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第1話 客の財布を開ける数式
「見た目が良くない女に価値はない」
吐き捨てるような声に、場の空気が冷えた。
女同士の評価は、男以上に冷酷だ。
顔、服、仕草。
一瞬で値札を貼り、切り捨てる。
だがルナは微動だにしない。
「そんな事ない」
静かに、しかし確信を込めて返す。
指先でグラスの水滴を拭いながら、数式を口にした。
「指名客 × 平均単価
売れるかどうかは、これで決まる」
数字を盾にするように、まっすぐ相手を見据える。
その目は「感情の世界に私を引きずり込むな」と言っていた。
「私は、見た目じゃなく“頭”でシャンパンを売る」
沈黙が落ちた。
嘲笑も同意も、まだ誰も返さない。
“偏差値72の理系女子”、藤原ルナ。
キャバクラにマーケティングを持ち込んだ唯一の女である
──歌舞伎町のネオンは、彼女にとって実験場だった。
雑居ビルのひとつひとつが、生きたデータだった。
ここから、藤原ルナの“マーケティング戦争”が始まる。




