に反対していたのだ。


「その力を引き止めたのは、君の父親だった。君の父親は、町を守るため、再開発計画を止めることを決意したんだ」


 篠田は続けた。


「そして、その時、君の父親は選ばれた。ある者が町を守るために犠牲にならなければならない。その『犠牲』が、25年周期でやってくる『奇跡』に繋がるのだ」


 彩花は言葉を失った。父親が「犠牲」になることで、町が救われるというのは、あまりにも残酷な話だった。それが「奇跡」だと言われても、どうしても信じられない。


「それが『奇跡』だと言うんですか?」


 彩花は声を震わせながら問いかけた。


「そうだ。君の父親が犠牲になったことで、町は間違った再開発計画から救われ、町は新たな未来に向かって動き出すことができた。しかし、その代償は大きかった」


 篠田は目を閉じ、何かを思い出すように呟いた。


「君の父親がいなくなったことで、町は平穏を取り戻した。しかし、君自身もそのことを知ってしまった今、君がこの町をどうするのかが問われることになるだろう。25年後の今、君がここを訪れたのはきっと偶然ではない。運命なのだ」


 彩花は胸が締めつけられるような思いを感じた。父が何を守ろうとして、どれほどの覚悟でその選択をしたのか。彼女の心の中で、まだ信じたくない感情が渦巻いていた。

 しかし、同時に、新たな「奇跡」を起こすことができるのは、自分しかいないのだという責任感も湧いてきた。


「でも、どうして父は自分のことを話さなかったんですか?」


 彩花は声を絞り出した。


「なぜ、私にその真実を伝えてくれなかったんですか?」


 篠田はその問いに答えることなく、静かに庭の木を見つめていた。しばらくの間、重い沈黙が二人の間に流れた。


「君の父親は、君がこの町を守るべきだと望んではいなかったんだ」


 篠田はやっと口を開いた。


「彼は君に、自分がどんな犠牲を払ったのか、そしてその後に起こる『奇跡』のことを知ってほしくなかったんだ。君が町を守る者になるには、君自身もまた犠牲を払うと思ったからだろう」


 その言葉が、彩花の心に深く響いた。父親の決意と、彼女への愛が込められているのを感じた。


「だが、25年の周期が来た今、再び奇跡の時が訪れた。君がこれから何を選ぶかによって、この町の未来が決まる」


 篠田は再び静かな声で言った。


「君がこの町を守るために、何かを犠牲にする覚悟を持てるかどうか、それが重要だ」


 彩花はその言葉を噛み締めた。そして、心の中で決意を固めた。彼女はただの一人の町の住人ではなく、この町の未来を背負う者として、何を選ぶべきかを考え始めていた。




 その夜、彩花は家に戻ると、父が生前使っていた書類や手帳をもう一度見直すことにした。もしかすると、何か手がかりが残されているかもしれない。彼女はもう一度、父の足跡を追い始めることを決めた。


 そして、父が残したものが何か大きな「秘密」に繋がっていることを確信した。




 翌日、図書館。


 彩花は篠田から教わった通り、町の古い記録や新聞記事を調べ始めた。その中に、父親が関わった再開発計画の詳細が記されている記事を見つける。そこには、計画を阻止しようとする父親の決意と、そしてその後に何が起こったのかが書かれていた。


 突然、彼女の目の前に伊藤翔太が現れた。翔太は町の若手記者で、彩花が以前からよく話す友人でもあった。


「彩花、何か見つけた?」


 翔太は興味津々で尋ねた。彩花は静かに落ち着いて答えた。


「父が残したものには、町の未来を決める秘密がある。これを解き明かさなければ、私たちの町はまた同じ過ちを繰り返すかもしれない」


 翔太はその言葉に真剣な表情で頷いた。


「僕も手伝うよ。一緒にこの謎を解こう」


 彩花は翔太の言葉に少しだけ安心し、そして再び手元の書類に目を通し始めた。

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