第10話 トップキャバ嬢
閉店後、ルナに話しかけに来た女がいた
春だ。店での張り付いた笑顔はなく、別人。目つきも悪い。
春がルナに接近しに来る。
「たまたまでしょ?」
「たまたまです。ダムの話も大学の授業で学んでいたから話が弾んだだけ。」
「じゃあいつまでここにいれるか分かんないね」
「それは決まってます。
1000万稼ぐまでです。」
「え?」
「1000万稼ぐまでです。」
そうルナは春に言う。
臆せず誇張もなく事実として伝えるルナの顔に陰りはない。
春はほんの一瞬だけ、まぶたを二度ゆっくりと瞬かせた。
歪んだ顔の春だったが、それでも息を呑むくらい美しい。その造形はまさに人気キャバクラ店のNo.3だった。
「いい?キャバに最も重要なのは
愛嬌と色気。最終的に見た目が勝つの」
「いいえ。キャバに必要なのは論理。最終的に勝つのは統計です」
二人の視線がぶつかる。
一歩も引かず、静かな火花が散ったそのとき――
「いいんじゃない?すっごく素敵!」
背後から、甲高い声が空気を裂いた。
振り返ると、そこに立っていたのは圧倒的な美貌。
無邪気に笑うその姿は、場の空気すら明るく塗り替えてしまう。
No.1の――陽。
「月子ちゃんからはね、なんていうか…身体から並々ならぬエネルギーを感じるよ〜」
ルナは静かにその姿を見据えた。
(この人が…No.1、陽。
Q.E.D.で一番、売り上げを誇る女……)