第14話 解放の選択
坂本の言葉が、地下空間に響き渡った。彼の冷徹な笑みが、二人の心に重くのしかかる。翔太と彩花は、目の前の「遺物」を見つめ、息を呑んだ。箱は静かに輝き、その不気味な存在感が圧倒的だった。
「選べ」
坂本の声が再び響く。
「力を解き放つのか、それとも封印するのか。君たちが決めなければ、何も始まらない」
彩花は息を呑んだ。
「でも、坂本さん……もしこの力を解き放ったら、この町がどうなってしまうか分からない。お父さんだって、それを避けたかったからこそ、この箱を封印したんじゃないですか?」
坂本は一瞬、彩花を見つめた後、冷徹な笑みを浮かべて言った。
「君の父親は、恐れていたんだ。だが、それは誤りだった。この力を解き放てば、町の未来が輝かしいものになる。そのためには、恐れを捨てるべきだ」
「輝かしい?」
彩花は不安そうに言った。
「それが本当なら、どうしてお父さんは命をかけてまで、あんなにもこの箱を守ろうとしたの?」
坂本は無言で少し歩き、壁に掛けられた古びた写真を指差した。それは、若き日の彩花の父親が写っている写真だった。バックには、この町の再開発が始まる前の景色が広がっている。
「君のお父さんも、この町を再建するために戦っていた」
坂本は静かに語った。
「だが、力を手にした時、彼は恐怖に飲み込まれた。その力を使うことで、町が破滅するのではないかと恐れたのだ。彼は力を解き放つべきだと分かっていたが、それが恐ろしいことだとも知っていた。だから、封印し、誰にも触れさせなかった」
翔太はその言葉を胸に刻むように聞き、深く考えた。封印された箱。それを解き放つことが、この町の運命を決定づけることになる。
「だが、封印しているだけでは、結局何も変わらない」
坂本は冷静に続けた。
「町は衰退し続ける。君たちのお父さんが望んだ未来、町を再生させるためには、何かを変えなければならない」
彩花はその言葉を聞いて、心の中で葛藤を抱えた。お父さんが守りたかった未来とは一体何だったのだろうか。力を解き放つことが、その答えなのだろうか。
「力を解き放つことが、町を救うと本当に思っているんですか?」
翔太が問いかけた。
坂本は微笑んだ。
「もちろんだ。この力を使えば、再開発は加速し、町の経済は急速に回復する。失われたものを取り戻すことができる。そして、君たちがその力を受け入れれば、町を支配する力が手に入る」
彩花はその言葉を聞き、心の中で震えが走った。
「支配する力……? それって、町の人々の自由を奪うことになるんじゃない?」
坂本の目が鋭く光った。
「自由だって? 自由は力を持って初めて守れる。力を持ってこそ、守られるべきものを守れるんだ。君たちが力を受け入れれば、君たちの手で町を新たに作り上げることができる」
その言葉に、彩花の心が揺れた。町の再建。それは確かに大切なことかもしれない。しかし、力を使って町を支配することが本当に正しい方法なのか? 彼女の心には、お父さんが示した「封印」の選択がずっと引っかかっていた。
翔太がふと立ち止まり、彩花に目を向けた。
「彩花、俺たちが決めなきゃいけないのは、これだよね」
彼の言葉に、彩花は少し驚いた。翔太は真剣な表情で続けた。
「町を支配する力を手に入れることが、果たしてみんなのためになるのか。君のお父さんが封印した理由が、俺たちにはまだ分からない。でも、僕たちが選んだ道が、この町の未来を決めるんだ」
彩花はしばらく黙って考えた。そして、決心を固めたように、坂本に向き直った。
「私たちは力を解き放つわけにはいかない」
坂本の顔に、一瞬だけ驚きが浮かんだが、すぐに冷徹な表情に戻った。
「君たちがそれを選ぶなら、覚悟を決めろ。この力を封印したところで、町は沈んでいくだけだ。君たちが選んだ道は、決して後戻りできない。奇跡を起こせるのは25年周期だと決まっているのだから」
「私たちが選ぶ道は、町のためじゃなくて、人々のためにあるべきだ。奇跡を頼らずとも行動は出来る」
彩花は言い切った。その言葉が、彼女の心に強く響いた。
翔太も続けた。
「力を持って支配することが、町を良くするわけじゃない。力を使わずに、町の人たちと共に未来を作るべきだと思う」
坂本は静かに立ち尽くし、二人をじっと見つめていた。その瞳に、わずかな痛みのようなものが浮かんだように見えた。
「君たちが選んだ道が、町をどう変えるかは分からない。でも、君たちがその道を選ぶなら、俺は……」
坂本は少しの沈黙の後、ゆっくりと息を吐いた。
「分かった。力を使わずに町を変えられるのなら、それが最良の方法だと信じよう」
その言葉に、彩花は安堵の息を漏らした。
「ありがとうございます。分かってくれて」
しかし、彼女の心の中にはまだ不安が残っていた。選んだ道が正しいのかどうか、答えは出ていない。それでも、今は一歩踏み出すしかない。
坂本は静かに振り返り、暗闇の中に消えていった。翔太と彩花は、再びその大きな箱の前に立った。箱が放つ不穏な気配を感じながら、二人はそれに背を向け、足を踏み出した。
「これで終わりじゃない」
翔太がつぶやくように言った。
「うん、都市伝説はこれから起こる」
彩花はしっかりと答えた。
「これから、私たちが町をどう変えていくかが、本当の始まりだよ」
二人は暗い地下道を抜け、再び地上へと戻っていった。箱に触れることなく、力を解き放つことなく、彼らは未来への一歩を踏み出した。




