2-5 掴んだ希望
走る。ひたすら走る。呼吸は乱れ、冷たい空気が口からなだれ込んでくる。痛い。苦しい。だがそれは足を止める理由にならない。
(助けを呼ばなきゃ...!!それができるのは私だけ...!)
セイラはナハトのため必死に山を降りる。ナハトは事情も聞かずセイラを命がけで助けてくれた。今度は自分が助ける番だ、と奮起する。
それはナハトのためでもあり、自分のためでもある。被害はほとんどなかったといえど雪崩を起こした犯人であることには変わらない。罪滅ぼし、ではないが何かを成しえたかった。そうせずにはいられなかった。
「あっ!!」
雪の中走っていたせいか上手く踏み込めず転んでしまうセイラ。幸か不幸か雪がクッションになって大した怪我はしなかったものの、セイラの心を折るには容易かった。
「う...私には...なにも...」
無力な自分に嫌気がさした。もう諦めてしまえという声が聞こえる気がする。諦めたくない。でもどうすることもできない。思考が終わらずセイラは立ち上がることができずにいた。もういっそこのまま雪に埋もれてしまった方が楽になるのではないか、と考えていた時異変は起きる。付近から魔力の反応がするのだ。敵か味方か判別はつかないが誰かいることは確かだ。冷静に考えるとハイスの息がかかった者である可能性が高い。この過酷な環境で住むものなどほとんどいない体。だがセイラには判断する余裕などなかった。僅かに掴んだ希望を手放すわけにはいかない。
「誰か...!!助けて!!!!」
走ったばかりで疲弊した喉からはか細い声しか出てこなかった。それでも。気づいてもらえるまで叫び続ける。同時に立ち上がろうと試みる。動いて探した方が手っ取り早い。雪原に手を突き立てゆっくり体重をかける。今度は足をしっかりと踏み込み上体を支えていく。
「誰、か――」
セイラの体力に限界が訪れていた。立ち上がった瞬間バランスを崩してしまう。再び転んでしまえば今度こそ立ち上がることは叶わないだろう。肉体的にも精神的にも。
「やっぱり...私じゃ...だめだっ...」
涙をこぼすセイラの肩を掴み支える影がいた。間一髪で転ばずに済んだセイラは何が起こったのか分からず影を見上げる。
「いいえ。あなたがここまで諦めなかったから間に合ったんです」
影の正体は黒い背広を着た黒髪の男だった。




