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第25話 口紅


少し間を置いて、ルナが答えた。

「……江口さんは、まだ出禁にはしないでください」

「は?」

佐川が口を開きかけた瞬間、店長が手で制した。

「待て。まずは月子の考えを聞こう」


「1000万円という無茶な計画を達成するには、ハイリスクが必要です。

この江口さんは危険ですが、同時に機会でもある」


店長が黙り込む。

佐川が苦い顔で笑った。

「……頭で生きるってのは、こういうことか」


周囲の黒服やキャストは「すげぇな」と囁いたが、ルナの胸は重く沈んでいた。


翌日。

席につくなり、江口がグラスを置き、こちらをまっすぐ見た。


「月子ちゃんは、どうやって口紅の色を決めてるの?」


「……“ターゲット”で決めてますね。」

「どういうことだい?」

「その日来る層に合わせて色を選んでいます。赤は購買意欲を高める色、ローズは安心感。

色は“記憶”に直結しますから」


江口はゆっくりと笑った。


「やっぱり月子ちゃんは特別だよ」


翌日、席に着いた江口の口元を見て、ルナはふと眉を寄せた。

(……あれ?江口さんの口元が、いつもと違う?)


グラスを口に運ぶ動作に合わせて、わずかに艶めく『色』が目に入る。

(江口さん口紅つけてる……?

え……そんなはず……)


じっと凝視した瞬間、胸の奥が冷たくなった。昨日、ルナが配信でつけていたのと同じ色。


ーー" ルナと同じ口紅 "


背中を氷で撫でられたように冷えた


さらに、袖口から覗いた爪先が目に入る。

淡いローズカラー。これも、月子が昨日選んだ色と同じだった。


ルナの指先がかすかに震えた。


「……その色」

「うん。昨日の君を見て思ったんだ。

僕も同じ色にしたら、仕事がうまくいく気がしてさ。

だって君の言葉は“真実”なんだろ?」


笑みを浮かべながら言う江口の瞳は、熱に濡れたようにぎらついていた。


グラスを持つ手の震えを抑えながら、ルナは答えた。


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