第16話 反乱の兆し
町の朝はいつもと変わらない。だが、彩花と翔太の心の中には、明らかな違和感が広がっていた。坂本が警告した通り、町の力を巡る動きが加速している。企業と政府の関係者たちが、背後で何かを企んでいるのを感じていた。
翔太は目を覚まし、無意識に窓の外を見つめた。少し霞んだ空の下、街は何も変わった様子もなく、静かに動いている。しかし、その中には不穏な空気が漂っているのを彼も感じていた。
「何かが変わりつつある」
翔太がポツリと言った。
「うん……私も感じる」
彩花がゆっくりと答えた。
二人は一緒に、昨夜の坂本との会話を振り返りながら歩き出した。坂本の言ったことが本当なら、この町の問題は、もはや再開発計画という表面上の事柄だけでは済まされない。一部の企業や政府の関係者が、裏で力を手に入れようとし、町の支配を目論んでいる。彩花はそのことに強い危機感を覚えていた。
「これからどうする?」
「坂本さんが言ってた通り、私たちには戦う覚悟が必要だと思う」
彩花は決意を固めた表情で答えた。
「でも、奇跡の力を使うわけにはいかない。私たちが信じるのは、人々の力だと思うから」
翔太はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと言った。
「でも、坂本さんが言ってたように、今やそれができない状況にあるかもしれない」
その言葉に、彩花は心の中で再び迷いが生まれる。
しかし、どんなに不安になっても、力を使うことで町を支配することだけは避けなければならない。お父さんが残したもの、それはただの「力」ではなく、人々が支え合い、共に歩む未来を信じることだと、彼女は思い続けていた。
二人が町の中心に向かう途中、突如として目の前に現れたのは、見慣れた人物だった。警察官の佐藤だった。彼は真剣な顔つきで二人に近づいてきた。
「彩花さん、翔太くん、少し話がしたい」
佐藤は低めた声で言った。
「何かあったんですか?」
彩花は不安そうに尋ねた。
「町の中心に近づかない方がいい」
佐藤の表情は普段の温和な姿勢とは裏腹に、鋭く険しかった。
「政府の関係者たちが動き出してる。あの箱のことも関係している」
翔太がすぐに反応した。
「箱? あなたもそれを知って……?」
「ああ、君のお父さんには世話になってね。あれを巡る動きが、裏で静かに始まっている」
佐藤は急かすように続けた。
「すでにいくつかの手がかりがあるが、警察としても手が出せない。だが、君たちが動くことで状況が変わるかもしれない」
「手が出せない?」
彩花は首を傾げた。
「警察にも出来ないことが、私たちに出来ると言うんですか?」
「今すぐ、町の中央広場に向かってほしい。そこはすでに警備を強化しているが、君たちなら何か手に入れられるかもしれない」
佐藤は力を込めて言った。
「あそこには、鍵となる人物がいるんだ。君たちが直接対話すれば、何か情報が得られるかもしれない」
「分かりました」
翔太が短く答えた。
「でも、気をつけてください。佐藤さん。あの箱は危険です」
「分かっているさ、ずっと前から。君たちに託すよ」
佐藤は頷き、立ち去った。その姿を見送った後、二人はすぐに行動に移すことを決めた。
町の中央広場に到着した二人は、まず周囲を警戒した。警備が強化されているとはいえ、そこに立つ人々の顔には不安が色濃く浮かんでいた。再開発計画に対する反発の声も高まっており、何かが大きく動き出す前触れのようだった。
「誰かがここに来るのを待っているのかな……?」
彩花がつぶやくと、翔太が少し前に出て言った。
「もう少し待ってみよう」
しばらくして、中央広場の一角にある古い建物から、少し年老いた男性が歩いて出てきた。彼の姿に、彩花は見覚えがあった。町の初期開発に携わっていたという、かつての町長の一人、田村だ。
「田村さんだ」
翔太が言った。
二人は急いで彼の元へ向かい、声をかけた。
「田村さん、久しぶりです」
彩花が声をかけると、田村は驚いた顔をして立ち止まった。
「君たち……彩花さん、翔太くんか」
「覚えていてくれて嬉しいです。ちょっとお話を」
翔太が言うと、田村は警戒しながらも頷いた。
「警備が物々しいですけど、何か危険なことをしようとしている人たちがいるんですか?」
彩花が尋ねると、田村はしばらく沈黙し、周囲を見回した後、低い声で答えた。
「実は……君たちの言う通りだ。再開発計画には、裏で企業や政府の手が入っている。それだけじゃない。君たちの父親が封印した力を手に入れようとしている者たちがいる。彼らがこの町を狙っている」
その言葉に、二人は息を呑んだ。
「彼らがその力を使えば、町はどうなる?」
翔太が急いで尋ねた。
田村は深いため息をつき、しばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。
「その力を使うことができれば、この町は一瞬で再建されるかもしれない。しかし、その力を使った者たちは、力でこの町を支配することになるだろう」
「それじゃ、誰も彼らに逆らえなくなる? 侵略ではないですか」
彩花は息を呑んだ。
「その通りだ」
田村は静かに答えた。
「だが、君たちはその力を使わずに町を守る方法があると言った。それが、君たちの父親が望んでいた本来の道だった」




