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25年周期の都市伝説  作者: けろよん


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第1話 伝説のはじまり

 佐藤彩花は、静かな町の図書館で書類を整理していた。都会の喧騒から逃れ、両親の遺産整理のために帰郷してから、もう一ヶ月が経とうとしていた。町に戻るのは10年ぶり。中学生だった頃に家族とともに暮らしていたこの町は、記憶の中で何もかもが少しずつ色あせ、遠くなっていた。


 だが、帰ってきたときに感じたのは、思い出していたはずの懐かしさよりも、どこか物寂しさの方が強かった。町の風景は変わり、その空気に親しさを感じることができなかった。


 午後の光が窓から差し込み、木製の書架が薄暗く照らされている。彩花は何気なく棚の隅に積まれた古い本を手に取った。それは、町の歴史を記した一冊の重厚な本だった。タイトルには「25年周期の奇跡」と書かれていた。背表紙の色あせた文字を見て、彩花はふっと息を呑んだ。


「25年周期……?」


 何となく興味をそそられ、ページをめくり始めた。すると、そこには驚くべき内容が書かれていた。


---


『この町には、25年ごとに必ず何かしらの奇跡が起きると言い伝えられている。その奇跡は、町全体の運命を変えるような出来事であり、時には人々の命をも左右する。だが、誰もその奇跡が何なのかを知る者はいない。25年が過ぎるたびに、その奇跡は町に訪れ、そしてまた25年後に繰り返されるのだ』


---


 彩花はページをめくる手を止め、思わずその言葉を読み返す。何度も目をこすりながら、目の前に広がる不思議な世界に引き込まれていった。

 この町には、25年周期で起こる「奇跡」があるという。この話を聞いたことがあるような気もするが、まさか本当に伝説として町の歴史に記録されているとは思わなかった。


「奇跡……?」


 彩花は心の中で呟いた。どうしてもその「奇跡」に対する疑問が拭えない。無理に信じることはできないが、なぜかその「奇跡」の背後に隠された真実が知りたくなった。そう思うと、心の中で次第に好奇心が芽生えていった。


 そのとき、図書館の扉が開き、視線を感じて振り返ると、見覚えのある人物が立っていた。


「おや、彩花ちゃんか」


 その声に振り向くと、町の長老である篠田陽一しのだ よういちがニコリと笑いながら立っていた。白髪交じりの髭を生やし、眼鏡をかけた彼は町でとても尊敬されている人物だ。


「陽一さん。お久しぶりです」


 彩花は自然と微笑んだ。篠田は、子供の頃からの顔馴染みで、彩花の祖父とも親しい関係にあった。


「まさか、君がこの町に戻ってくるとは思わなかったな。どうだ、こっちの生活は?」

「まあ、なんとかやってます」


 彩花は苦笑しながら答え、せっかくだから彼にも聞いてみようと思った。


「実はちょっと、町の歴史に興味が湧いて、こんな本を読んでいたんです」


 彩花が差し出すと篠田は気前よく笑ってそれに目をやった。


「25年周期の奇跡。それか……」


 篠田は何か言いかけて、少し考え込んだ。やがて、静かに言った。


「それは、君の父親とも関係がある話だ」

「父の……?」


 彩花は驚いて顔を上げた。


「君の父さんがいなくなった年、その『奇跡』が起こったんだよ」


 彩花は動揺した。父が失踪したのは25年前。まだ物心がつくよりも前の古い出来事。周りの人達から話だけは聞いていたけれど、今さらその頃の話をされるとは思っていなかった。


「でも……『奇跡』が父とどう関係が?」


 篠田は一瞬黙ってから、じっと彩花を見つめた。


「君の父親は、町を守るために命を賭けた人物だった。そして、その選択が、この町の未来を決定づけたんだよ」


 彩花は言葉を飲み込むことしかできなかった。父親の失踪には何か重要な意味があるのかもしれない。彼が「町を守るために命を賭けた」と言われて、初めてそれが単なる偶然ではないことを感じた。


「その話、もっと聞かせてください」


 彩花は決意を込めて静かに言った。篠田は少し間をおいてから、ゆっくりと答えた。


「それは25年周期の『奇跡』が、君の手の中にあることを意味するんだ」


 物語の始まりとなるこの瞬間、彩花は父の失踪と町の伝説に関わる謎を追う決意を固める。それは、彼女自身の運命を大きく変える旅の始まりでもあった。

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