第5話 Q.E.D.
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「面接のルナさんですか?」
「はい。ルナです」
雑居ビルの一角、金と煙草と香水の匂いが混じる廊下を抜け、扉を開ける。
精一杯の笑顔を貼り付けて面談へ。
キャバクラ【Q.E.D.】──ラテン語で「勝ちの証明」。
革張りソファに腰を沈めた男は、金縁メガネの奥からルナを値踏みするように見ていた。
机の上には灰皿が二つ、どちらも吸い殻で山を作っている。
「君、水商売初めてでしょ?」
その声は低く、舞台俳優のように響くのに、背筋が自然と固まる。
この人の許可なく、この場では呼吸すらできない──そんな圧があった。
「…初めてです。何か問題ありますか?」
「服装が地味で化粧も薄い。何より、この“勝ちの証明”の場に馴染んでない」
店長は指でQ.E.D.のロゴを軽く叩く。
「うちは新宿でもトップのキャバクラなんだよ。意味わかるかな?」
「だからこそ応募しました」
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「動機は?」
「1000万稼ぐ為です」
「その見た目で?」
店長の視線が足元から頭まで舐め上がる。
「見た目ではなく、この”頭”で1000万稼ぎます」
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「高収入の仕事なら他にもあるよな。
もっと身体を売る仕事なら、さらに稼げる」
店長がやや声量を上げて言った
面談は始まっているのだ
ルナは短く息を整えた。
店長の指先から、シガーの煙が細く揺れ、灰皿の山へと溶けていく。
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黒服が肩に手を置いた。
「…すみませんがもうお引き取りを」
ここを逃したらもうどこも雇ってくれない
(0.05秒で策を出せ)
ルナは静かに唇を噛んだ