表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

第11話 中毒

陽はオレンジ色のドレスを翻し、弾むようにルナへ微笑みかけた。

「ルナちゃん、私にパワーを与えてくれる」


「え、あの……」


「ねぇ、ねぇ、良かったら私と──」


「ちょっと陽さん。お祈りの時間じゃないですか?」

春が割って入り、軽く肩を押した。


「あ、そうだった。じゃあね〜!」

陽は笑い声を残し、駆け足で非常口へ消えていった。


「相変わらず予測不能だよ、陽さん」

「でも、あの性格で月収200。年にして2000万は稼いでるらしい」


その会話が耳に入った瞬間、ルナの動きは止まった。

──200万円 × 12ヶ月。雑費を引いても手取り2000万。

これが〈Q.E.D〉というキャバクラの力。


「完全な素人の私が、ここで一千万を稼ぐには……」

唇を噛み、彼女は心に刻む。

「トップの嬢たちを観察し、検証し、実践するしか道はない」


それからの二ヶ月、ルナは毎晩ノートを埋めた。

黒服の足音の速さ。

タバコを差し出す時に笑顔を見せる客の傾向。

注文をねだる春の声のトーン。

──すべては数字になる。


帰宅すると、その日の配置図と売上をエクセルに打ち込み、

少しずつ形を変えていくグラフを無言で眺めた。


ある夜、バックヤード。

佐川がタバコをふかしながら言った。

「この街の嬢ってのはな……ほとんどが中毒者だ」


「中毒?」

グラスを拭いていたルナの手が止まる。


「そうだ。客を中毒にする前に、自分が何かにハマって壊れていく」

佐川は指を折り、例を挙げる。

「スマホゲーに何十万も突っ込むやつ。酒を飲まなきゃ手が震えるやつ。感情の起伏がジェットコースターみたいなやつ……」


「……」


「財布だけじゃねぇ。脳みそまで吸われていく。この世界そのものが中毒なんだ」

吐き出した煙が、ゆらりと揺れた。


ルナはパソコンを叩く手を止め、佐川を見据えた。

「だから私は、1000万稼いだら出ます。自分の商品価値が壊れる前に」


佐川は鼻で笑った。

「……本当に出られる女は、少ねぇぞ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ