第17話 静かな一撃
深夜の控え室。
蛍光灯の下、ルナはパソコンに向かっていた。
「もし客単価を10万円に上げられたら……」
「リピート率を2倍にしたら……」
数式を打ち込み、シナリオを走らせる。
グラフの線が静かに跳ね上がった瞬間、彼女の目に光が宿った。
(……勝ち筋はある)
隣のソファで、夏がスマホを見ながら笑った。
「明日は配信で“お客さま感謝祭”やろうかな〜」
ルナは返事をしなかった。
ただ、エクセルに新しいシートを追加する。
《顧客別 リピート予測リスト》
夏は群衆を煽る。
自分は、たった数人を掘り下げる。
──二人の戦い方の差は、もう数字に刻まれていた。
──開店直後。
照明が点き、シャンデリアが眩しく光る。
客が入り始めると同時に、夏の笑い声がフロアを支配した。
「みんな〜今日もありがと〜!」
スマホを掲げ、配信が始まる。
コメント欄が一瞬で埋まり、周囲の空気が熱を帯びる。
〈夏ちゃん今日も可愛い!〉
〈乾杯しに行く!〉
〈ボトル開けた人スクショで送るわ〉
──数の暴力。
たとえ一人あたりの単価は低くても、群衆を集めることで成立する“夏の戦場”。
ルナはその光景を横目で見ながら、控えめにVIPルームへと足を運んだ。
今日のターゲットは、昨日ノートに書き出した“顧客候補リスト”の中のひとり。
中年のスーツ姿。
テーブルの上にはまだ開いていないグラスだけ。
ほとんどの嬢が素通りしていった男の隣に、ルナは腰を下ろした。
「……こんばんは」
「……ああ」
反応は淡白。だがルナはすぐに気づいた。
テーブルに置かれたキーホルダー。そこには、古びたロゴが刻まれていた。
《子役・小山夏 公式グッズ》
(……夏さんの元ファン)
男は無言で氷を弄んでいたが、ルナが小さく切り込む。
「そのグッズ……昔のですか?」
視線がわずかに動いた。
「……ああ。応援してたんだよ、ずっと」
「ずっと?」
「うん。でもね。あの頃は……必死さがあった。今の夏ちゃんは……可愛いけど、空っぽだ」
男の手がグラスを握り締める。
「だから、もう応援できなくなった」
ルナは一拍置き、静かに言った。
「……私は、必死です」
沈黙が落ちた。
だがその瞬間、男の瞳が揺れた。
「君のその顔、昔の夏ちゃんを見ているようだな。はは」
「そう見えますか?」
「……うん。なんだか。ボトル、入れたくなる」
ルナは笑わなかった。
ただ、確信を持って頷いた。
──その夜、彼女の前に並んだのは「百万円のボトル」
歓声は上がらない。配信もされない。
だがフロアの片隅で黒服たちが驚愕の目を見開いていた。
夏の配信が派手に盛り上がる中、
ルナの“静かな一撃”が火を灯した。
夏(No.4):
・指名本数 85本
・来店客数 78人
・客単価 平均22,941円
・売上合計 約195万円
月子:
・指名本数 6本
・来店客数 6人
・客単価 平均283,000円
・売上合計 約170万円
【現在ステータス】
資金:182万円
残り:818万円/328日




