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第4話 残り残金
歌舞伎町のネオンは、どれも同じ色をしていると思っていた。
けれど、その中にある店の扉一つ一つは、残酷なほど違っていた。
――一軒目。
「黒髪は地味だから、うちは無理」
笑顔を作る前に、女のマネージャーが一刀両断した。
――二軒目。
「うちは20代前半は、美人だけ。基準は厳しいよ」
その言葉と同時に、目はすでに履歴書の裏側を見ていた。
ホテルのベッドに腰を下ろし、財布の中身を数える。
残り、19800円
このペースで落ち続ければ、住む場所さえ失う。
(顔じゃ勝てない。愛嬌でも勝てない。じゃあ――)
求人票のページをスクロールする。
そこに、ただ一つ、残った店名。
【Q.E.D.】
──歌舞伎町で最も稼ぐキャバクラ。
噂では、在籍キャストの半数以上が“元No.1”という怪物揃い。
だが、どんな人でも「見込みありなら」採用されるらしい
(勝てる要素は……頭だけ)
(けど、もう選べない)
ルナはスマホを握りしめ、予約の番号を押した。
「面接希望です。今日、行けます」
この電話を切った瞬間から、後戻りはできなくなる。