第16話 ニッチマーケティング
──深夜のバックヤード。
照明を落とした部屋に、パソコンの光だけがぼんやりと浮かんでいた。
売上管理の画面を開き、ルナは指先でスクロールする。
「……まだ勝てない」
夏(No.4):
・指名本数 72本
・来店客数 65人
・客単価 平均16,000円
・売上合計 約115万円
月子:
・指名本数 5本
・来店客数 5人
・客単価 平均140,000円
・売上合計 約70万円
夏の名前の横には、圧倒的な数字。
指名本数、来店数。どれを見てもルナを大きく引き離していた。
(私は……太客を一人ずつ積み上げているのに)
VIPでドンペリを下ろしてくれた客もいた。
リピートも確実に増えている。
それでも、夏の“ファンの群れ”には遠く及ばない。
画面の光が揺れる。
吐き出したため息が、空気を冷やした。
「……このままじゃ、負ける」
「なーんだよ。月子ちゃん。
まだ帰らねーのか?」
「…佐川さん。暇だからって話しかけないでください」
「いいじゃねーか。それともなんだ。
高いボトル開けさせたから夏より疲れてんのか?」
「夏さんの方が売上がいいのに夏さんより疲れてるわけないでしょ…」
マウスを握る手が震えた、そのとき。
ふと、ある欄に目が留まった。
──客単価。
夏:指名本数 72 / 客単価 平均1.6万円
月子:指名本数 5 / 客単価 平均14万円
「……え?」
思わず声が漏れる。
夏の売上は確かに大きい。だが内訳を見ると、ほとんどが“低単価の一見客”。
一方で、自分の数字は少数精鋭。確実に金額を積み上げていた。
「…マスマーケティングと
ニッチマーケティングの差だ」
「なにそれ?」
ルナは慌ててノートに図を書いた
「つまりですね…
夏さんは……『広く浅く』売ってる
私は……『狭く深く』売ってる
もし、この『深さ』をもっと拡張できたら……!」
心臓が高鳴る。
頭の中で、計算式が組み上がっていく。
「おい帰んのか?一緒に飯食ってから帰らねえ?」
「外食は高い!自炊一択です」
ルナは思考を巡らせた
──単価 × リピート率 × 継続期間。
これを最大化すれば、数の暴力に対抗できる。
つまり、
「……勝てる」
小さく呟いた声は、自分を奮い立たせる呪文のようだった。
【現在ステータス】
資金:82万円
残り:918万円/330日




