第20話 選ばれし者たち
片岡の冷徹な視線が、部屋の中にいた全員をじっと見つめていた。彼の背後に立つ警備員たちも、手に持った武器を構え、緊張感が一層高まる。だが、彩花、翔太、そして田村の周囲には、今までにない種類の決意が漂っていた。それは、力で支配することを拒絶し、共に戦おうとする町の人々の意思が集まったからこそ生まれた強い絆だった。
田村が静かに言った。
「片岡、君のやり方では、町は救えない」
片岡は不快そうに眉をひそめ、短く笑った。
「救う? お前が何を言っているのか分からないが、お前たちがいくら抵抗しても、力を手にした者が勝つ。それがこの世界の法則だ」
「それがお前の考えなら、それはお前が自分勝手に妄信しているだけだ」
翔太が強い口調で言い返す。
「でも、僕たちは違う」
翔太の言葉には迷いがなかった。その心の奥に、町を守るための本当の力が宿っていると感じていた。力を使うことなく、誰もが平等に共に生きる道を模索する。そのために、彼はどんな困難でも乗り越えようと決めていた。
「彩花さん、翔太くん、僕たちも一緒に戦います」
町の住民たちがその一言で声を合わせた。リーダー格の人物が、手に持っていた地図を広げながら言う。
「片岡の計画を止めるためには、町の全員が協力するしかない。私たちは、君たちの力になる」
その言葉に、彩花は心を打たれた。町の人々が自分たちと共に立ち上がる決意を固めた瞬間、彼女の胸に熱いものが込み上げてきた。これが本当の力、信じ合う心と協力の力だ。彼女はしっかりと息を吸い、片岡に向かって言葉を放った。
「あなた達がいくらお金と権力を振りかざしても、私たちには守りたいものがある。それが何より強い力なんだ」
片岡は再び冷笑を浮かべた。
「守りたいものだと? 君たちのその理想が、どれだけ無力か分かっていないな。力こそが全てだ」
「そう信じるしかないのが君の弱さだ」
田村が静かに言う。彼の目の奥には確かな決意が宿っていた。
「君の求める力は、暴力にしかならない。それでは、誰もが苦しむことになる」
片岡はその言葉を無視し、冷たく笑った。
「それはどうだろうな。お前たちがどんなに立ち向かおうと、この町の運命はもう決まっている」
その瞬間、片岡は手を振り上げ、背後の警備員たちに指示を出した。警備員たちは一斉に動き、彩花たちに向かって迫り始めた。しかし、その動きに予想外の反応があった。
町の住民たちが、片岡の警備員たちを前にして立ち上がったのだ。一人ひとりが、かつての町の歴史や記憶を守るため、そして未来を切り開くために、一歩踏み出した。
「私たちも戦う」
リーダー格の人物が静かに言った。
「この町は私たちのものだ。誰かに支配されるわけにはいかない」
住民たちは無言でそれぞれの場所に立ち、片岡の警備員たちと向き合った。彼らの目には、かつてないほどの決意が宿っていた。
片岡はその光景を見て、目を細めた。
「愚かだ。所詮一般人が全員で抵抗しようとしたところで、無駄なことだ」
「それを試してみればいい」
田村は静かに言い、周囲にエネルギーを放出させた。部屋の空間が一瞬、震えた。
すると、片岡の顔にわずかな不安の色が浮かんだ。
「まさか、お前……力を捨てたのか……?」
「ああ、地下へ流した。もう必要ない」
その瞬間、彩花が一歩前に出た。彼女の目は鋭く、決して揺らがない。
「私たちの町を、あなたに渡すわけにはいかない」
翔太も続けた。
「町を守るためには、何を失っても守り抜く。その覚悟を持っている」
田村が手をかざし、みんなを鼓舞する。すると、町の住民たちも一斉にその場で立ち上がり、手を取り合い始めた。無言のうちに、彼らの心がひとつになり、力が集まっていく。
片岡はその異常な光景に目を見開き、ついに警戒を強めた。
「何だ……この力は? 箱の力とは違うぞ」
「これが、町の力だ」
彩花は静かに言う。
「私たちは一人じゃない。町の全員が、心を一つにしている。それが、本当の力なんだ!」
その瞬間、町の住民たちの手のひらから光が放たれ、部屋の中が一瞬、まばゆい光で満たされた。光の中で、片岡の警備員たちはひとり、またひとりと後退し、片岡も動きを止めた。
「こ……これは……そうか、奇跡。奇跡を起こしたのか!」
片岡の顔に冷や汗が浮かんだ。
「25周年の今、奇跡を起こすのは箱じゃない。あの力は、もはや無意味だ」
田村は冷静に言った。
「遺物の力で支配することが、本当の力だと思っていたあなたは、結局、心を持たない者だった。だが、私たちは違う。私たちはこの町と共に生き、守り、未来を作り出す」
その言葉が空間に響き渡った瞬間、片岡の顔に深い恐怖の色が浮かんだ。彼はただひとことも発せず、後退していった。自分が信じてきた力が、今、目の前で崩れ落ちていくのを感じているようだった。
「町は、力で支配されるものではない」
彩花がゆっくりと、片岡を見据えて言った。
「町を守るのは、私たちみんなの心の力だ」
その言葉と共に、片岡はついに姿を消した。警備員たちも、彼の指導の下ではもう戦うことなく、足早に部屋を出て行った。
部屋の中に静寂が戻り、彩花たちはその場に立ち尽くしていた。町の人々は、互いに手を取り合い、深く息をついていた。戦いは終わり、奇跡を起こしたのは伝承の力ではなく、協力と信念だった。
彩花は翔太を見つめながら、静かに言った。
「私たち、できたんだね」
翔太は微笑んで頷いた。
「うん。みんなの力で」
その時、町を守るための新たな一歩が、確かに踏み出されたのだった。




